第11話 いざ素潜り!?
ホバーボードをつくるのに必要なホバーコアは2つ。
途中でブラックバレットが釣れたり、ジェットスクイドが釣れたりもしたけど、順調に釣りあげて止めを刺した。
私がレベル10のクエストを終わらせれば中級漁師セットを貰えることを話したせいか、ずいぶんプレイヤーが減っている。とはいえ、釣り糸を垂れているプレイヤーもまだまだ多い。
(あのあたりだけ、人が多いね)
《アングラーがいる場所なのです》
(あ、そっかあ)
既にリリアから受けた「お兄ちゃんが帰ってこない」というクエストは報告済だから、アングラーもまた戻ってきているみたい。
スカウトセットSに着替え、人ごみの中をすり抜けるようにしてアングラーに近づいて声を掛ける。
「アングラーさん、もう戻ってきたんですか?」
「お、アオイじゃないか。そういうおまえも戻ってるだろ?」
「え、私はホバーボードを作るためにホバーコアを取りにきたんです。アングラーさんは?」
「俺はまあ……魚を釣るのが仕事だからな。それに、家にいてもクソ親父が煩くてな」
そういえば、アンガーとアングラーは仲がいいとは言えないみたいだったね。
家にいて落ち着かないっていうのは、またこの釣り場に戻ってくる理由にはなるよね。
「またリリアちゃんから捜索願が出るくらいまでここにいちゃだめですよ?」
「ああ、わかってるさ」
釣竿を振り、疑似餌を遠くに飛ばしながらアングラーが返事をした。
とはいえ、ダンジョンの中にいると時間感覚が狂ってくる。第1層や第2層は洞窟状で薄暗い場所だし、逆に第3層はずっと太陽が頭上で輝いているから仕方がない。
「それで、第4層には行ったんだろ?」
アングラーが相変わらず垂れた糸を見たままたずねる。
「ええ、行きました。キラーフィッシュは難敵でした……」
「すごいな。俺も第4層に行ってみたいけど、キラーフィッシュがなかなか通してくれないんだよなあ」
「キラーフィッシュは回遊しているので、その背後についていればあまり怖くないですよ」
「ん、どういうことだ?」
アングラーは私のほうに顔を向け、首を捻った。
そんなに難しいことを言ったつもりはないけど、アングラーは半分くらい糸の先に意識を持っていかれているからちゃんと聞こえてなかったのかな。
「キラーフィッシュは集まって同じところをクルクルと回っている魚なので、一番後ろについていれば……」
私は両手をつかって、動きを説明した。
「こっちがキラーフィッシュで、こっちが私。キラーフィッシュの後ろに私がつけばこんな感じで……後ろのキラーフィッシュから見えてないわけじゃないけど、わざわざ向きを変えてまで飛んでくるのは少ないんです」
「そりゃ盲点だったな。じゃあ、俺も島に行けるってことか」
「ええ、島に行けばいろんな花が咲いてますよ」
火山島ハーブ園は本当にきれいなお花畑だからね。アングラーのような男性には興味がないかもだけど。
「いや、島に行く目的はマッドクラブなんだよ。あと、潜ればいろんな貝が採れるからってのもあるかな」
まあ、漁師としてカニに興味があるのはわかるけど、マッドクラブってなかなか強い魔物じゃなかったっけ。
この第3層まで一人で来ているところを考えると、アングラーって結構強いのかな。
いや、それよりも……
「刺突漁って、火山島の周辺でやるものなんですか?」
「うん、この辺りの磯は浅すぎて大きな獲物は期待できないからね」
「へえ、そうなんだ」
と、いうことは……刺突漁をするクエストをクリアするには火山島まで行かないといけないってことだね。
「ああ、この辺りだと潮干狩りくらいしかできないよ」
「え、でも砂浜にはモンスターがいるから難しいんじゃない?」
漁師セットには熊手なども入っているので、潮干狩りをすることもできるんだろうと思う。ただ、ここの砂浜だとビーチサンドワームがでてくるし、波打ち際だとサンドルーパーもいる。
多くのプレイヤーは未だビギナーギャザラーセットでさえ揃っていないみたいだからスニークがないし、砂浜を熊手などで掘ったりするとビーチサンドワームを呼び寄せてしまう。
「うん。だから、砂浜でとれる貝類は嘆きの海岸でとれたものしかないんだ」
「へえ、いろいろと教えてくれてありがとう」
「いやいや、こちらこそ世話になったからな……」
アングラーは釣り糸に視線を向けて、ちょっとぶっきらぼうに話してるけど、確かにいろいろあったからね。
おっと、久しぶりにアングラーの好感度を見てみようかな。
<鑑定>
名前:アングラー
種族:猫人族
職業:漁師
状態:普通
好感度:★★★★★
わあ、好感度が最高になってる。
ここまで上がったなら耳とかもふもふさせてくれないかな。
「ん、なんだ?」
鑑定のためにジッと見つめていたら視線に気づいたのか、不審な目で見返された。
考えてみると、NPCに触れることもできないから、もふもふできるわけがないんだよね。
「ううん、何でもない。私は漁師ギルドで刺突漁でとった貝を届けるように依頼されてるから、島にいってくるね」
「おう、気をつけてな」
「うん、ありがとう」
最後に言葉を交わし、私はダンジョン第3層の砂浜を後にした。
全身にミッドレンジギャザラーセットSを着ているおかげで、ホバーボードで移動してもMOBに気づかれることがない。
第3層の入口に移動し、そこからフロアポートを使って第4層入口へ飛んだ。
第4層入口から、火山島ハーブ園の中央にある第3層出口に出ると、そこから外周に登って岩壁を下りる。落ちると海の中だけど、HPが0近くまで下がってしまい、更にはマッドクラブに襲われて死に戻りしかねないからね。慎重に、慎重に柱状になった石の上を下りていく。
視界には青空と水平線だけが広がり、耳には打ち寄せる波の音だけが聞こえてくる。海上を見渡しても、誰ひとりいない。第3層まで辿り着いたプレイヤーたちはたくさんいるんだから、そろそろホバーボードを手に入れていてもおかしくない。
(他のプレイヤーは、キラーフィッシュの群れに襲われて撃沈してるのかな)
《そうかも知れないのですよ》
ナビちゃんが珍しく適当な返事をした気がした。
パーティを組んで移動していたとしたら、仲間が死に戻ってくるのを海岸に戻って待ったりするんだと思うんだよね。
大勢のプレイヤーがいる中でも、NPCとの会話は他のプレイヤーには聞こえない。だから、他のプレイヤーにキラーフィッシュの対策方法は伝わっていないんだよね。
とはいえ、聞かれない以上は私も教える気はないけど。
岩だらけの海岸に下りても、気配遮断とスニーク効果のおかげで以前のようにマッドクラブが襲ってくることはない。
視界にはゴツゴツとした岩礁が露になった磯。これから海に潜って貝を採ってくると思うと、ドキドキする。
《潜らないのです?》
(ね、ねえ、ナビちゃん)
《どうしたのです?》
(潜るってどうやるの?)
《もしかすると……》
ナビちゃんが視界の中心でホバリングしつつ、訝しげな視線で私を見た。
《アオイはカナヅチなのです?》
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