第2話 魔力塊
《ブロンズマギインク×1が完成したのです。
魔道具師経験値2×2を獲得したのです》
ナビちゃんの声が聞こえるとともに、乳鉢の中にあった液体がインベントリの中に吸いこまれていった。
インベントリをみると、壺のような容器に入った状態で保管されている。ゲームだから、インベントリに入った時点で容器が用意されるってことなんだろうね。これ、もっとリアルにこだわったゲームなら、壺や瓶を作るところから始めないとダメなものもあるかも知れないけど……これ以上、工程が増えるとなるとクラフター系の生産職をプレイするのもたいへんだからね。壺や瓶を作る工程は省かれていてちょうどいいと思う。
このブロンズマギインクが今後の魔道具作成に必要なものというなら、材料は5つずつ買ったことだし、まとめて作ることにしようかな。
(ナビちゃん、魔道具師にも簡易モードはあるんだよね?)
《もちろんなのです。亜麻仁油が4つ残っているのです。簡易モードでブロンズマギインクを作るのです?》
(うん、そうする)
乳鉢は1つしかない。粉砕機で1つずつブロンズペレットを粉状にして、そこにラテックスと亜麻仁油を入れてつくる……さっき作ったときの感覚からすると、この乳鉢の大きさではブロンズマギインクを1個ずつしか作ることができない。
視界中央には初心者用のレシピ本があり、ブロンズマギインクのページが開かれている。ページ上に【簡易モード】というボタンがあり、ナビちゃんがそれをタップした。
《簡易モードでブロンズマギインクを作るのです。乳鉢に1回分の材料を入れるとできるのですよ》
(うん、やっぱりそうだよね)
粉砕機でブロンズペレットを粉にする工程と混ぜる工程がなくなる感じかな。
既に簡易モードに入っているので、私はインベントリから亜麻仁油とラテックス、ブロンズペレットを坩堝に入れる。
(あれ?)
《乳棒で混ぜる作業は必要なのです》
(あ、そうなんだね)
慌てて乳棒で乳鉢の中身を混ぜ合わせると、すぐに中身が輝きはじめた。
白く輝いたあとには、先ほどと同じように赤銅色の液体ができていて、インベントリの中に吸いこまれていった。
続けて、3つめのブロンズマギインクができあがる。
《ブロンズマギインク×1が完成したのです。
魔道具師経験値2×2を獲得したのです。
レベルが上がったのです。
魔道具師のレベルが2になったのです》
冒険者のピアスのおかげで、3つ作るだけでレベルが上がった。もし、冒険者のピアスがなければ6つ作らないといけなかったということだね。
本当にありがたい。
あっという間にブロンズマギインクが4つできあがった。最初に作成したものと合わせて5つ。魔道具師のクエストとしては1つ作ればいいだけなんだけど、せっかくモノづくりを楽しむモードになっているから、このまま他に作れないものがないか、初心者用のレシピ本を捲ってみる。
〈魔力塊(小)〉
魔物が体内に宿す魔石から不純物を除去し、魔力の塊に変化させたもの。元の魔石の大きさにより、魔力量が異なる。
素材:
魔石(小)×1
魔石は魔力の塊だと思っていたけど、どうやら違うみたいだね。
確かに、魔石って魔物の体内で育つものみたいだし、育つ間に不要なものも蓄積してしまうのかな。
(ナビちゃん、魔力塊ってどうやって使うものなの?)
《魔道具には魔石に直接回路を書き込むものと、道具に回路を組み込んで魔石から魔力を供給するものがあるのです。でも、魔石は純粋な魔力の塊ではないので魔力の供給が不安定になりやすいから、魔力塊に加工して使うのですよ》
(魔石に直接回路を書き込むのはどういうとき?)
《属性を持つ魔石に使うのです。ホバーボードに使用しているホバーコアがそうなのです》
そういえば、ホバーコアを持つホバードラゴンは宙に浮いていた。重力を操作できる属性があるのか、反重力の属性があるのかはわからないけど、確かに魔石に属性はあるみたいだね。
(じゃあ、魔力塊に回路は書かないの?)
《小さな魔力塊だと、すぐに魔力がなくなってしまうのです。そこに回路を書くのはもったいないのです》
と、いうことは……魔力塊というのは電池みたいなもの。例えば密閉できる箱にモノを冷やすことができる回路を書いて、魔力塊を繋げば冷蔵庫みたいなものも作れるってことね。
《だから、魔力塊を使って魔力カセットをつくるのです》
(魔力カセット?)
聞いたことのないアイテムなので、私が不思議そうにたずねると、ナビちゃんはレシピ本のページを捲る。
〈魔力塊カセット(小)〉
魔力塊を繋げ、魔道具に接続するための器具。魔道具への接続方法によって、出力や持続時間が変わる。
素材:
ブロンズプレート×1
ブロンズペレット×1
《たくさん魔力塊を繋げば、出力を大きくしたり、使える時間を長くしたりできるのです》
(電池なら、直列にすれば出力が上がるし、並列にすれば長時間使用ができるようになる。それと同じ原理ってことかな?)
《そのとおりなのです!》
ナビちゃんが薄い胸を張って、視界の中心でホバリングをしている。
私はその頭を撫でるようにしながら、ナビちゃんを褒めておくのを忘れない。
(さすが、よく知ってるね)
《ナビちゃんはナビゲーターなのです。何でも知っているのです》
頬を緩め、少し嬉しそうにナビちゃんが言った。
ナビちゃんの話を総合すると、これから作る魔道具にも魔力塊や魔力カセットというのが必要になるみたいだね。
ナビちゃんが視界の端に移動したのを確認すると、私はレシピ書の魔力塊のページを開いた。
レシピ書というけど、必要な素材などが書いてあるだけで具体的な作り方まで書かれていないのが辛い。
(じゃあ、まずは魔力塊から作ってみようか)
《はいなのです。魔石(小)はフォレストウルフ、ゴブリンの魔石を使用できるのですよ》
幸いにも魔石を落とすフォレストウルフやゴブリンはたくさん狩っているので魔石が足りないってことはなさそうだね。
(作り方は?)
《魔石は宿していた魔物が生きている間に不純物が周囲に付着して凹凸ができるのです。初級マギファイルを使って凹凸を削り、中心部の魔力塊をとりだすのです》
私はインベントリからゴブリンの魔石をいくつか取り出して光に翳して比べてみた。
中心部分は円形をした濃い琥珀色をしているけど、角度を変えると楕円形をしている。碁石のような形と言えばいいのかな。確かに半透明な部分や、濁った土色をした部分が周囲にこびりついている。まずはナビちゃんに言われたとおり、この不純物を削ってみましょうか。
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