第46話 次へ
ノア君を示すマップ上の黄色い点は、鍛冶師ギルドを出ていくところだった。これから神殿に行くのだとすると、ひととおり生産ギルドで済ませるクエストが終って、これから外に出ないといけないとなると区切りがつくタイミングだからね。チェーンクエストのことを教えてから結構な時間が経っているけど、ログアウトしてから仮眠をとってから続きを始めたとしたら、ちょうどいい時間なのかもしれない。
単にノア君もチェーンクエストを終えたかどうかを確認したかっただけだから、これから神殿に向かうのならそういうことなんだろう。
(ナビちゃん、スカウター装備に変更してくれる?)
いつもの返事と共に、私の装備が変わる。
ビギナークラフターセットSを着たままだと目立つので、気配遮断(弱)がついた装備に変更し、私は魔道具師ギルドに向かった。
最初は魔道具師から始めようと思っていたからというのと、魔道具を作るというプロセスに興味があるから。だって、鍛冶師や木工師、裁縫師、革細工師などは何を作るにしろ、そのプロセスっていうのがイメージできる。鍛冶師なら鉄を溶かして鋳型に入れたり、鍛造したり。裁縫師ならたぶん、糸を紡いで生地をつくり、それを切って縫って作り上げる。他に、編み物なんかもあるのかも知れないけれど、糸を紡ぐところから始まることは変わらない。でも、魔道具って何をどうやって作っていくのか想像もできないからね。
魔道具師ギルドにやってくると、思った以上にプレイヤーがいた。それも、ほとんどがギルドマスターのサブの前に集まっている。
そこにいるプレイヤーを遠目に見てみるけれど、相変わらず、ヒト族と獣人族、エルフ族ばかりで他の種族は見かけない。まあ、ドワーフやハーフリングがいても、熊人族のような大きなアバターに被さられると見えなくなるからね。実際にはそのあたりにいるのかも知れないけど。
(他のクラフター系ギルドとは違って人が多いね)
《大事なクエストがあるからなのですよ》
(あ、そうか。ホバーボードね)
《そうなのです》
少し話をするだけで、ホバーボードのクエストは受注できる。
だから、見ている間にもプレイヤーの頭上にあったカメラのマークが消えると、走りだしていく姿を確認できる。すぐにでもホバーボードを手に入れるたいから、北湖ダンジョンの第3層に向かうんだろうね。
あ、そういえば……第3層で釣りをしていた猫人族のNPCは誰だっけ。釣り人……アングラーかな。彼は既に妹のところに戻っているはずだから、そっちのクエストも終わらせないといけないよね。というか、何が残ってるんだっけ。
(ナビちゃん、クエストの受注状況を教えてくれる?)
《クエストの受注状況なのです》
種別 No. クエスト名 状態 報告先
メイン 004 北湖ダンジョンを踏破せよ 未達成 ゲイル
サブ 013 ウォーリーを探せ 未報告 テツコ
サブ 017 お兄ちゃんが帰ってこない 未報告 リリア
条件 004 領主へのお届け物 未達成 セバス
漁師 005 刺突漁を覚えよう 未達成 デニス
採掘家 005 3つの原石 未達成 アレン
ふむふむ、生産ギルドの中でできることはないみたいだね。
メインの「北湖ダンジョンを踏破せよ」と「刺突漁を覚えよう」、3つの原石」はセットかな。あとは一応は町の中だから、まとめてやる方向で。
(このクエスト以外に受けられるクエストってある?)
