第33話 武器修理

「嬢ちゃん、筋がいいな。やはり、ハーフリングだけあって要領を掴むのが早い」


 私が作ったファングナックルをめつすがめつしつつ、ヨセフが言った。

 ゲーム内の種族格差でDEX値やSTR値が違ってくるので、そのことを言っているんじゃないかな。


(実際、鍛冶で何かをつくるときに失敗とかするのかな?)

《溶かした鉱石を鋳型に流し込む際にDEX値が低いと失敗することがあるのです。他にも、ハンマーを入れるところがズレると失敗することがあるのですよ》

(へえ、少しでもズレると失敗するの?)

《1回くらいの失敗は大目に見てもらえるのです》


 たぶん、50がベストだけど、50±2の範囲で収まっていたら失敗と判定されないという感じで許容範囲というのが設定されているんだろうね。


「うん、この出来なら鍛冶ギルド員がつくったものとして恥じない品質と言えるだろう。よくやった」


《鍛冶師クエスト「魔物の素材」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが21になったのです。

 初級修理キット(鍛冶師)を入手したのです。

 10,000リーネを入手したのです》


「ありがとうございます」


 私は弾むような声で礼を言うと、インベントリに入った初級修理キット(鍛冶師)を確認した。


「初級修理キットには、修理用に用いる工具類と修理の心得という名のテキストが入っている。まずはテキストを見ながら試してみるか?」

「そうですね。試してみたいです」


 いきなり戦狼の牙刀を修理しようとして失敗したりしたら……考えただけでもゾッとする。


「じゃあ、嬢ちゃんが持ってるアイアンダガーを見てみろ。長い間使ってきたもんだから、刃こぼれとかしとるだろう?」


 言われてインベントリからアイアンダガーを取り出し、その状態を確認してみる。

 冒険者のピアスのおかげで、私の戦闘回数は少ないはずだから刃こぼれなどしていないと思っていたけど、小さなものを含めると4か所ほど刃こぼれを起こしていた。

 よく考えると、静寂の森のボスモンスター、バトルウルフと戦ったときに使った武器だもんね。バトルウルフが戦狼の牙刀がドロップしたのと、バトルウルフの討伐報酬としてスチールダガーを貰ったことですぐにアイアンダガーを使わなくなったから気がつかなかったのかな。


「はい、いくつか刃こぼれがありますね……」

「修理の方法は修理の心得に書いてある。試してみるか?」


《鍛冶師サブクエスト「修理をしよう」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:BS(S)-001

  クエスト種別:職業サブクエスト

  クエスト名:修理をしよう

  発注者:ヨセフ

  報告先:ヨセフ

  内 容:鍛冶師は武器、防具のメンテナンスを請け負うのも大事な

      仕事のひとつ。先ずは、手持ちのアイアンダガーを修理

      してみよう

  報 酬:経験値5,000×2


「はいっ!」

「いい返事だ。修理が終わればみせに来なさい」

「はいっ!」


 私の返事を聞いたヨセフはニコリと笑顔をみせて、帳簿らしきものと睨めっこをはじめた。

 ギルドマスターともなれば素材の仕入れや、本部への報告などやることがたくさんあるんだろうね。


 では、早速修理にチャレンジすることにしようかな。

 詳しいことは修理の心得というテキストに書かれていると聞いたので、私はインベントリから修理の心得(初級編)を取り出して開いた。


《鍛冶の場合、修理対象によって方法は異なるのです。例えばナイフの場合はハンドルを交換する、ブレードを打ち直すなど傷んだ部位に応じた修理が必要なのです》

(このアイアンダガーの場合はハンドルは大丈夫だよね。ブレードを打ち直すの?)

《欠けた分を埋める素材が必要なのです。金属の場合はペレットを使うのです。アイアンペレットはヨセフから購入できるのです》


 すべてを読まなくてもナビちゃんがあるていど説明してくれた。

 このあと、戦狼の牙刀を修理する際にもナビちゃんに教わればなんとかなる気がするけど、やはり心配なので目を通しておこうかな。


 修理の心得(初級編)に書かれていることをまとめると次のようになる。


 まず、鍛冶師が行う修理には武器の修理、防具の修理、道具の修理の3つがある。

 武器の修理は、金属や魔物素材を使った部分の修理と、ハンドルや柄の部分の修理の2種類がある。

 ハンドルや柄の部分は木材や布、皮革などを使うので、都度それぞれのギルドから入手する必要があるらしい。そういえば、ヨセフもハンマーの柄を木工師ギルドのスミロに作ってもらっていたよね。

 防具は金属鎧や甲冑などのパーツを作って交換する場合と、叩いて修理する方法の2種類があるらしい。前者は鎖帷子くさりかたびらやスケイルメイルのようなものが対象で、後者は盾や甲冑のようなものが対象になっているみたいだね。

 道具修理は武器と同じなので読み飛ばしちゃった。


 問題は、この修理の心得が初級編だということ。

 アイアンナイフやアイアンダガーのあとに入手できた武器はスチールの名がついていたことを考えると、私のレベルの武器なら精錬度と炭素含有率を高めた鉄鋼スチールを主に扱うことになるはずなんだよね。

 でも、初級編の修理の心得でスチールナイフや戦狼の牙刀の修理ができるのかどうかわからない。


 とはいえ、先ずはアイアンダガーを修理して、クエストを進めないといけない。例えばアイアンペレットはヨセフから買えるけれど、鉄鋼スチール系の武器道具の修理に使うだろうスチールペレットは修理のクエストを終わらせないと買えないという制限があったりするかもしれないからね。


 私は何やら帳簿に書き込んでいるヨセフに声を掛けた。


「お、嬢ちゃん、どうした?」

「素材を売って欲しいんです」

「どの素材が欲しいんだ?」


 同時に視界の中央にウィンドウが開いた。

 ずらりと並ぶ商品には白文字で書かれていて選択できるものと、暗くなっていて選択できないものがあった。選択できるのは、ブロンズインゴットや鉄のインゴット、鉄の板のように私が作ったことのあるアイテムで、まだ作ったことがないものが選択できないようになっていた。

 そのウィンドウを指先でスクロールしていくと、白文字でアイアンペレットが現れた。その下にはスチールペレットがあるが、暗くて選択できなくなっている。


「アイアンペレットをください」

「おう、ひと箱で500リーネだ」


 500リーネを支払い、箱を受けとった。箱の中には平べったい円形の鉄の板が大量に入っていた。


 空いた火床ほどへ移動すると、私の視界に再びウィンドウが開いた。


火床ほどがあります。行う作業を選んでください 【鍛冶】 【修理】〉

《修理なのです!》


 ナビちゃんが代わりに【修理】ボタンに触れ、押下してくれた。

 すると、新しいウィンドウとインベントリが開く。


〈修理したい武器防具を左側、素材を右側の枠に入れてください〉

《アイアンダガーとアイアンペレットなのです!》


 と、再びナビちゃんがアイテムを取り出してセットしてくれた。

 特に修理したいアイテムや素材を取り出す必要はなく、インベントリから直接操作できるようで、ナビちゃんでも簡単にセットできるんだね。


〈修理しますか? 【はい】 【いいえ】〉

《はいなのですっ!》


 ナビちゃんが【はい】を押下すると同時、開いていた修理ウィンドウが輝くと、また新たなウィンドウが開いた。


〈修理に成功しました〉

《修理成功なのですっ!》


 えっと、ナビちゃん。

 初めてなんだし、私がやることも少しは残しておいてほしいかな……。





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