第12話 み、水着!?
別に泳げないわけじゃないんだよ。一応は完全防水なんだけど、XRDを水中で長時間使うのは怖いから、水泳の授業などで泳いだことがないだけ。もし壊れたら日常生活に影響がでるからね。まあ、こういうのをカナヅチっていうのならそうかも知れないけど……。
でも、VRでオリンピックゲームをするものもあって、水泳なども競技に組み込まれてるから、VRでは水泳をした経験がある。だから、泳げるんだよ。
(いや、泳ぐのはできるけど、潜るのは初めてかも)
《お尻を上げて頭を下にすると自然に潜ることができるのです》
(へえ、そうなんだ)
そう、私はVRの中なら泳いだ実績があるんだから、あとはお尻を持ちげて潜るだけ。潜ってしまえば大丈夫なはずだけど……
(この装備で潜れるの?)
ミッドレンジギャザラーセットSの見た目は農夫なんだよね。白いシャツにオーバーオールって感じの出で立ちだし、ブーツは爪先に鉄板が入ったスチールトゥとか、安全靴と呼ばれるタイプのもの。こういう服は濡れると貼りついて動きにくくなって溺れちゃうんじゃないかな。
《水に入れば、装備に対する水の抵抗は無視されるのです》
(そんな機能まであるんだね!)
《水着を持っていれば、水着を着ているように見えるようにできるのですよ》
(み、水着!?)
だ、誰に見せるわけでもないし、あくまでもゲームのキャラが着るだけだから恥ずかしいわけじゃない。寧ろ、宗教上の理由で他人の前で肌を晒すことを許されていない人たちにとって、水着だけになって海辺や海中を楽しむことができるんだからいいことだよね。
でも、私はハーフリングだから種族的に……なんていうか、貧相だから。
《裁縫師のレベル20になれば作成可能なのです》
(撥水加工とかどうするのよ)
《蚯蚓の粘液を使うのですよ》
(あ、そういえば持ってたね……)
ビーチサンドワームを倒したときにドロップしたアイテムだね。
他にミミズを倒したことがないから、間違いないと思う。
とにかく、裁縫師を始めてレベル15になれば水着が作れるんだから、戻って裁縫師に……は、いいかな。先ずは、メインクエスト以外を終わらせることに目標を置こう。
水着はあとで楽しめばいいからね。
(じゃあ、このまま海中に飛び込んだら服が体に密着するから、お尻をあげて頭から水中に潜る、でいいんだね?)
《はいなのですっ》
(息継ぎはどうすればいいの?)
《潜水可能時間は3分。2分30秒から視界全体が黄色がかった色になり、2分50秒で赤になるのです。10秒間、水面に顔を出していれば再び潜ることができるのです》
赤くなってから浮かび上がるまで10秒、いや9秒とか8秒で浮きあがれる深さがどのくらいなのかな。それによって、潜れる深さが決まるよね。
(ナビちゃん、潜水できる深さの限界はあるの?)
《レベル20までは10mなのです。レベル20になれば20ⅿまで潜れるようになるのですよ》
(10mの深さから浮上するのに何秒かかるかわかる?)
《概ね1秒で1ⅿなのです》
私の漁師レベルは21だから、既に20ⅿまで潜れるってことなのかな。
20ⅿから浮上するには2分40秒になる前に浮上しないといけないってことね。
(ナビちゃん、潜水開始してから2分40秒になる前に教えてくれる?)
《視界が黄色くなったら上がればいいのですよ》
(あ、そっかあ)
20ⅿまで潜っているときでも、視界が黄色くなったら浮上するようにすれば確かに問題ないよね。
他にも心配なこともあるけど、ミッドレンジギャザラーセットSを着ているからスニークと気配遮断の効果があるし、よほどのことをしないと戦闘になることはないと思う。
「案ずるより産むが易しっ!」
言って、私は海に向かってジャンプした。
《ここは浅瀬なのですよ》
(う、うん……)
深さ30㎝ほどのところに両足から下りたけど、波打ち際のせいもあって特に大きな音がすることもなく、着地しちゃった。
でも、オーバーオールの膝から下だけは海水の中でゆらゆらと揺れているけど、濡れた服を着ている感覚もないし、服の抵抗も感じないので動きやすい。
《ゴーグルを着けるのです》
(あ、そうだね)
ナビちゃんのアドバイスに従い、中級漁師セットに入っていたゴーグルを取り出した。競泳用のゴーグルとは違って、シュノーケリングなどで使うタイプだね。
腰まで浸かるところまで進んでからゴーグルをかけると、いよいよ頭をあげて泳ぎ始める。ミッドレンジギャザラーセットSはすっかり水浸しになっているけど、全然邪魔にならない。最低限の水の抵抗のようなものは感じるし、海だから波があるけど、浮力があって泳ぎやすい。水温も特に感じるような設定になっているわけじゃないようで、感覚的には地上と変わらないかな。
えっと、お尻を上げるようにして、頭を下に下げるんだよね。
水中でお辞儀するような感じかな。
息を思いっきり吸い込んで、止めると、まずお尻を突きあげるように持ちあげた。自然と頭と足先が下に折れるようなかたちになり、体が沈み始めた。
《息は止めなくてもいいのですよ》
(あ、そ、そうだね……)
ゲームの中だから、息を止める必要はないのについ止めてしまった。
ナビちゃんの声を聞いて息を少し吐いたけど、私は再び息をのみ込んでしまった。
視界いっぱいに広がる海の中の世界。
ゴツゴツとした磯場になっているけど、イソギンチャクや珊瑚などが張り付いたところもあって、荒々しくも、生物の営みを感じられる。だが、それ以上に、海水の透明度が高く、遠くまで見通せる気がする。そこに色とりどりの魚が群れをなし、ダンスを踊るかのように泳いでいて、海面から差し込む光を反射してキラキラと輝いて見えた。
特に足をばたつかせたりすることもなく、気がつくと5ⅿほどの深さまで潜っていた。
確か、捕まえるのはレインボーロブスターを1匹と、アワビを3個。
ロブスターって普段は岩場に隠れているんだっけ。
左右の足をゆらゆらと縦に動かしながら、海中を進む。
そんなに速くないけれど、遅くもない。ただ、海の中を泳ぎ、今は視界に入る小さな魚たちの姿を見て楽しんでいた。
すると、岩場にキラキラと光る何かが見えた。
(あれは……)
《採集と同じで、そこに獲物がいるときに光るのですよ》
ゴクリと息を飲んでその光る場所へと近づいていく。
近くから見ると、岩の隙間ではなくて、岩の表面が輝いていた。
《平たい場所にいる獲物は、貝類の可能性が高いのです。カギノミを試してみるといいのです》
(これ?)
インベントリから取り出したのは、片側が平たい金属の板になっていて、反対側が鉤状をした日本の海女さんが使う道具――カギノミだった。平たいところでアワビやトコブシ、カキなどの岩場に貼り付いた貝類をとり、鉤状になったところでウニのようなものを捕まえることができる。
私は光る採取ポイントにカギノミの平たいところを突きさすように押し当てた。
するりとカギノミが岩盤に突き刺さるような感触がした後、ナビちゃんの声が脳内に響いた。
《アワビを捕まえたのです。
漁師経験値32×2を獲得したのです。
漁師クエストNo.5「刺突漁を覚えよう」が進んだのです》
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