第27話 領主へのお届けもの

「あ、せや。報酬やな、おおきに。受け取ってんか」


《条件発生型クエスト「晩餐会の目玉」を達成したのです。

 130万リーネを入手したのです》


「ありがとうございます」


 130万リーネという数字を見て、思わず私の頬も緩む。

 でも、この報酬額って、漁師ギルドのデニスがつけた金額だよね。そう思うと、本当にこの金額でいいのか心配になってくる。

 もっと高くてもいいんじゃないかとかじゃなくてね、アングラーの見立てでは80万リーネくらいだったのに、なかなか釣れなかったから120万リーネに値付けされたという経緯がある。

 だったらデニスから受け取るのが正しい気がするんだよね。


「本当にこの金額でいいんですか?」

「なんや、足りひんのかいな?」

「いえ、この金額はデニスさんが決めたもので、ニケさんが決める金額じゃないんじゃないかと思ったんです」

「そんなこと気にしとったんかいな。デニスにしたら、漁師たちの利益を守るんが仕事やさかい、うちとしても予算内やったらなんも問題あらへん。それに、調理そのものは領主お抱えの調理師や。うちは必要なものを集めるだけや」

「へえ、そうなんですね」


 確かに、貴族となれば自分たちのお抱え料理人がいるはず。基本的に食材のたぐいはその料理人が集めることになるんだろうけど、珍しい食材やそれに必要な道具はなんらかの伝手つてを使って集めているんだろうね。グラーノ領主のお抱え料理人は、その伝手として調理師ギルド長を使ったっていう感じかな。


「せや。これで、頼まれてるもんが全部揃ったんやけど、あとはこの食材を届けるだけや。せっかく届けてくれたところ悪いけど、その食材と砥石を領主さんとこにおるセバスに届けてくれへんか?」


《条件発生型クエスト「領主へのお届け物」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:S.004

  クエスト種別:条件発生型クエスト

  クエスト名:領主へのお届けもの

  発注者:ニケ

  報告先:セバス

  内 容:調理師ギルドのニケから、領主から依頼されていた晩餐

      会の食材と砥石を、領主の城に届けるように頼まれた。

      預かった食材と砥石を、領主の城にいるセバスへ届けよう。

  報 酬:??????


 セバス、確かセバスチャンの略称だったと思うんだけど、その名前を聞くとなぜか執事ってイメージが湧いてくるんだよね。やっぱりセバスは執事なのかな。

 報酬のほうは、経験値や貨幣が貰えるわけじゃないみたいだけど、なにかを貰えることは間違いないみたい。だったら、断る理由もないし、何よりも条件発生型クエストだからいいものが貰える気がする。


「はい、わかりました」


《条件発生型クエスト「領主へのお届け物」を受注したのです。ニケから受け取った食材と砥石を領主の城にいるセバスに届けるのですよ》


 さて、こうしてギャザラー系の条件発生型クエストも生産ギルドの外にまで行かないといけなくなったことだし、ようやくクラフター系の生産職に手を付けられるね。


 でもその前に……


(ナビちゃん、クエストの受注状況を教えてくれる?)

《クエストの受注状況を一覧表示するのです》


  種別  No. クエスト名        状態   報告先

  メイン 004 北湖ダンジョンを踏破せよ 未達成  ゲイル

  サブ  013 ウォーリーを探せ     未報告  テツコ

  サブ  017 お兄ちゃんが帰ってこない 未報告  リリア


  条件  004 領主へのお届け物     未達成  セバス


  漁師  005 刺突漁を覚えよう     未達成  デニス

  採掘家 005 3つの原石        未達成  アレン


 当たり前だけど、現時点で残っているクエストはすべて生産ギルドの外にでないといけないものばかり。

 サブクエストの2つを終わらせてしまってもいいけど、一度生産ギルドの外に出てしまうと、戻ってくるまでにまた時間がかかりそうな気がするんだよね。


 だったら、生産ギルドの二階――クラフター系の職業を始めたほうがいい。


 この先の行動を決めた私は、悩みながら二階の廊下を歩きはじめる。


 初めて生産ギルドにやってきてホバーボードを見たときは、クラフター系をするなら魔道具師かなって思っていた。でも、戦狼の牙刀もかなり傷んできたことだし、再びゴールドディアと戦うことなんかを考えると新しい装備も欲しい。と、なると先ずは鍛冶屋から開始するのがいい気がする。


 とはいえ、クラフター系の職業は8つもあるからね。何から始めるのが効率的なのかも気になるね。


(ナビちゃん、最初に始めるクラフター系の職業って何がおススメ?)

《アオイの好きなようにするといいのです。クラフター系の職業は、互いに素材を融通し合ってモノづくりをするのです。何から始めてもあまり差はないのですよ》


 例えば鍛冶師になってナイフを作ったら、グリップ部分を作るのに木材や皮革を使ったり、布を使ったりする。それを強固に固めるために糊になるものを使ったりもするけど、そんな各種の素材は裁縫師や革細工師たちから融通してもらえばいいってことね。


(でも、どうやって融通してもらうの?)

《各ギルドのギルドマスターが売ってくれるのですよ》

(えっと、鍛冶師が木材が欲しいときはギルドマスターから買うってことかな)

《木材は木工師、糸や布は裁縫師、皮革製品は革細工師のギルドマスターから購入するのです》


 なるほどお。

 その素材になるギルドに行けば手に入るってことなんだね。でも、それだと魔道具師ギルドや調理師ギルドはあまり素材として交換するものがないような気がするけど……。

 まあ、実際に何かを作り始めたわけでもないし、作り始めたら素材が必要になって魔道具師ギルドや調理師ギルドの世話になりそうだから、そのときにわかればいいよね。

 今はとにかく戦狼の牙刀を修理したいからやはり鍛冶師ギルドに行くことにしましょうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る