第6話 認識阻害と気配遮断
《気配遮断は、気配を消すスキルなのです。スキル書を読むと覚えることができるのですよ》
(うん、もうちょっと具体的に、認識阻害との違いを教えて欲しいかな)
レベル25のクエストを完了したけれどレベルは27のまま。
スカウターギルドの外でクエストを進めたり、グラーノ森林地帯の冒険者手帳を埋めたりしないとレベル30までは遠いような気がするんだよね。
スカウターギルドの外に向かって歩きながらナビちゃんにたずねた。
《気配遮断は認識阻害を補助するためのスキルなのです。認識阻害は対象のプレイヤーに周囲のプレイヤーやモンスターが視認するのを邪魔するものなのです》
(邪魔をするということは、透明になるわけではないってこと?)
《そうなのです。透明ではなく、見えてはいるけど認識できないようにするのが認識阻害なのです》
存在感を消して気がつかないようにするのかな。だから声を出したり、音を立てたり、ホバーボードに乗って移動したりすると気づかれてしまう、と。
《気配遮断は、主に視覚以外の感覚でプレイヤーやモンスターから認識を阻害するものなのです》
(視覚以外、匂いや足音とかってこと?)
《そのとおりなのです!》
ダンジョンなどで通路の中央に立っていても、身動き一つせず、息を潜めていたらゴブリンたちが気がつかないことがあった。これは認識阻害のおかげってことだね。
逆にビーチサンドワームは砂浜を歩いていると、足音を聞いて砂の中から襲ってきた。目が退化した大きな
気配遮断があれば、認識阻害(弱)と組み合わせることで更にMOBから見つかりにくくなる。私のプレイスタイル的にとてもありがたいスキルだね。これは早速覚えないとね。
スキル書「気配遮断」を使用すると、一瞬だけ身体が光り、何事もなかったかのように消えていく。
ステータス画面を開くと、スキル欄に「気配遮断」が増えていた。
(ナビちゃん、気配遮断を起動)
《はいなのです》
一瞬だけ、身体が光ったように感じたけど、特に見た目に変化がない。
(これで気配遮断が働いていう状態なの?)
《そうなのです。攻撃をする、自ら声をかける、軋んだ音がする扉を動かすなどの行動で気配遮断は途切れるのです》
静かに開閉すれば気づかれない扉ならまだしも、どう考えても聞こえそうな音がする扉を開閉すれば気づかれるんだね。大きな鉄扉なんかも気をつけないとね。
扉を開けると、私はスカウターギルドを出て、町の中に出た。
入るときは扉が少し軋むような音を立てていたけど、出るときには音がしなかった。これが気配遮断の効果なんだろうね。
町のマップを開いてテツコの家を確認し、歩きはじめる。
意外に近い場所にあったんだけど、前回、スカウターギルドに入ったのは、テツコの家からウォーリーを探しながら歩いていたときだった。近いのも不思議じゃないよね。
少し歩くと、大きな建物が並ぶ中、看板もない小さな建物を見つけた。
以前は革製品を売る店と工房を兼ねた店は、どこかひっそりとしているように感じた。
ドアノッカーが扉に設置されているけれど、気配遮断の効果を知るいい機会でもあるので、私はそっと扉を開いて中に入る。
以前、猫のウォーリーを探すクエストを受けたとき同じように、テツコはソファーに座っていて、店の中にある陳列台のひとつを見つめていた。
前回、入ったときにはゆっくり見れなかった店の中を私はじっくりと見て歩く。何かをぶつけたのか、削れてしまったテーブル。
私はテツコがジッと見つめている四段になった木製の陳列台の隣に移動し、何も入っていない陳列台を眺める。木枠には繊細な彫刻が施されているものの、扉を開閉する際に手を添える場所で表面がニス薄くなっている。これも古くなっているけど、大事に使ってきたことがみてとれる。
「テツコさん」
「――ッ!!」
私が突然声を掛けたことで、テツコが驚いて目を大きく見開き動かなくなった。テツコにしてみれば、今まで見つめていた陳列棚のすぐ隣に私が急に現れたような感じなのかもしれない。
(え、もしかして息してない? 死んでる?)
《どのような形であれ、プレイヤーはNPCに危害を加えることはできないのですよ》
ナビちゃんの返事に私は、ホッと息を漏らした。
あまりにテツコが動かないものだから心配になったけれど、ナビちゃんの言うとおりなら問題ないはずだよね。
「はああ、ごめんなさい。少しぼんやりと昔のことを思いだしていたら突然あなたが現れたものだからビックリしてしまったの。確か、あなたはアオイさんだったわね。ごめんなさいね、あまりに呆けていたせいか、あなたがノックしたのに気がつかなかったみたい。やだわ、このごろは耳も遠くなったのかしら、ノックの音まで聞こえなくなるなんて、歳はとりたくないものよね。さあさあ、こちらにいらして、お掛けになって」
「あ、いえ……」
さすがに、こっそりと認識阻害(弱)と気配遮断を使って入ってきたとは言えないよね。
「ジッとこの棚をご覧になってましたね」
「そうなのよ。亡くなった夫と店を始めたときから使っていた陳列台なのね。最初に飾った商品は水袋なの。今の人たちは生活魔法があるから水なんて運ぶ必要がないと思うでしょう。昔はね、生活魔法も使える人は僅かしかいなかったの。魔法書を作る技術がまだ発展する前のことだったから、お金持ちの人しか生活魔法が使えなくてね。冒険者を始める人も、旅に出る人も革を縫い合わせた水袋を使ってたのよ。それでね……」
そうだ、この人は話しはじめると止まらないんだった。
でも、この世界に魔法が普及していなかった時代があったなんて意外だよね。だって、ゲームを作った瞬間から世界が構築されるんじゃなくて、まるでその何十年も前から世界が構築されていたような話だもん。
「……夫が飼っていた猫がカールって言うんですけれど、とてもお顔が整った素敵な猫だったんですのよ。あら、そういえばアオイさんにはウォーリーを探して欲しいってお願いしていたわね。進捗はどうかしら?」
10分以上のマシンガントークのあと、テツコは少し不安そうに眉尻を下げてたずねてきた。
*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*
レベル27時点のアオイのステータスです
キャラクター名:アオイ
種族:ハーフリング(女)
職業:スカウター
レベル:27
ステータス:
HP:246
MP:208
STR:37
VIT:76
AGI:188
DEX:150
INT:147
MND:82
加護:火精霊の加護
風精霊の加護
スキル:簡易鑑定
インベントリ
マップ
索敵
罠察知
罠解除
気配察知
気配遮断
(武)ナイフ スローイング
魔法:テレポ
(生)イグニッション
(生)ウオッシュ
(生)ドライ
(生)ウォータ
(光)スパーク
(回)ヒール
(回)キュア
(無)プロテス
(無)テスタ
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