第31話 フレンド登録(ラルフ視点)
これはなんとしてもボクも冒険者のピアスを手に入れなければ……。
そう思ったボクは、そのための質問をアオイにぶつけることにした。
「念のために教えて欲しいんだけど」
「いいですよ。私に答えられることなら何でもお答えします!」
ゲームによっては情報屋といって、攻略情報を高値で売買するプレイヤーもいる。この情報を売るなら高く売れると思うのに、アオイはボクが勝手に情報を売るなんて考えもしていないようだ。
まあ、ボク自身は情報を売買できるほど根掘り葉掘りたずねるつもりはないけど……。
そんなことより、大事なのはチュートリアルのことだ。
チュートリアル応用編は、種族を選んだあとに受けるものなので、種族による基礎ステータスの差が出てくる。
アオイはハーフリングという種族。
今のところボクは彼女以外にハーフリングを見かけたことがないが、彼女以外にチュートリアル応用編をクリアしたというプレイヤーの話は聞いたことがない。
たった1人、クリアできているということは、ハーフリングのチュートリアル応用編はドワーフのそれとは内容が異なるのかも知れない。
もし、ハーフリングのチュートリアルが他の種族よりも簡単なのなら、キャラをリビルドしてでも冒険者のピアスを手に入れることだって考えたい。
「チュートリアルクエストの応用編ってどんな内容でした?」
アオイは、ボクの質問を聞いて「うーん」と、小さく唸ったあとに続けた。
「建物と建物の間を飛んだり跳ねたりする感じかなあ。パルクールみたいな?」
「ああ、だったら同じですね」
知らぬ間に緊張していたのか、安堵するようにボクは言った。
確かに、ドワーフのチュートリアル応用編もパルクールのように建物と建物の間を駆けまわる感じのものだった。1つの障害物を乗り越えると、次の障害物が現れる。瞬時に判断して手すりや
「でも、種族の違いがあるから多少はコースに違いがあったりするのかも知れないよ?」
「確かにそうですね」
どちらかというとドワーフはSTRとVIT、DEXが高い種族。一方、ハーフリングはAGIとINT、DEXが高い種族だったはず。
パルクールのような動きをしながら走りまわるチュートリアルなら、敏捷性を表すAGIの値と、器用さを表すDEXの値が高いハーフリングが有利になる。逆に、STRとVITに特化した象人族や熊人族のような種族には不利だ。
ゲームの開発や運営としては、なんらかの方法で種族間バランスをとる必要があるから、そのために違うコースを用意したり、高低差などを用いて最適化したりしている可能性はあるだろう。
だとすると、ハーフリング用に最適化されたコースをクリアしているという点で、アオイは凄いプレイヤーだということになる。
「いったい、どうやってクリアしたんです?」
まるで怪物でも見るような目で、ボクはアオイにたずねた。
「よく見て動けばクリアできません?」
「いやいや、現時点でアオイさんしかクリアしてないんだから。ボクのような一般人には無理ですよ」
「ええっ!? そんなことないでしょう」
「目の前の障害物だけ見てクリアするのに精一杯で、そのあとに続く障害物をどうするか考える暇もない感じですよ。何度も挑戦してマップでも作らない限りは……」
いろんなゲームをプレイしてきたので、ボクもXRの中で自由に動きまわるのは得意なほうだ。
だけど、走る速度を落とせば障害を飛び越えられないし、狙った場所までジャンプしても届かない。全力で走りつづけながら、次々と現れる障害物を避けて進んでいると、先にある障害物に対処できずに失敗する。
どこに何があり、どうすればその先に進めるのか……それらすべてを頭の中に叩きこめばクリアできると思う。
「ナビちゃ……ナビゲーターの説明だと、基礎編はゲーム内の基本的な身体の動かし方を訓練すること、応用編はゲーム内だからこそできる動きを訓練することが目的だって言ってるよ」
「そんなことをナビゲーターが?」
「いろいろと教えてくれるよ。肝心なところを教えてくれないときがあるけどね」
「へえ……」
ボクのナビゲーターはとても機械的なんだけどな。
「まあ、私の場合はずっとソロプレイだから話しかける相手がナビゲーターしかいなくて……だからAIが成長しているんだと思う」
「ボクはずっとパーティを組んでいたから、成長が遅いのかな」
「でもね、いつもボッチプレイヤーだって、ナビゲーターが揶揄ってくるんだよ。酷いと思わない?」
「そ、それは……」
AIってそこまで育つものなんだろうか。
何か特殊な設定、例えば親密度のようなものがあったりするのかも知れない。NPCについては他のゲームでも採用されているものがあるので、親密度を上げればいろいろと変化が起きるという仕組み自体は見たことがある。
それはさておき、ナビゲーターにボッチ判定されるほどソロで活動しているのなら、フレンド登録してもらうチャンスではないだろうか。
「じゃ、じゃあ、ボクとフレンド登録しませんか?」
「え、あ……」
勢いに乗ってフレンド登録を申し出てみたが、アオイの表情が一瞬だけ曇り、言葉に詰まった。
フレンド登録したら本当の友人になった気分になるプレイヤーがいたり、男女を問わずしつこくP2Pで話しかけてくるプレイヤーがいたりするので、警戒するのも当然だ。
「このあと、ボクもチュートリアルのクリアを目指そうと思ってて、それがクリアできたら報告したいなあと思っているんだけど……駄目ですかね?」
「あ、ううん。そういうことなら……」
アオイが恥ずかしそうに俯いて言った。
とても可愛いアバターだから、他のプレイヤー目線だと上目づかいになって見えるだろう。残念ながらボクのほうが背が低いので、そのあざとい仕草は通用しないけど。
(ナビゲーター、前にいるアオイというプレイヤーにフレンド申請を頼む)
《承知しました。アオイにフレンド申請を送信しました》
《アオイがフレンド申請を承認しました》
アオイはすぐにボクの申請を承認してくれた。
それにしても、この機械的な応対をするナビゲーターが、プレイヤーを揶揄ったりするなんて……本当だろうか。
「ありがとう」
「い、いや。こちらこそありがとうございます」
アオイが礼を言ったので、慌ててボクも礼を返した。
ボクもまだ他のプレイヤーと交流しているわけでもないので、いつものメンバー以外には登録している人は少ない。
「えっと、もしチュートリアルをやり直して、冒険者のピアスを手に入れるなら、他のクエストは後回しにした方がいいですよ?」
「あ、それもそうですね。経験値が倍になるから……」
ボクとしては別に急ぐ必要もないが、アオイにもやりたいことがあるはずだ。
話を長引かせるのも申し訳ないし、ボクも早くチュートリアルにチャレンジしたい。
「そう思ったらどんどんチュートリアルの応用編にチャレンジしたくなりましたよ。今すぐにでも始めたい気分です」
ボクの言葉にアオイは「そうでしょうね」と、フフッと笑いながら言った。
ここらが頃合いかも知れない。
「すみません、本当にチャレンジしてこようと思います。色々教えてくださっただけでなく、フレンド登録まで……ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
輝くような笑顔でアオイが返事をした。一瞬、見とれそうになったが、踏みとどまる。
「では、また連絡しますね」
「はい、またね」
アオイの返事を聞いて、ボクはログアウトした。
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