第32話 ナックルづくり
たった今まで一緒に話していたラルフがログアウトして、視界から消えた。
『じゃ、じゃあ、ボクとフレンド登録しませんか?』
ナビちゃんに「ボッチだ」と揶揄われるという話をしたあとなので気を遣わせちゃったかな、と思ったら急に恥ずかしくなってしまった。
でも、チュートリアルを全クリアできたら報告するためだと言われてしまうと断ることもできないよね。
ラルフは言葉遣いも丁寧だし、紳士的な人だと思う。P2Pチャットで毎日話しかけてきたり、どこにいるかをフレンドリストから調べてつきまとってきたり……そんなストーカー行為はしないと思って良さそうだよね。
不思議なのはラルフがドワーフってこと。
アバターの身長はプレイヤー自身の身長にあわせ、誤差として許容できる範囲で設定をするのが一般的なんだけど、ラルフは身長が120㎝くらいしかないからね。
人間が手を広げたときの幅は、だいたい身長を中心値として±7㎝ほどの長さになる。例えば身長180㎝なら173㎝から187㎝で、身長が140㎝なら133㎝から147㎝くらいになる。
現実世界とゲーム内でリーチがこんなにも違うと、脳が混乱するのは間違いないと思う。でも、その理屈で現実世界のラルフがドワーフに適した身長をしているとしたら、8から10歳児くらいの身長ってことになるんだよね。
でも、言葉遣いや
まあ、現実世界で会うこともない人のことを考えてもしようがないし、年齢がいくつであっても、ゲームの中では気にする必要はないか……。
気分を切り替え、私は周囲を見渡す。
ラルフとの話に集中していて気にしていなかったけれど、周囲には木綿やビギナーシャツを着たプレイヤーが集まっていた。どうやら、私とラルフの話に聞き耳をたてていたらしい。
ぼんやりと立ったまま動かないプレイヤーがたくさんいるし、ポツポツとログアウトしていくプレイヤーもいる。
ログアウトしていくプレイヤーはたぶん、ラルフと同じようにチュートリアル応用編に挑もうとしているんだろうね。
チュートリアルの基礎編、応用編、実践編を終わらせると経験値が2倍になるアイテムが手に入るとなると、ログアウトしてチャレンジしようとするのはおかしくないと思う。
ぼんやりと立っているプレイヤーは配信をしていたり、パーティチャットで仲間に情報提供していたり、コミュニティに投稿したりしているのかな。
そのことはまったく問題ないんだけど、全然知らない人たちの立ち話を聞いて
おっと、それよりも鍛冶のクエストを進めなきゃ。
ヤコブから受けたレベル15のクエストは、フォレストファングの牙を使い、ファングナックルを作るというもの。
材料はフォレストウルフの牙、鉄の板、鉄のリベットをそれぞれ2つずつ使用するんだよね。
「先ずは、鉄のインゴットからかな」
鍛冶はインゴットを作ることからはじまる。インゴットができたら、再び溶かして鋳型で鉄板や鉄の棒にする。そうやってできた鉄板や鉄の棒を熱し、金床で加工していくのが基本的な流れになる。
私の場合、鉄のインゴットはクエストで作ったから簡易モードで作ることができる。
(ナビちゃん、鉄のインゴットを簡易モードで4つ作るにはどうしたらいいの?)
《先ずは
自動的に
続けてインベントリから鉄鉱石と石炭が減って、目の前の
《鉄のインゴットを4つ作ったのです。
鍛冶師経験値15×2を獲得したのです。
レベルが上がったのです。
鍛冶師レベルが16になったのです》
(簡易モードって楽ちんだね)
《更に鉄のインゴットをつくるのです?》
(ううん、次はこれをつくるよ)
視界に表示されたレシピから鉄の板を選ぶと、
冷めるまで何時間も待たないといけないというわけではないところがゲームっぽいね。
《鉄の板が完成したのです。
鍛冶師経験値15×2を獲得したのです。
続けて鉄の板をつくるのです?》
(えっと、簡易モードで1つ作ってほしい)
《ナビちゃんがお手伝いするのです》
先ほどと同じように自動的にインベントリから材料が取り出され、
同じようにして、鉄のリベットを2つ作り、ファングナックルの中間素材の準備を終えた。
「次は成形だね」
視界に表示されているレシピの中から、ファングナックルを選ぶ。
中間素材を熱して、切ったり、曲げたり、叩いたりして形を整える……ということはなく、材料を揃えて
ただ、ハンマーにはあるていどの重さもあるから、力がない種族だとDEX値が高くないと難しい。逆に力がある種族だと力を入れ過ぎて失敗することがあるのかな。
指示どおりにハンマーを叩き終えると、金床と材料が光り出し、ナックルの形に変化した。
《形が整ったら、仕上げをするのですよ》
(うんうん)
道具をハンマーから
指示されたすべての場所にやすりがけすると、金床に置かれたナックルが輝き、インベントリへと吸いこまれていった。
《ファングナックルが完成したのです。
鍛冶師経験値24×2を獲得したのです》
「やったあ!!」
私は思わず歓声をあげ、金床の前に座ったまま拳を突きあげた。
立ちあがると、できあがったファングナックルをインベントリから取り出して確認する。
ナックルは鉄の板を叩いて曲げて作ったものなのでとても無骨な印象を受けるけど、鈍色がなんともいえず、格好いい。
拳の部分から白い爪のようなものが突き出ているのが、フォレストウルフの牙を使った部分ってことなんだろう。左右で2本しか使っていないけれど、なぜか左右合計で8本も突き出ているのは……ゲームだからね。
さて、ヤコブに報告しに行きますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます