第34話 戦狼の牙刀

 ナビちゃんが修理を終わらせてしまったけど、経験値は入らないのかな。

 絶対ではないと思うけど、武器や防具類に修理が必要になるから、修理を覚えてしまうと修理の需要はあるはずなんだよね。どの職業でも修理だけで生計を立てる――ということが可能になるわけで、それを避けるためにも経験値が得られないようになっているのかも知れない。

 そのあたりはあとでナビちゃんに確認するとして……。


 視界の中央に立つヨセフは、ナビちゃんに修理されたアイアンダガーをいろんな角度から眺め、確認している。


「うむ、なかなか上手に修理できているじゃないか。武器や防具だけでなく、道具も商売道具だ。手入れをすれば長く使えるから、大切にするんだぞ」


《鍛冶師サブクエスト「修理をしよう」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが23になったのです。

 5,000リーネを入手したのです》


「ありがとうございます」

「いやいや、これは正当な評価だ。これからも精進しなさい。そうだな……次はレベル20になったら来なさい」


 ヨセフはニコニコと笑顔で言うと、また書類仕事に戻ってしまった。


 修理のクエストで既にレベルは23になっているし、レベル20のクエストにも興味はあるんだけどね。先に、戦狼の牙刀の修理に目途をつけたい。


 私はインベントリを開き、そこから戦狼の牙刀を指先で選択した。

 鍛冶師という職業柄、戦狼の牙刀を装備できないけど、手に取ることはできる。


 ブレードには疾駆する狼の意匠が彫り込まれているけど、刃のところに大きな罅が入っている。ゴールドディアと戦ってできた傷だね。その後も使ってきたけど、突き刺して使っていたから折れなかったのかな。


 ハンドルのほうは恐らく削った木に皮革を巻いたものだと思う。たぶん、バトルウルフの毛皮を鞣してできる革なんじゃないかな。木は何でできているのかわからないなあ。

 でも、修理しないといけないのは刃のほうだから気にしなくてもいいかな。


 再び火床ほどのある場所に移動すると、先ほどと同じように画面が開く。


火床ほどがあります。行う作業を選んでください 【鍛冶】 【修理】〉

《修理なのです!》


 よほど修理が好きなのか、それとも経験値が入らない仕組みだからなのか、ナビちゃんがすごく張り切っている。

 でも、私も少しは修理をやってみたいんだよね。


(ナビちゃん、ストップ!)

《どうかしたのです?》

(私も自分の手で修理しておきたいんだけど?)

《確かにアオイが自分で修理をする方法を覚えるのはたいせつなのです。今回はアオイがやるといいのです》


 ナビちゃんは翼をパタパタと羽ばたきつつも、全身から力が抜けたように項垂れ、残念そうに言った。

 そこまで派手に残念さを押しだして来られると、本気で申し訳なくなってくる。しかし、私としてはやはり一度だけでも自分で操作して修理をしてみたい。


(ありがとね)

《お手伝いができないけど、しかたがないのです……》


 頭を撫でながら、礼を言うとナビちゃんは頬を膨らませて言った。

 なぜかナビちゃんが懸命にお手伝いをしようとするのを見ると、機械精霊にとってお手伝いすることに意味があるような気がしてくるね。

 機械精霊は何かを食べたりしない。

 そのかわり、お手伝いすることでゲーム内で何か食事的な……機械油みたいなものを貰えたりするとか、機械精霊としての経験値を貰えたりするとか、そういうのがあるのかな。

 ゲームを始めてから何度も話し相手になってくれていたり、手伝ってくれたりしていたし、名前をつけたりもしたから親密度が上がってきたんだと思うけど、実際に親密度や経験値に関係するものかな。

 でも、こんなこと、ナビちゃんに聞いても教えてくれそうにないよね。


〈修理したい武器防具を左側、素材を右側の枠に入れてください〉


 視界に表示されたウィンドウの指示に従って、インベントリから戦狼の牙刀を左側の枠の中に入れる。すると、素材欄が2つに増えた。

 素材欄の上には、バトルウルフの牙×1、バトルウルフの前爪×1と表示されている。

 どうやら修理対象によって、素材の数が増えるみたいだね。

 でも、必要な素材も表示されるから誰にでも簡単に修理できそう。


 私はインベントリからバトルウルフの牙と、バトルウルフの前爪を1つずつ選んで素材欄に入れた。

 バトルウルフの牙は1つしかドロップしていないから、再びブレードに罅が入るようなことになっても修理できないかもしれない。でも、たぶんメインクエストを再受注してバトルウルフと戦えば素材が手に入るよね。

 いや、確認しておくほうがいいかな。


(ナビちゃん、メインクエストのバトルウルフ討伐は再受注できるのかな?)

《再受注できるのですよ》

(じゃあ、これでバトルウルフの牙がなくなっちゃうけど、問題ないね)

《問題ないのです!》


 で、あれば安心だね。


〈修理しますか? 【はい】 【いいえ】〉


 どうしよう……失敗したりしないか、すごく不安になってきた。


(ナビちゃん、修理に失敗したら戦狼の牙刀が消えちゃうこととかあるの?)

《修理に失敗することはあるのです。でも、武器や防具が破損することはなく、修理素材だけが消失するのです》


 戦狼の牙刀がなくなると、スチールダガーとスチールナイフでMOBと戦わないといけなくなる。

 でも、その心配がないのなら修理をしても問題ないよね。

 バトルウルフの牙はまた取りに行けばいい。


 私は迷わず【はい】を指先でタップした。

 すると、アイアンダガーのときと同じように視界が白く輝き、そして元の明るさへと戻る。


〈修理に成功しました〉


「ふう……」


 なんだかんだと考えてすぎていたせいもあって、つい安堵の息が漏れた。

 修理しないといけないと思いながらも北湖ダンジョンの第4層に進んだり、いざ修理するとなったら壊れるんじゃないかと心配になったり。でも、実際に修理してみたら思った以上に簡単に成功してしまってなんだか拍子抜けしてしまった。


 インベントリから戦狼の牙刀を取り出してみると、ひびが入っていた部分はきれいに修復されていて、完全復活って感じがする。


「よかったね……」


 と、戦狼の牙刀に声をかけ、私はブレードで疾駆する狼の意匠を撫でた。

 はじめてMOBからドロップしたアイテムだから、戦狼の牙刀に愛着が湧いたのかな……。


 でも、私のレベルは27になっていて、適正なMOBのレベルも同じくらいになっている。例えば、再びグラーノ森林地帯に入ってゴールドディアと戦うことになったら、またひびが入るかも知れないし、折れてしまうかもしれない。


 そう、私には新しい武器が必要なんだ。




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