第37話 ディアホーンダガー
スチールプレートとスチールリベットを作る工程は、コークスを使うという点を除いて、ブロンズやアイアン系のプレート、リベットを作るのと変わらなかった。
要は溶けたら型に流し込んで、板にするだけ。
現実世界のほうで溶鉱炉で溶かした鉄をローラーで伸ばしたりして鉄板を作る工程を見たことがあるけど、そこまで大がかりな仕組みをゲームの中で個人が使うということはないみたい。
(これで素材は全部揃ったかな?)
《ディアホーンダガーを作るために必要な素材は揃っているのです》
(じゃあ、チャレンジしてみますか)
再び、鍛冶手帳を開いてディアホーンダガーの項目を開く。
〈ディアホーンダガー〉(攻撃力+80)
グラーノ森林地帯に生息するゴールドディアの角を使って作られる
ダガーナイフ。
青白く輝く刀身には、正に鹿の王者の風格が引き継がれている。
素材:
ゴールドディアの枝角×1
オークグリップ×1
ボアレザーテープ×1
スチールプレート×1
スチールリベット×2
石炭×4
〈ディアホーンダガーを製作しますか? 【はい】 【いいえ】〉
お、さっきは素材が揃ってなかったからこのメッセージウインドウは開かなかったんだろうね。
私は迷わず、【はい】を指先でタップする。
〈素材の準備をしてください〉
ナビちゃんの話では、
準備というのは、石炭をスチールプレートとリベットを熱することだろうね。
石炭を
(うわあ、真っ赤で熱そうだね)
《触るとダメージのエフェクトが出て、HPが削られるのです。気をつけるのですよ》
(はい、気をつけます……)
ゲーム内で熱したスチールプレートを触って、その熱さに
そもそも、本当の鍛冶場だったら相当な室温になっていると思うんだけど、アルステラのなかでは汗をかくことがない。もちろん技術的にはプレイヤーが熱を感じるようにするのは可能だけど、現実環境のほうは冷暖房が完備された室内でプレイしているのだから、汗をかくことがない。
でも、ゲーム内で熱源が近くにあって熱いと感じてしまうと、脳が混乱を起こしてしまう。最悪の場合、ゲーム内の鍛冶場にいたせいで、冷暖房が完備された快適な部屋のなか、発汗による脱水症状で意識を失うことだって考えられる。それで死者がでたりしたらたいへんだ。
〈素材の準備ができました。金床に素材を並べてください〉
システムメッセージのとおり、赤熱したスチールプレートとスチールリベットをヤットコで取り出し、金床の上に置く。更に、オークグリップとボアレザーテープ、ゴールドディアの枝角を上に並べる。
高熱になっているスチールプレートの上に樫の木でできたグリップを置いても焦げたりしないのが不思議だね。
〈鍛冶ハンマーで成形してください〉
素材がグニャリと混ぜ合わされてひとつの赤い大きな塊になると、その塊の周囲にナイフの型が表示される。銅のフライパンなどをつくったとき、ファングナックルを作ったときと同様、金床上でこの塊を叩いて、ナイフの型に合わせて成形していくミニゲームだね。
慎重に鍛冶ハンマーで叩き、形を整えていく。いや、型のなかに叩いて押し込めていくような感じという方が正しいかな。
「おおっ!!」
型の形状からグリップの部分であろう場所を先に叩いていると、赤い大きな塊だったものが、ボアレザーテープがぐるぐると巻かれたナイフの柄に変わった。
突然、見た目が変わったから思わず声がでちゃったよ。
ただ、叩くたびに赤く輝いていた大きな素材の塊が、輝きを少しずつ失い、色も黒に近づいていく。
《全体が黒になるまでに形を整えないと失敗するのですよ》
(ええっ!?)
《これは鍛造という技術なのです。これまでの板金加工とは違うのです》
(そういうことは早く言ってよ……)
いや、鍛造とナビちゃんは言ったけど、鍛造は何層にも金属を重ね合わせて叩いて鍛える方法だからね。ハンマーで叩いてはいるけど、実際の鍛造とは大違いだから。
既にほぼ形が整っているから問題はなかったけど、知らずに呑気に叩いていたら1つしかないゴールドディアの枝角が無駄になるところだったよ。
〈仕上げに入りますか? 【はい】 【いいえ】〉
枠の中に見事に収まったところで、またメッセージウィンドウが表示された。
これまで叩いて形にしてきたけれど、どこかゴツゴツとした仕上がりになっている。
(仕上げ作業って何かな?)
《鍛冶道具に入っているファイルを用い、全体を磨き上げるのです。また、刃がないので削って刃を作っていくのですよ》
確かに今の段階では、ダガーナイフの形をした金属の塊といった感じなので、最後にファイルで形を整えつつ、刃をつけていくってことだね。
私はもう一度、型枠の中に嵌った金属塊を眺め、叩き不足がないかを確認する。特に問題はないようなので、視界に表示されているシステムメッセージの【はい】をタップした。
〈最後に、ファイルで全体の調整と、刃をつけてください〉
型枠の中に入っていた金属塊に、今度は3D状の黄色い枠が表示された。
私はファイルをインベントリから取り出し、3D状の黄色い枠に合わせてグリップ部分の角をとったり、刀身に刃をつけていく。
(ナビちゃん、仕上げに砥石とか使わないの?)
《ディアホーンダガーは刃が硬いため、砥石で研ぐのはたいへんなのです。だから、ファイルを使うのですよ》
戦狼の牙刀に罅を入れるほど強力な角だけあり、砥石で刃をつけるのは無理があるらしい。とはいえ、初級鍛冶セットの中には粒度に応じたファイルが3種類ほど用意されている。仕上げ用のものは、ダイヤモンドを用いた料理用のシャープナーのようなものがまで入っていた。
私は先ずグリップのところにファイルを押し当てる。
どこかゴツゴツとした表面が、丸く滑らかに変化した。
ゴシゴシと擦る必要がないのは楽でいいね。
同じように刀身にも粗いファイルを当てると、一瞬で刀身が削られ、ダガーナイフらしい形に変化する。二本目のファイルを当てると表面が鏡面に変化し、三本目の仕上げ用ファイルを押し当てると、青く輝く研ぎ澄まされた刃が現れた。
《ディアホーンダガーが完成したのです。
鍛冶師経験値36×2を獲得したのです》
コークス作りに始まり、中間素材をたくさん作った。
すごく長い道のりだったけど、やっと私の新しい相棒ができあがったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます