第10話 釣りは静かに

 とにかくプレイヤーが多い……。


 ダンジョン第3層の海岸線は、海を渡るのに必要なホバーボードの素材を求めてやってくるプレイヤーでいっぱいだ。

 私もホバーコアがなければ魔道具師のクエストを進められないので、同じように釣り糸を垂れている。

 領主の城でギャザラーのチェーンクエストを終わらせると、私はテレポでポータルコアに飛び、そこからブランチコアを使ってダンジョン入口に移動した。あとは、フロアポートを使って第3層の入口まで移動するだけ。ホバーボードに乗れば移動時間は3分の1くらいで済んだ。


 装備は、セバスから貰った新しいものに変更した。


  (右手)ミッドレンジフィッシングロッド

  (左手)なし

  (頭)ミッドレンジギャザラーキャップS(DEX+10)

  (体)ミッドレンジギャザラーシャツS(DEX+20、 VIT+20)

      【非】ミッドレンジギャザラーベストS(STR+10、VIT+10)

  (背)【非】ミッドレンジギャザラーマントS(+スニーク)

  (腰)【非】ミッドレンジギャザラーベルトS(STR+10)

  (脚)ミッドレンジギャザラーボトムS(STR+20、VIT+20)

  (手)ミッドレンジギャザラーグローブS(STR+20、DEX+20)

  (足)ミッドレンジギャザラーブーツS(STR+20)

  (耳)冒険者のピアス(経験値2倍)

  (首)なし

  (腕)なし

  (指)なし


 装備が変わることで全体的にステータスが上がっているんだよね。

 ダンジョンや町の外にはMOBがうろうろしているし、ギャザラーのレベルが上がると、強いMOBが多く生息しているところで作業しないといけなくなるからね。それなりにHPや防御力が上がるように考えられているんだと思う。

 それに、セットボーナスというのがあるみたいなんだよね。


 <鑑定>

 名前:ミッドレンジギャザラーグローブS

 性能:STR+20、DEX+20

 説明:ギャザラー系職業が着用できるグローブ。力と器用さに

    補助効果がつく。

    セットボーナス:気配遮断


 セットボーナスで気配遮断がついているので、スニークとあわせてMOBに見つかる可能性がかなり低くなった。スニークだけだと、ホバーボードを使って移動するときにMOBに見つかっちゃうんだけど、気配遮断があると見つからないみたいなんだよね。

 それに、ビーチサンドワームのような足音や匂いでプレイヤーを察知するMOBにも有効だから安心して移動できる。


 問題は認識阻害がないことで……。


「その装備はどうやって手に入れるんですか?」

「すぐにホバードラゴンが釣れる方法ってありますか?」

 …………

 ……

「フレンド登録してもいいですか?」

「一緒にSS撮ってもらってもいいですか?」


 と、周囲がとてもうるさい。

 基本的にほぼ同時に皆がしゃべっているので、ざわざわとした雑音でしかないけど、私の耳元で大声で話しかけてくる人たちの声ははっきりと聞こえてくる。でも、この人たちは、釣りをしているときに大声を出したりすると「魚が逃げる」と聞いたことはないのかな。魚の「あたり」がわからなくなるほど集中できないってわけじゃないけど、私としては静かに釣りを楽しみたいんだけど……。


「装備は、漁師、農家、採掘家、採集家のギャザラー系職業のレベルが全て15になったら受けられるクエストで貰えます。頑張ってください。あと、すぐにホバードラゴンが釣れる方法は、静かに釣りをすることです」


 垂れた糸の先を見つめながら、誰からもわからない質問に対して答えていく。ホバードラゴンが釣れる方法については適当に答えておいたけど、釣り全般に言えることだからいいよね。


《John Smithからフレンド申請が来ました。許可しますか?》

(拒否で!)

《Jose Fernandezからフレンド申請が来ました。許可しますか?》

《Samantha Davesaからフレンド申請が来ました。許可しますか?》

(ああもう……話したことがない人は全部拒否にしちゃって)

《了解なのですよ》


 大量にフレンド申請が飛んでくるけど、1人ひとり対応していたらキリがないからね。


「フレンド登録いいですかって、もう申請してきてるじゃないですか。ちゃんとお話をしたことがない人は登録しませんので、悪しからず……」


 周囲のプレイヤーに向けて、ちゃんとフレンド登録の方針だけは伝えておく。せめて互いに自己紹介をして、顔を合わせるたびに挨拶するていどの関係になってから、フレンド登録するくらいにしたいんだよね。ほら、ノアやラルフも挨拶くらいはしてくれるし。


 竿先が小刻みに震える。魚が針先についた疑似餌を突いている証拠だ。

 何度かそれが繰り返され、それまでとは強さの違う引きがやってきて、私は竿を強く引く。釣り針が口先に刺さって暴れる魚の動きが振動となって道糸を伝わり、竿から私の腕にビビビッと伝わってくる。この瞬間が気持ちいい。

 リールを巻いて右へ、左へと暴れる魚を引き寄せ、釣りあげた。


《サバを釣りあげたのです。

 漁師経験値14×2を獲得したのです。

 サバ×1を入手したのです》


 まあね、左右に走っている時点でサバだってわかってけどさ。


「おおお……う、うん……」


 釣りあげた瞬間、周囲は小さくどよめくんだけど、釣れたのがサバだとわかって、周囲のプレイヤーも一緒に落胆してくれる。

 私が釣っているのを見るよりも、自分の釣りに戻るほうがいいと思うんだけどな。


「釣りの最中なのでSS撮影は無理ですよ」


 SS撮影は偶然映りこんだりすることもあるだろうし、断ることなんてできないと思うけど、一緒に肩を並べて撮影するとかは無理。別にアイドルや有名人でもないんだから、私なんかと一緒にSS撮っても何になるわけでもないし。


 ホバーボードで海上に出て釣りをするということも考えたんだけど、ブラックバレットが掛かったりしたら、釣りあげるどころか沖合にまで引きずり回されると思ってやめたんだよね。だって、ブラックバレットがキラーフィッシュの群れの中に突っ込んだら、たぶん私も死んじゃうと思うし。


 その後はもう、定期的に繰り返される質問に答えながら釣りを続けた。

 ジェットスクイドを2匹と、ホバードラゴンを1匹釣り上げたあとに、再びジェットスクイドが掛かった。でも、一直線に逃げるようなあたりが来たあとに、ズシンと竿が引かれた。

 ぐいぐいと深く潜ろうとするかのような逃げ方はブラックバレットだ。でも今回は80㎝くらいと小さめだったせいか、軽く釣り上げた。


「ブラックバレット、初めて見ました」

「すごい!」


 釣りあげたときはそんな声が周囲で上がったんだけど、どうやらほとんどのプレイヤーは初級漁師セットに入っているビギナーフィッシングロッドを使っているみたい。

 レベル10になれば中級漁師セットを貰えるのに、ホバーボードが欲しいものだから初級漁師セットでそのまま第3層に来ているんだろうね。


「レベル10の漁師クエストを終わらせると、報酬で中級漁師セットを貰えます。その道具なら釣れると思いますよ」

「え、そうなん?」

「マジか!」


 周囲がざわつき始めるけど、私は何でもないことのようにブラックバレットをインベントリに収納し、再び糸を垂れた。

 慌てて町に戻ろうとする人たちもいるから、少しは静かに釣りが楽しめそうだね。






*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*


以前は、非表示の装備は【非表示】と記載していましたが、改行されてしまうので【非】にしています。

ご容赦ください。

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