第3話 ホバーボードをつくってねん

 魔力塊に続き、魔力カセット(小)を作成してサブにブロンズエンチャントインクの作成を報告すると、魔道具師のレベルは7になった。

 その後もクエストをうけては報告するというのをくり返し、私はサブにクエストで請けたアイアン魔導コンロを納品した。


《魔道具師クエスト「複数の魔石を上手に使うのよん」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが21になったのです。

 初級修理キット(魔道具師)を入手したのです。

 10,000リーネを入手したのです》


 おっ、レベルが21になったね。

 鍛冶師のときに予想はしていたけど、魔道具師にも修理キットはあるんだね。魔道具も長く使っていれば壊れたり、傷んだりするから修理しないといけない……ってことだよね。

 生憎だけど、修理が必要な魔道具なんて今のところない。


「ありがとうございます」

「初級修理キットには修理に用いる工具類と修理の心得という名のテキストが入っているわ。まずはテキストを見ながら試してみる?」

「えっと……」


 鍛冶師のときは戦狼の牙刀を修理するという目標があったけど、今回は修理が必要なものが特にない。だいたい、魔石ランタンなんてものがあることも、魔道具師レベル5のクエストで初めて知ったくらいだからね。私が明らかにこれは魔道具だと認識しているものって、鍛冶師で使う坩堝くらいのもので、それもレベル20の報酬で新しいものにアップグレードされている。


「急いで修理しないといけないものはないので、必要になったら教えてもらいたいです」

「いいわよん。さっきの依頼品でアオイちゃんも魔力カセットの使い方を理解したと思うし、更にいろんなものが作れるようになるわ。次はレベルが20になってから来てねん」


 相変わらず腰のあたりをクネクネと捻りながらサブが話しているけど、私はそれを気にせず、続けてレベル20のクエストを受けることにした。


「レベル20になりましたよ」

「あらん、もうレベル20になっちゃったの? 早い男は嫌われるっていうから気をつけなさいよって言えるんだけど、アオイちゃんは女の子なのよねえ……」


 このオカマハーフリングは何を言ってるんだろう。

 私が訝し気な視線を送ると、サブは宙を眺めながら「女の子の場合はどうなのかしら……」などと呟き、ゆっくりと視線をこちらに向けた。


「とにかく若いっていいわねえ、伸び盛りって感じがして……あ、そういえば、このあいだアオイちゃんにホバーボードを1台プレゼントしちゃったでしょう。なんだか需要が増えているみたいで、新しく補充しないといけないのよ。ホバーボードを1台作ってくれるかしらん?」


《魔道具師サブクエスト「ホバーボードをつくってねん」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:MC-005

  クエスト種別:職業サブクエスト

  クエスト名:ホバーボードをつくってねん

  発注者:サブ

  報告先:サブ

  内 容:魔道具師ギルドのサブが、ホバーボードの在庫を補充する

      らしい。

      レベル20の腕試しとして、ホバーボードを1個つくって納め

      て欲しい。


  報 酬:ミッドレンジマギクラフターキット

      ミッドレンジクラフターエプロン

      経験値10,000×2 30,000リーネ


「はい、わかりました」


《魔道具師クエスト「ホバーボードをつくってねん」を受注したのです。

 必要な素材を集めてホバーボードを作るのですよ》


「ホバーボードをつくるにはまたホバーコアが必要になるわ。このあいだも取ってきてもらったように、ホバーコアは不足していて販売していないから、また取りに行ってもらわないといけないの。いいかしらん?」

「え、そうなんですか。でも、仕方ないですね……」


 確かにサブの言うとおりだ。

 ホバーコアが不足していること自体、あのクエストを受けたときに聞いている。あのときに余分に釣っておけばよかったんだよね。


「まあ、アオイちゃんなら大丈夫よん。できあがったら持ってきてねえ」

「はーい」


 サブが緩い感じで話すせいか、私の返事も緩くなった。

 さて、レベル20のクエストということは、グラーノの魔道具師ギルドのクエストもこれが最後ということになるんだよね。だとしたら、久々に生産ギルドの外にでて気分転換するのもいいかもしれない。


(そういえば、北湖ダンジョン第3層の釣りをしていた人って)

《アングラーなのです》

(うん、そのアングラーの父親が漁師のアンガーで、妹がリリアなんだよね)

《そうなのです。リリアのクエストは完了報告していないのですよ》

(そうだったね。ついでに終わらせられるクエストは清ませないとね)


 リリアから受注した「お兄ちゃんが帰ってこない」ってクエストは、アンガーの店まで行けばいいだけだったはず。

 あと、ダンジョン第3層に向かうなら漁師クエストの「刺突漁を覚えよう」や、採掘家クエストの「3つの原石」なんかも済ませたいし、生産ギルドを出るのならテツコの「ウォーリーを探せ」も済ませておきたい。領主の屋敷はちょっと遠いんだよね……。


《町に出るのなら、スカウターギルドに行くことをお勧めするのです》

(ああ、そういうのもあったね)

《レベル25になったら来るように言われていたのですよ》

(そうだったね)


 生産系の職業の場合はグラーノでレベル20まで、戦闘系の職業はレベル25でもグラーノでクエストを受けるのかな。

 戦闘職――スカウターは既にレベルは27になっているから、受注することはできそうだね。


 魔道具師ギルドを後にしようと踵を返したところ、突然頭の中に音声が響いてきた。


『アオイさん、ちょっといいですか』


 突然声をかけられて、私はビクリと体を硬直させた。

 周囲を見渡しても、声の主らしき人の姿は見えない。


《ノアからのP2Pチャットなのです》

(え、P2Pチャット?)

《フレンド登録している人からなら、距離が離れていても電話するように話をする機能があるのです》

(そういえば、そういう機能があったね)


『チェーンクエストこと、他の人に話す、いいですか?』


 どうやら、ノア君が待っていても私からすぐに返事が来ないからか、続いて質問がとんできた。


 まあ、それはいいとして……チャットモードの変更ってどうするんだっけ。

 コマンドだっけ、それとも何かをタップするのかな。


《普段から人と話をしないから覚えないのです。ナビちゃんがP2Pモードに変更するのです》

(あ、ありがとう……)


 チャットログが視界中央に開かれて、今までの会話が見えるようになった。この状態でいつもどおり発言すればノア君にだけ届くチャットになるみたいね。


『アオイさん、忙しい、ごめんなさい。クラフターのチェーンクエスト、他の人に話す、いいですか?』

『相手はどんな方です?』

『相手はアルステラ・ウィキの編集する人。いいですか?』


 ウィキってことは、ゲームの攻略情報だとか、各アイテムの情報などを掲載しているサイトだよね。

 私としては全然、話してもらって問題ないんだけどな。


『うーん、どうせ他の人も見つけるだろうと思いますし、私の名前さえ出さなければ全然いいですよ』

『ありがとうございます』


 とりあえず、こういう質問がきたってことは、ノア君は無事にクラフターのチェーンクエストを終え、ビギナークラフターセットSを手に入れたってことなんだと思う。ひと安心だね。





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