第36話 鉄鋼づくり
内部はかなりの高温になっているはずだというのに、このコークス炉の覗き窓は割れる様子もなければ、溶けだす様子もない。
もしかすると、コークス炉も魔道具なのかな。
開始と停止ボタンがあったりすることを考えると、その可能性が大きいね。
コークス炉の内部温度が上がって石炭が赤く輝きはじめ、ドロリと溶けだすように液体状に変わっていく。
(ナビちゃん、錬金術で作るときはどうやるの?)
《錬金術では錬金釜を使ってつくるのです。場所を選ばずに作れるところが利点のひとつなのですよ》
なるほど、場所を選ばないというのは便利でいいね。
ただ、簡単なのかと聞かれると違う気がする。
ナビちゃんと話をしてるうちに、炉内で溶けた石炭は表面が赤黒く光り、そこからゆらゆらと湯気のようなものが立ちのぼる。その姿はどこか神秘的だった。
《停止を押さないと、失敗するのですよ》
(え、そうなの!?)
ナビちゃんの警告に、私は慌てて停止ボタンを押す。
初めてコークス炉を使う私でもわかるくらいに再固化していたけど、黒い塊の縁が赤くなっていて思わず見とれていたんだよね。
《コークス×2ができたのです。
鍛冶師経験値24×2を獲得したのです》
取り出し口が開いて、そこから自動的にコークスがインベントリに吸いこまれていく。
ディアホーンダガーを作るには、確かスチールインゴットを2つ作る必要がある。スチールインゴットを1つ作るのに鉄鉱石4つと、コークス4つが必要だから、合計で8つのコークスが必要ってことかな。
残り、6つのコークスをつくるには、あと3回も同じことをしなきゃいけない。これは簡易モードだね。
これ、例えばだけど革細工師なら、皮を鞣すところから始まるってことだよね。木工師なら材木をつくって、板を作って、そこから切り出してグリップを作るってことになるのかな。ディアホーンダガーが修理素材で手に入るもので作れて良かったよ。
新たに増えた簡易モードで、コークスを6個作成した。
簡易モードなんだけど、材料の石炭を4つ入れないといけないところは同じで、合計3回はインベントリから材料を投入する作業が発生したのには閉口した。インベントリじゃなくて、足下に積んだ石炭を入れるとかだと、かなりたいへんだっただろうね。
(毎回、インベントリから入れるのが面倒だね)
《錬金術師なら、必要な素材を全部まとめて錬金釜に入れればできるのです。だから錬金術師のほうが楽なのですよ》
(なるほどお……でも、鍛冶師ギルドのなかで錬金術をつかったりできるものなの?)
《
ということは、コークスを作れるくらいまで錬金術師のレベルを上げるほうが鍛冶師をするには楽ってことなんだね。
こうして各職業で互いに中間素材や道具をつくるという関係があるのなら、例えばゲーム内で鍛冶師として活躍したいと思ったら、結局は職業全てを極めないといけない気がする。
まあ、こういうサブコンテンツはゲームの更新ができるまでの繋ぎみたいなものだから、ゆっくりやっていけばいいよね。
続いて、私はスチールインゴットの作成に着手した。
ブロンズインゴットやアイアンインゴットと同じように、
アイアンインゴットを作るときよりも高温になった
本来の製鉄だともっといろいろと工程があるんだろうと思うけど、ゲームの中で製鉄所のような大規模な設備がないことを前提に考えられた仕組みなんだろうね。実際、現実世界のほうにある製鉄所の動画を見たことがあるけど、電気で鉄鉱石を溶かしていたはずだし、溶けた鉄を溝に流したり、ローラーで伸ばしたりしていたからね。
さて、スチールインゴットもできたことだし、次の作業だね。
確か必要な素材は、スチールプレートとスチールリベット。
〈スチールプレート〉
不純物が少なく、一定量の炭素を含有する鉄鋼板。
素材:
スチールインゴット×1
コークス×1
〈スチールリベット〉
不純物が少なく、一定量の炭素を含有する鉄鋼製のリベット。1回の製作で20個つくれる。
素材:
スチールインゴット×1
コークス×1
スチールプレートのレシピを確認したときに、材料にコークスが入っていたのを忘れていたみたいだ。
私は慌ててコークス炉へと移動し、再びコークスを製作した。もちろん、簡易モードだ。インベントリから材料の石炭を入れるだけで作れるとはいえ、馬鹿正直に炉の窓から中の状況を確認しながらコークスを作る気はない。
出来上がった2つのコークスをインベントリに仕舞うと、私はまたすぐに空いている
〈
ポップアップされたメッセージ画面の【はい】をタップすると、新しいメッセージ画面が表示される。
〈鍛冶手帳から製作するアイテムを選択してください〉
新たにメッセージ画面が表示されると同時、鍛冶手帳も視界の中に表示された。
ズラリと製作可能なアイテムのレシピが並んでいる。グレー文字で書かれたもの、白文字で書かれたものが並んでいるのは、手持ちの素材が足りているかどうかの違いみたい。
再びグレー文字で書かれたレシピ名だけをみて、「ディアホーンダガー」を見つけると指先でタップした。
青銅の鍋などをつくるときは金床を使って叩いたりしたけど、あれは銅の強度を上げるため。でも、ファングナックルはアイアンプレートを叩いて成形するような動きをしたんだよね。
(そういえば、ファングナックルのときは
《板金加工の場合、叩き出しなどの手法を用いるのです。叩き出しをつかうことで、ナックルのような少し複雑な形状も作れるようになるのですよ》
確かに、鉄の板を拳の形に成形しているんだから形状は複雑だよね。
でも、ファングナックルのときは石炭やコークスは使わなかった。
(今度はコークスまで使うみたいだけど、どうすればいいのかな?)
《
(やっぱりハンマーで叩くんだね)
《そのための金床なのです》
鉄は赤いうちに打て――なんて言葉があるけど、熱して柔らかくしないと成形できないくらいスチールプレートは硬いってことなのかな。
*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*
現実世界の製鉄所では、鉄鋼(スチール)を作る際には、鉄鉱石と石灰石を焼結炉に入れて焼結鉱に、石炭を蒸し焼きにしてコークスを作ります。
次に、高炉に焼結鉱とコークスを入れて焼結鉱を溶かし、銑鉄を取り出します。
その後、転炉に銑鉄と鉄くずを入れて高圧の酸素を吹きこむことで、銑鉄に含まれる不純物を取り除きます。また、他の合金を加えて鋼の成分を調整。
調整が終った鋼を鋼材にし、板にする場合は圧延します。
アルステラでは独りでこれらの作業をしないといけないとなるとゲームとして成り立たないため、簡略化しています。
まあ、ゲームですので💧
アイアンは銑鉄にあたり、スチールは鋼(鉄鋼)に該当するものと思っていただいて問題ありません。
今回はスチールインゴットを作るところまで。次回はスチールプレートとスチールリベットを作るところからはじまります。
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