第4章

第1話 インクを作ろう

《魔道具師クエスト「魔道具作りの基礎」を受注したのです。

 必要な素材を集めてブロンズマギインクを作るのですよ》


「必要な素材や道具はビギナーマギクラフターキットに入っているわ。でも、足りなくなったら私が売ってあげる」

「ありがとうございます」


 返事をしたものの……初めての魔道具師としての作業だから、勝手がわからない。


(ブロンズマギインクを作るのに必要なものって何だろうね)

《インクをつくるのには樹脂と溶剤、顔料を混ぜて作るのです。液状のものにするのか、ペースト状のものにするのかで細かな工程は変わるのですよ。でも、基本的な素材部分は変わらないと思っていいのです》


 といって、ナビちゃんが初心者用のレシピにある、ブロンズマギインクのページを開いてくれた。


〈ブロンズマギインク〉

 初級レベルの魔道具の魔力回路を描くために使用する、魔道具専用のインク。


 素材:

  ブロンズペレット×2

  ラテックス×1

  亜麻仁油×1


《ブロンズマギインクの場合は、ラテックスが樹脂、亜麻仁油が溶剤、ブロンズペレットが顔料になるのですよ》

(ふうん。とりあえず、ラテックスは採集してきたものがあるから、ブロンズペレットと亜麻仁油が足りないね)

《ブロンズペレットと亜麻仁油はギルドマスターから購入できるのです》


 そういえば、鍛冶師ギルドでもブロンズペレットやアイアンペレットはギルドマスターから購入できたね。亜麻仁油は、亜麻の実を絞ってとるんだっけ。とにかく、ギルドマスターのサブから買えばいいんだね。


 ギルドマスターと話したあと、まだ移動していなかったので私はそのまま話しかける。


「サブさん、ブロンズペレットを5個と、亜麻仁油を5個ください」

「あらあ、ブロンズペレットが1箱単位での販売になるのよ。1箱でいいかしらん?」

「はい、わかりました」


 視界に表示された商品リストからブロンズペレットを5個、亜麻仁油を5個選ぶと、購入ボタンを指先でタップした。


「じゃあ、ブロンズペレットが1箱で200リーネ、亜麻仁油は1個で50リーネだからあ、5個で250リーネね。合計、450リーネいただくわ」


 商品がインベントリに入ると、自動的に所持金から450リーネが差し引かれた。ブラックバレットのおかげで懐が温かいから、500リーネくらい減ったところで気にならないね。

 簡単に礼を言って、私はサブがいる場所から少し離れた場所にある作業机の前に移動した。


(あれ、ブロンズペレットは粒が小さいんだね。鍛冶師ギルドだと違ったりするの?)


 作業机の上にブロンズペレットが入った箱を取り出すと、アイアンペレットよりも粒の大きさが小さいように思える。亜麻仁油も小瓶サイズで、たぶん50㏄も入っていないと思う。まあ、ゲームの中の世界は中世くらいの文明レベルだから、油は高級品ってことなんだろうね。


《鍛冶師が修理で使うペレットも同じなのです。ブロンズペレットは魔道具師、彫金師、錬金術師でも扱うのでアイアンペレットとは形状が違うのですよ》

(そうなんだ。それで、これをどうやってインクにするの?)

《ブロンズペレットは粉砕機で粉状にするのです。あとは他の材料と共に乳鉢で練るのですよ》

(粉砕機、ね……)


 周囲を見渡すと、壁際にいくつか機械や器具らしきものが並んでいる。

 私は作業台の上に広げた素材をインベントリに戻し、並んでいる機械の近くに移動した。

 すぐに目にとびこんできたのは、板金を圧延する機械。たぶん、鍛冶師が作ったブロンズプレートやアイアンプレートなどに圧力をかけて薄くするための機械じゃないかな。そして、隣には薄くした板金を切るための器具が刃を下した状態で置いてある。

 こんな器具、私に使いこなせるのかなと、心配になるね。だって、押切るようにして切断する器具だから、私の体重だと無理があると思ってしまうんだよね。

 さて、その隣に置いてあるのがよくわからない。

 上部に穴が開いていて、ここから素材を入れるようになっているんだと思う。横にはハンドルがついていて、それを回すと内部にある円盤が縦に回るようになっているのかな。円盤というよりウエイトリフティングの錘のような厚みがあるけど。


《それが粉砕機なのです。ここの穴から素材を入れ、ハンドルを手で回すと下にある出口から粉になって出てくるのです》

(なるほど、確かに何かの粉が落ちてるね)


 誰かが使ったのか、それともゲーム内の「使ってるんだよ」っていう演出なのかな。とにかく、赤銅色をした粉がキラキラと粉砕機の下で輝いている。


(じゃあ、乳鉢を出口に置いて、上からブロンズペレットを1個入れて、ハンドルを回す感じでいいのかな?)

《そうなのです》


 私はインベントリから乳鉢を取り出し、粉砕機の下にある出口らしき穴の下に置いた。


 乳鉢はお茶碗くらいの大きさだから、1つのインクをつくるのに1個分のブロンズペレットを使えばちょうどいいみたいだね。


 続けてインベントリからブロンズペレットの箱を取り出し、1つだけ摘まんで粉砕機上部の穴に入れたら、ゆっくりとハンドルを回し始める。


(なんか、粉砕というよりもゴリゴリと削っているような音だね)

《中には大きな円盤状になったヤスリが入っているのですよ》

(じゃあ、本当に削ってるんだね)


 サラサラとブロンズの粉が下から出てくると、そのまま乳鉢の中に落ちていく。ハンドルを回しても粉が落ちてこなくなったら出来上がり。

 この粉砕機、私でも回すのがたいへんなんだけど、種族によっては回すのも難しいとかあるんじゃないかなあ。

 まあ、そういうときはゲームらしくボタンひとつで……なんてこともあるのかも知れないけど……。


《ブロンズペレットを粉にしたら、そこに亜麻仁油とラテックスを入れて均等に混ぜ合わせたら出来上がりなのです》

(うん、やってみるね)


 ナビちゃんに言われたとおり、亜麻仁油とラテックスを入れて乳棒をグルグルと回しながら混ぜ合わせていく。最初はザラザラとした部分や、ラテックスのネバッとした部分、亜麻仁油のサラリとした部分がはっきりとわかるくらい混ざらなかったけれど、20秒ほどすると乳鉢が白く輝き出した。

 手を止めてみると、見事に混ざり合った赤銅色の液体ができあがっていた。


 あれ、瓶とか容器とか準備していないけど、これはどうすればいいのかな。





*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*


第4章が始まりました。

各クラフター職を深掘りするつもりはありませんので、テンポアップすることになると思います。

なお、今週末は旅行の予定があるので近況ノートの更新はありません。

ご容赦ください。

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