第25話 最高の砥石

 私はコリーナのところでレベル15のクエストを受けた。


 レベル15のクエストのタイトルは「森の恵み」で、内容はグラーノ森林地帯で採れるポルチーニ茸を10個集めて採集家ギルドに納品するというもの。

 蜂蜜を採集する際に運よく10個手に入れていたので、それを納品した。

 ポルチーニ茸はこれでインベントリからなくなってしまったけど、冒険者手帳のグラーノ森林地帯部分は終っていないからね。そのときに見つけたらまた集めればいいよね。


《採集家クエスト「森の恵み」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが24になったのです。

 ミッドレンジギャザラーマフラーを入手したのです。

 15,000リーネを入手したのです》


「ありがとうございます」

「次はレベル20になったら来てね」


 報酬を受け取るまで笑顔だったコリーナが、一瞬で真顔になって正面をじっと見つめる。会話シーンが終ったってことだろうけど、ちょっとだけ怖いかも。


「あの、コリーナさん」

「あら、アオイさんじゃない。もうレベル20になったのかな?」

「はい、レベル20になりました」

「すごく頑張ってるわね。じゃあ、次の依頼なんだけど……」


 コリーナがどこからともなく、一本の枝を取り出す。

 その先には白いふわふわとした綿がついている。


「綿花、ですか?」

「そう、綿花よ。裁縫師ギルドから依頼をうけているの。なかなか見つからないらしくて、困っていたの。とりあえず10個ほど、採ってきてくれるかしら?」


《採集家クエスト「綿花みえへんか?」が発生したのです。クエストを受けるのです?》


  クエスト番号:LG-005

  クエスト種別:職業クエスト(採集家)

  クエスト名:綿花みえへんか?

  発注者:コリーナ

  報告先:コリーナ

  内 容:裁縫師ギルドによると綿花が不足しているそうだ。

      綿花10個を入手して、コリーナに届けよう。

  報 酬:経験値12,000×2 貨幣24,000リーネ

      ミッドレンジギャザラーベルト


 な、なんか無理にダジャレにしようとした感じのするクエストタイトルだね。これを考えていた人って、どんな人なんだろうね。

 今までにもダジャレっぽいクエスト名があったけど、考えたのは同じ人なんだろうなあ。


「はい、わかりました」


《採集家クエスト「綿花みえへんか?」を受注したのです。綿花10個を入手して、コリーナに届けるのですよ》


「よろしくね」


 白い歯を輝かせるようにウインクするコリーナだけど、美形エルフの笑顔は破壊力がすごいね。本当に目が眩みそう。


 気を取り直して、私はインベントリを開く。綿花は裁縫師になるのに必要だと思って、火山島ハーブ園で多めに入手していたんだよね。


「綿花10個、これでいいですか?」

「あら、もう手に入れてたのね」


 ふわふわの綿花を10個となると結構なボリュームがある。

 私が近くにあったテーブルの上に綿花を置くと、コリーナは品定めするような目で一つひとつ数えていく。


「ありがとう。とりあえず、これで口うるさいシモーネも静かになりそうだわ。これは報酬よ」


《採集家クエスト「綿花みえへんか?」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが26になったのです。

 ミッドレンジギャザラーベルトを入手したのです。

 30,000リーネを入手したのです》


「ありがとうございます」

「これで、アオイさんはこのギルドから卒業ね」

「そ、そうですね……」


 農家ギルドでもそうだったけど、やはりグラーノにある生産ギルドのクエストはレベル20までみたいだね。


「次はレベル25になったら王都の採集家ギルドで依頼を受けられるから、がんばってね」

「はい、がんばります!」

「たまには顔を出しにきてくれてもいいのよ?」

「そうですね、また遊びにきます」

「ふふっ、楽しみにしてるわ」


 なんだか、親しみやすい感じのエルフだ。


 誰かさんとはまた違ったおもむきがあるなあ、と思った瞬間、何かが背中をなでたかのような感じがして、背筋がゾクッとした。

 ゆっくりと踵を返すと、視界の中――ほんの数ⅿ先ほどの場所にローラが立っている。

 頭上にビデオカメラのアイコンが表示されているから、シモーネと話をしているんだろうね。


 そもそもフレンド登録をしていないし、スカウトセットSを着て認識阻害(弱)がかかっている私のことをローラが気付いていないと思うけど、万が一にも気づかれないうちに外に出た方が良さそうだ。


 私は周囲にいるプレイヤーに気づかれていないことを確認しながら、そっと採集家ギルドを出て、突き当りにある採掘家ギルドに向かった。

 通路は大勢のプレイヤーで埋めつくされ、床の軋む音に靴音、話し声が混ざり合って正直、とても喧しい。

 私以外は獣人やエルフ、ヒト族なので前の方がほとんど見えないから、少し不安になってくる。

 とはいえ、採掘家ギルドまでは一直線だからね。迷ったりすることなんてなく、すぐに到着した。


 扉を開いて中に入ると、先ほどの採集ギルドと同様にギルドマスターの前に大勢の人だかりができていて、ギルドマスターであるアレンの姿が見えない。

 やはりドワーフだから背が低いし、余計に見えにくいんだろうね。


 気にせず近づいていくと、何人ものプレイヤーの体をすり抜け、アレンの前に出た。


「お、嬢ちゃんじゃないか」


 人ごみの中から顔を出した瞬間、アレンのほうから声がかかる。


「こんにちは、アレンさん」

「ちょうどいいところに来たな。ちょっとお使いをお願いしたいんだよ」


 やはり、なにかクエストがあるみたいだね。

 私がどんなクエストなのかたずねるまえに、アレンは目の前に見事な立方体に成形された砥石を置く。


「このあいだ納めてもらった高品質の珪質頁岩けいしつけつがんがあっただろう?」

「はい、ありましたね」

「それを儂が成形、加工したものだ。最高品質といってもいい仕上げ砥石ができあがった。これを調理師ギルドのニケに届けて欲しい」


《条件発生型クエスト「最高の砥石」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:S.003-2

  クエスト種別:条件発生型クエスト

  クエスト名:最高の砥石

  発注者:アレン

  報告先:ニケ

  内 容:採掘家ギルドのアレンから、最高品質の仕上げ砥石を

      調理師ギルドのニケに届けるように頼まれた。

      預かった砥石を調理師ギルドのニケに届けよう。

  報 酬:経験値3,000×2 貨幣????リーネ


 やっぱり、採掘家ギルドでも条件発生型クエストがあったんだね。





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