第13話 高級食材!?
ナビちゃんのいうとおり、岩の隙間がないところにある採取ポイントでアワビが取れた。
(やった! 高級食材ゲット!)
《アルステラではあまり高級ではないのですよ》
現実世界だとアワビは高級食材で、手のひらくらいの大きさがあれば軽く1万円くらいの値がつくよね。生で海鮮料理や寿司などに使われたり、乾燥させて中華料理で使ったりするという需要があるからで、ゲームの中ではアワビを食用にする文化がないってことかな。
《乾燥させて、保存できる形で内陸の町に売られていくのです》
(へえ、確かに貝類は乾燥させれば日持ちするもんね)
でも、ただ干せばできるというものではなくて、酒蒸しや塩茹でにして殺菌したあと、2週間くらい干さないといけないんだよね。これは漁師の仕事じゃない。調理師の仕事のような気がしないでもないけど、他にも干物にしている魚もあるだろうし……。
(取ってきた貝を干すのはどの職業でやるの?)
《町や村の人たちの仕事なのです》
火を入れてから2週間くらい干せる場所が必要になるからね。自分の家がないかぎりプレイヤーが作るのは難しいってことなんだと思う。だったら漁師ギルドに卸す必要があるけど、そのときの売値は高くはないってことなのかな。まあ、そのまま食材として調理師ギルドで使うかも知れないからインベントリにしまっておけばいいよね。
アワビが取れた採取ポイントを見ると、キラキラがなくなっていた。でも、5ⅿほど離れた場所で新たにキラキラと光る場所ができている。
(あれ、採集家のときは1か所で5回くらい採集できたよね。刺突漁の時は違うの?)
《そうなのです。漁師の採取ポイントは採取回数は1回になるのですよ》
(どうして?)
《そのほうが自然に近いからなのです》
確かに、同じ場所ではなくて近いところで取れるほうが実際の刺突漁っぽいね。
と、考えている間に視界が全体に薄い黄色に色づいた。
《潜水可能時間がのこり30秒を切ったのです》
(うん、わかった)
私は岩を蹴り、海面に向かって泳ぎ始めた。
特になにかに邪魔されることなく海面に上がると、視界を覆っていた黄色が少しずつ消え、元の青空と深い紺色の海だけが視界に入った。火山島は背後にあるはずだね。
海中にいたから息が弾むということもないので、私はそのまま海の中へ戻った。
想像したとおり、岩と岩の隙間にある採取ポイントではナビちゃんが銛を使うように言ったので銛を使って突いたところ、レインボーロブスターが取れた。体長80㎝くらいあるロブスターは、銛の先でギイギイと威嚇の声をあげていたけど、銛を抜いたとたんにインベントリに入っていった。
何度か海面に上がって、再び潜って……というのをくり返しながら刺突漁をくり返していると、採取ポイントが2つ重なったところがあった。そこでは、それぞれウニが取れた。どうやらウニは似たような場所に集まるみたい。
刺突漁を開始して、20分ほど経過したところで3つめのアワビを手に入れると、ナビちゃんの声がする。
《アワビを捕まえたのです。
漁師経験値32×2を獲得したのです。
漁師クエストNo.5「刺突漁を覚えよう」が進んだのです
デニスに報告に行くのですよ》
これで、レベル20の漁師クエストの課題はクリアしたから、あとは生産ギルドに戻って報告するだけ。でも、採掘家のほうでもクエストが残っていたはずだよね。
(ナビちゃん、採掘家で受けているクエストって何だっけ)
《3つの原石というクエストを受けているのです。ダンブリ石、孔雀石、蛍石を各1個、採掘してアレンに報告するのですよ》
(それは第4層で採れるんだっけ?)
海面から顔を出し、視界に表示された採掘家クエストの内容を見ながらナビちゃんにたずねる。
《アレンの話では、第4層で採れるのですよ》
(ありがとう。じゃあ、第4層に向かおうか)
ひらひらと飛び回るナビちゃんが、私に向かってサムズアップして頷いている。
ただ、問題は再びこの火山島の外周部分をよじ登り、ハーブ園を通って第4層に向かわないといけないことだね。
岩だらけの岸に上がったところ、海水に濡れたミッドレンジギャザラーセットSは、1分もしないうちに乾いてしまった。海水だから塩分がどこかに固まったりするかと心配していたんだけど、杞憂だったみたいだね。おかげで六角形の石の柱が並ぶ岸壁を登るのにも服が邪魔になることがない。
前回同様、数分で断崖に立つ柱状節理の上を駆け上がっていく。ゲームの中だから心臓が跳ねることもないし、息が切れることもないのはありがたい。
火口部分は相変わらず様々な植物に覆われ、色とりどりの花が咲いている。今は漁師としてミッドレンジギャザラーセットSを着ているけれど、装備を変更すると辺りは採集スポットだらけになる。
「う、採集したい……」
思わず呻くような声がでた。
近くにお花畑があるような場所に住んでいなかったというのもあるけれど、幼いころは何も見えず、花の冠をつくって遊ぶような機会もなかった。いや、ついでに言えば一緒に遊んでくれる友だちもいなかったんだけどね。だから、余計にお花畑に憧れがあって飛び込みたくなっちゃう。
《採集家になるのです?》
(ううん、我慢する)
私の悪い癖で、目に入ったこと、気になったことがあればすぐに道を逸れてしまう。そのことを反省しながら返事をすると、気の抜けたような返事になってしまった。
《バイタルに異常はないのです。疲れているのです?》
(大丈夫。何でもないよ。ただ、お花畑に目移りしちゃって、ここに来た目的を忘れそうだから反省していただけ)
《だったらいいのです》
私は迷いを掃うように歩き出し、第4層に続く入口を潜った。
(こっちに行こう)
《前回とは逆なのです?》
(だって、前回のルートだとお目当ての鉱石が採れる場所がなかったでしょ?)
《確かに採れなかったのです》
第4層は再び洞窟型になるんだけど、前回は左側に進んだんだよね。でも、そのときに第5層への出口を見つけたわけじゃないし、目当てであるダンブリ石、孔雀石、蛍石が採れる場所はなかった。だから、今回は右側に進むことにした。
仄暗い通路は、左に進んだときと同じでそれなりの幅がある。
「グギャギャギャッ!!」
「ゴギャグギョッ!!!」
奥のほうから歩いてくるゴブリンの集団から声が聞こえてきた。でも、私の今の装備はミッドレンジギャザラーセットSだからね。スニークに加えて、気配遮断までついている。足音はしないし、息を殺さなくても呼吸音は漏れださない。
「ゴギャギャッ」
「ゴギャッ、ゴギャゴギャッ!」
ゴブリンファイターが2匹、その後ろにゴブリンメイジが1匹くっついて私が歩く横を通り過ぎる。まったく気がついていないみたいだから攻撃したくなるけど、今の目的はダンブリ石、孔雀石、蛍石を手に入れること。とりあえず、壁際で立ち止まってMOBが通り過ぎるのを待つ必要がなくなったことが確認できただけでも大収穫かな。
(あ、装備が漁師のままだった……)
《採掘家になるのです?》
(うん、お願いします)
返事をすると、見た目は同じままだけれど右手に持つ道具がカギノミからツルハシに変わった。
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