第29話 ラルフとの再会

《鍛冶師クエスト「鉄の基本」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが15になったのです。

 中級鍛冶師セットを入手したのです。

 8,000リーネを入手したのです》


 仮眠と食事などの諸々を済ませてログインし、すぐにクエストの報告をした。

 鍛冶師のクエストにも冒険者のピアスの効果があるおかげで、レベルはガンガン上がっていく。

 そもそも、最初に青銅のインゴットを3個つくっただけでレベルが2に上がって、最初に受けた「鍛冶の基本」を報告すると、それだけでレベルが5になったんだよね。

 そして、いつものように続けてレベル5の鍛冶師クエストをうけて報告するとレベルが10を超えたから、またレベル10のクエストをうけて終わらせた。

 ちなみに、レベル5のクエストは「道具を作ろう」で、青銅のフライパン、青銅の鍋、青銅のレードルを作って納めるというもの。レベル10のクエストは「鉄の基本」で、鉄のインゴットを作って納めるというものだった。


「次はレベル15になったら来なさい」

「はい、わかりました」


 今の報告でレベルは15になったので、続けて次のクエストを受けることができるけど、確かレベル15になったら修理ができるとナビちゃんが言っていたんだよね。

 だから、ナビちゃんに修理の方法を教えてもらおうと思ったわけ。


(ナビちゃん、レベル15になると修理ができるようになるって言ってたよね。修理はどうやったらできるの?)

《鍛冶師で修理をするには、修理キットが必要なのです。修理キットはレベル15のクエストを終える必要があるのです》

(鍛冶師でってことは、裁縫師だとか革細工師でも修理キットがあるの?)

《そのとおりなのです》


 修理が発生するってことは、消費されてしまうものを作る仕事――例えば、調理師はどうするんだろう。


《調理師や錬金術師は器具のお手入れキットを使うのです》


 なるほど、調理師なら包丁を研いだりするための道具が必要だもんね。

 それで、最高級の砥石を調理師ギルドが集めるってことなのかな。


 そのへんは調理師になってレベル上げをすればわかることだから、今は鍛冶師のクエストを受けることにしよう。


「えっと、ヤコブさん」

「やあ、嬢ちゃんじゃないか。どうだ、レベル15になったか?」

「ええ、無事レベル15になりました」

「そうか。じゃあ、腕試しといこう。

 鍛冶師は稀に魔獣の素材を使って武器や防具を作る。今回はフォレストウルフの牙を使って、ファングナックルを作ってみてくれ」


《鍛冶師クエスト「魔獣の素材」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:BS-004

  クエスト種別:職業クエスト

  クエスト名:魔獣の素材

  発注者:ヨセフ

  報告先:ヨセフ

  内 容:鍛冶師は稀に魔獣の素材を使って武器や防具を作る。

      フォレストウルフの牙を使ってファングナックルを作ろう。

  報 酬:経験値5,000×2 貨幣10,000リーネ

      初級修理キット(鍛冶師)


「はい、わかりました」


《鍛冶師クエスト「魔獣の素材」を受注したのです。

 フォレストウルフの牙を使って、ファングナックルを作るのですよ》


「出来上がったら、みせにこいよ」

「はいっ」


 返事はしたものの、どんな素材を使うのかな。


(ナビちゃん、ファングナックルのレシピをみせて)

《どうぞなのです》


  ・フォレストウルフの牙 2個

  ・鉄の板 2個

  ・鉄のリベット 2箱


 フォレストウルフの牙と、鉄鉱石はまだ在庫がある。アイアンプレートや鉄のリベットをつくるために必要な石炭もじゅうぶんな数があるので、問題ない。

 でも、鉄鉱石を火床ほどで溶かし、型に入れて板状にしたり、棒状にしたりするのはなかなか面倒なんだよ。


(中間素材をつくるのが面倒だなあ……)

《ギルドマスターが売ってくれるのですよ》

(えっ!?)

《一度つくったことがあるものは、簡易モードでの作成とギルドマスターからの購入ができるのです》


 え、初耳なんだけど。

 相変わらず、ナビちゃんって気が利くときもあるけど、教えて欲しいことを教えてくれなかったりするんだよね。

 簡易モードとか、NPCのヨセフが説明したりするとリアリティがなくなるから、こういうことはナビちゃんから教えて欲しいんだけどなあ。


(そういうことは、早く教えて欲しかったな)

《採掘家のときに話したのですよ》


 そういえば、一度でも採掘したことがあるものなら、ギルドや露店販売の素材屋から購入することができるんだっけ。

 中間素材も各ギルドでギルドマスターから購入できるってことなんだね。


(そ、そうだったね……ところで、簡易モードってなに?)

《一度つくったことがあるものなら、手順を省いて作る機能があるのです。但し、素材がすべて揃っている必要があるのです。でも、DEX値が低いと失敗して、素材ごと消えてしまうことがあるのです》

(私はDEX値が高いから大丈夫ってことかな)

《たぶん、アオイは失敗の確率が非常に低いのですよ》


 ということは、とにかく鉄の板や鉄の棒、鉄のリベットを自分で一回は作る必要があるってことだね。


 中間素材をつくるにも、課題のファングナックルをつくるにも火床ほどのある場所に移動しないといけない。

 私は踵を返し、火床ほどが並ぶところへと歩を進めた。

 すると、正面からデニムパンツに白のシャツを着たドワーフの男性が歩いて来た。


「やあ、アオイさん。こんにちは」

「あ、確か……ラルフさんでしたね。こんなところで会うなんて奇遇ですね」


 始まりの草原で大きな斧を使って器用に戦っていたドワーフの彼だ。


「なんだか、すごく先に進んでおられるみたいですね。ランキング1位なんでしょう?」


 まっすぐに見つめてくる彼の目には、妬みや嫉みのようなものは感じられない。私のことをしっかりと尊重したうえで、誉め言葉を並べてくれているという印象をうける。


「いえいえ、レベルのほうは頭打ちなの。だから、今はクラフターを始めたところなんです」

「またまた、御謙遜を……その服装はかなり各職業に手をつけているってことじゃないんですか?」

「あ、そうか……」


 ラルフに言われて気がついた。

 ビギナークラフターセットSって、チェーンクエストの報酬なんだよね。

 そのクエストの存在を知っている人じゃないと、この服を手に入れられないわけで……。


「えっと、これは特定の条件をクリアするともらえる装備なんだけど、ラルフさんはもう鍛冶師になっちゃったんですよね?」

「そんな装備があるんですね。で、確かに鍛冶師になっていますが、その条件というのは?」

「クラフター系ギルドの勧誘を一度断ると、お使いクエストがでてくるんです。それで……」


 私はチェーンクエストの内容をラルフに説明した。

 既に鍛冶師になってしまったラルフは大きく肩を落とし、その場に崩れ落ちるのだった。




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