第5話 ゴブリンファイターを倒せ

 アンガー家を後にした私は、ナビちゃんの指示に従って町を歩いていた。目的はテツコのところに行って、「ウォーリーを探せ」を報告するため……なんだけどね。


(ナビちゃん、この建物って……)


 通りの左側にある建物を見て、それが何かを思いだした。


(スカウターギルドだよね?)

《そのとおりなのです。先にこちらに行くのです?》

(戻るのも面倒だからね)


 言って、「スカウターギルド」と書かれた木製の看板の横にある扉を開き、中へと進む。

 前回と同様、左側にあるカウンターの中にいるジョセフィーネは私に気がついていないようだ。手にもったヤスリで爪の手入れをしている。いや、前回も爪の手入れをしていたと思うけど、どれだけ伸びるのが早いんだろう。


「こんにちは」

「え、あっ、こんにちは。えっと、アオイさんでしたね」


 声を掛けられ、ジョセフィーネは慌ててヤスリを机の下に隠し、何事もなかったような顔をつくって返事をした。少しわざとらしい印象を受けるけど、認識阻害効果のある装備を着るスカウターに対する危機感がなさすぎる。


「支部長でしたら、執務室にいます。階段を上がって突き当りの部屋です」

「はい、ありがとうございます」


 礼を告げると、私は奥にある階段に向かって歩きだす。

 ナツィオ村でもそうだったけど、職業ギルドの支部長は各町や村に1人しかいない。休むことなく働いていることになるんだけど……NPCってロボットのようなもので、休む必要がないからね。ただ、ナツィオ村の冒険者ギルドのリジーは何故か休んでいたけどね。たしか、スライムゼリーを使った軟膏を塗らないといけないほど肌が荒れてたみたいだから、ゆっくりと休む時間も必要……なんだろうね。


 考えているあいだに支部長室の前に着いた。

 スカウターギルドに入ったときから感じていたけど、他のプレイヤーがいなくて閑散としているんだよね。私以外のプレイヤーがグラーノの町に到着してからかなり時間が経っていると思うんだけど、


(なんだか、すごく静かだよね……)

《戦闘職でレベル20に到達しているプレイヤーが少ないからなのです》

(そうなの?)

《現在のランキング1位はアオイ、2位以下はレベル20が数名。ほとんどはレベル19以下なのです》


 そういえば、最後に仮眠したあとにランキング確認したんだっけ。そのときは2位以下はレベル18だった気がする。ダンジョンの攻略を済ませて先に進もうと思うと、ホバーボードが必要になるから先ずは漁師のレベルを上げないといけないんだよね。殆どのプレイヤーはそこで躓いているのかな。他にもギャザラーのチェーンクエスト


 考えながら支部長がいる部屋の扉をノックすると、ルイーゼの声で返事があった。


「どうだ、北湖ダンジョンの第4層に到達することはできたか?」


 扉を開くと、挨拶抜きで問いかけられた。

 私は支部長室らしき部屋に入ってから、「はい、第4層までは到達できました」と答えた。

 ルイーゼは、私の顔をジッと見つめると、「ふむ」と声を漏らした。


「レベルはいくつになった?」

「えっと、今はレベル27ですね」

「ほう、顔つきも変るわけだ。いいだろう、レベル25を超えた証として、北湖ダンジョンの第4層にいるゴブリンファイターの魔石を手に入れてきなさい」


《職業(スカウター)クエスト006が発生したのです。受けるのです?》


  クエスト番号:SC006

  クエスト種別:職業クエスト

  クエスト名:ゴブリンファイターを倒せ

  発注者:ルイーゼ

  報告先:ルイーゼ

  制 限:スカウター レベル25以上

  内 容:職業ギルドのルイーゼから、実力を示すためにも北湖

      ダンジョンでゴブリンファイターを5匹倒し、魔石を持ち

      帰るように言われた。


  報 酬:経験値 36,000×2 10,000リーネ ??????


(え、それどころじゃないよ! 私の顔つき変わってるの?)

《特に変わっていないのですよ》

(そうなの!?)

《ルイーゼの気のせいなのです。それよりも、クエストを受けるのです?》


「はい、わかりました」


《クエスト「憎きゴブリンを倒せ」を受注したのです。北湖ダンジョンでゴブリンの魔石を5個入手してルイーゼにみせるのですよ》


「いい返事だ。ゴブリンファイターはゴブリンリーダーのように剣を持って襲ってくる。だが、ゴブリンリーダーよりも素早く、力も強い。更にはゴブリンメイジやゴブリンエリートなど更に狡猾な奴もいるから気をつけなさい。いいな?」


 ルイーゼの口調は厳しいが、その表情には心配の色が見てとれる。

 とはいえ、既にゴブリンファイターは12匹ほど倒している。もちろん魔石もそれだけの数があるわけだ。


「ゴブリンファイターの魔石って、これでいいですか?」


 インベントリを操作してゴブリンファイターの魔石を取り出すと、私はルイーゼに見せる。


「む、既に5つも手に入れていたのか。ふむ、確かにゴブリンファイターの魔石が5個揃っている。北湖ダンジョンの第3層は簡単には突破できないが、こうしてゴブリンファイターの魔石を持っているのであれば、間違いないだろう。やはり認識阻害(弱)を使って、背後から襲う方法を使ったのか?」

「ま、まあ……そうですね」


 実際は正面に立ちふさがっても見つかることはなかったんだよね。


「認識阻害(弱)だけでは、呼吸音や足音などで察知されることがある。ゴブリンファイターを課題にしていたが、ゴブリンエリートが共にいるときは認識阻害(弱)では見抜かれるはずだ」

「そうなんですか?」

「うむ。ゴブリンエリートは耳がいいんだ。呼吸音や足音などを聞き取って我々が近くにいることに気づいてしまう。だから、この報酬が必要なんだ」


 言って、ルイーゼは私にクエスト報酬を差し出した。


《クエスト「憎きゴブリンを倒せ」を達成したのです。

 スキル書「気配遮断」を入手したのです。

 10,,000リーネを入手したのです》 


「ありがとうございます」


 クリア報酬がインベントリに吸いこまれるのを横目に、ルイーゼに礼を述べた。


「いやいや、これも私の仕事だからね。次はレベル30になったら来なさい」

「はい。わかりました!」


 やはり、グラーノの町では職業レベルは30が上限みたいだね。

 その後、王都に行って二次職に転職することになるんだろうね。どんな職業があるのか、今から楽しみだ。

 とはいえ、今からナビちゃんにたずねるほど私も野暮じゃない。いざ、王都に移動して、最適な職業を選ぶつもりだ。


 今はレベル27だから、レベル30まであと3つ。問題はレベルが上がりにくくなっているところかな。既に、結構なクエストをこなしているけど、まだ27のままだからね。頑張らないといけない。


 でも、その前に確認することがあるんだよね。


(ねえナビちゃん、スキル書「気配遮断」ってなあに?)





 *⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*

 ん? スカウトセット(S)に付与されているのって、認識阻害(弱)だよね。でもなんか、気配遮断(弱)って書いていたところがあったような……と思い、検索をかけて気配遮断(弱)→認識阻害(弱)に変更いたしました。

 今ごろになって気づいてすみません🙇‍♂️

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