《生産ギルドで受けるものと、職業ギルドで受けるものがあるのです》
(ああ、職業ギルドね。忘れてたよ)
《レベル20からの職業クエストがあるのです》
つまり、残っているのは北湖ダンジョン、グラーノの町、生産ギルド、職業ギルドのクエストってことだね。グラーノでやることは多いね。
「あら、アオイちゃんじゃない」
「こんにちは」
まだ5ⅿほど離れているというのに、サブのほうから話しかけてきた。
そういえば、このギルマスはオネエなんだった。
「神殿に時計の中心部分を運んでもらったじゃない? そのあと見かけないからどうしたのかと思ったわよ。元気してた?」
「ええ、元気ですよ」
「で、ようやく魔道具師になる気になったのかしら?」
「はい、お願いします」
サブは私の返事を聞くと、両手を合わせて全身をクネクネと動かしながら嬉しそうに言う。
「わあ、うれしいわあ。じゃあ、先ずはこの初心者向けの道具を一式渡すから、装備してから声を掛けてくれる?」
私が頷くと自動的にビギナーマギクラフターキットが入る。
(これ、このタイミングでログアウトしたり、魔道具師ギルドを出たらどうなるんだろう)
《自動的に受注がキャンセルされるのですよ》
(なるほど……)
ナビちゃんと会話しながら、インベントリのビギナーマギクラフターキットを展開する。
中身は乳鉢に小さな坩堝、あとは定番のハンマーやプライヤー、金のこ、初心者用のレシピ書にガラスペンなんてものがある。
鍛冶師になったときも思ったけれど、その職業に就くだけで立派な道具を貰えるのはありがたい。
(ナビちゃん、ビギナークラフターセットSに着替え。そのあと、ビギナーマギクラフターキットを装備して)
《はいなのです》
一瞬で着替えが終ると、私の右手はガラスペンを握っていた。
(ん、ガラスペン?)
《ガラスペンなのです》
手に持ったガラスペンを見て、「何かにサインとかするのかな」と思ったが、鍛冶師になったときにはそんな手続きがなかったことを思いだす。
《魔道具師の最も大切な道具は、ガラスペンなのですよ》
(へえ、じゃあこれで合ってるのね)
ナビちゃんがクルクルと飛び回り、私の目の前でホバリングをしながら頷いた。
でも、このペンをだけを持っている姿がなんだか間が抜けた感じがしてしかたがない。
「サブさん、準備できました」
「あら、アオイちゃん、とってもお似合いよ」
再びクネクネと軟体動物のように体を捻りながらサブが返事をする。
その動きを嫌悪しているわけじゃなく、単に右手にペンを持っていて、左手に本のようなものを持っていないことが私には違和感しかない。だから、どうしても顔が引きつってしまう。
「ありがとうございます」
「いやん、もう……本当に似合ってるわよ。私が男の子だったら放っておかないくらいよ」
「あ、ありがとうござい……ます?」
「なんで疑問形なのよ!」
だって、どう見ても男性だからね。心は違うみたいだけど。
化粧品すれば、もう少し違った感じになるのかも知れないけど、こっちのオネエはそういうことはしないのかな。
「えっと、魔道具づくりの基本は、魔石に魔法回路を刻むことなのよ。例えばホバーボードなら、ホバーコアに魔法回路を書いて、そこに魔力を流し込む。すると、書いた回路が魔石に刻み込まれるわけ」
「あ、だからガラスペンなんですね」
「そうよ。じゃあ、同じくらい大切なのはなあに?」
左手を腰に、右手は人さし指を立てて私に向ける。更には上目遣いというあざといポーズでサブが質問する。
何のためのポーズなのかわからないけど、質問の答えは……。
「インクですか?」
「やだ、正解! そのとおりよ。先ずは初心者用レシピにあるブロンズマギインクを作ってちょうだい。必要な材料があれば売ってあげるわ」
《魔道具師クエスト「魔道具作りの基礎」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》
クエスト番号:MC-001
クエスト種別:職業クエスト
クエスト名:魔道具作りの基礎
発注者:サブ
報告先:サブ
内 容:魔道具作りの基礎はインク作りにあるのよ。
先ずはブロンズマギインクを作ってねん。
報 酬:経験値100×2 貨幣1000リーネ
ビギナークラフターエプロン
*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*
今回のお話で第三章は終りです。
当初、第三章は「クラフター修行編」としていたのですが、チェーンクエストなどを加えたので鍛冶屋が長くなったため、「鍛冶師編」に変更しました。
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