第24話 最高の薬味
採掘家ギルド、漁師ギルド、農家ギルドと回ってきたから、最後は採集家ギルド――と、いうことで私が農家ギルドを出て、採集家ギルドへと向かうことにした。
農家ギルドを出ると、一気に他のプレイヤーが視界の中に表示されるようになった。やはり生産ギルドは人が多いね。
(ナビちゃん、農業ギルドの中は人が少なかった気がするんだけど……)
《冒険者のピアスがないと、街の外にある農園で作物を作らないとレベルが上がらないからなのです》
(そ、そうなんだ……)
グラーノ農業地帯で畑を借りられるんだっけ。
まだ行ったことがないけど、機会があれば畑を借りて何かを栽培してスローライフを楽しむのもいいと思うんだよね。とはいえ、メインの職業がレベルキャップに到達してからのお話かな。
農家ギルドを出て、左に向かった先に採集家ギルドがある。
相変わらずプレイヤーの数がすごくて、私の身長だと先に見えるはずの採集家ギルドの扉が見えない。ただ、なんだか他のプレイヤーからの視線を感じる。
これは他のプレイヤーと違って、私だけがミッドレンジシリーズの装備を着けているからだね。スニークは魔物以外には有効ではないから。
そうして、たった1人だけ浮いた格好をしていれば、目立つのも当然だよね。
さっきから、「お前が声を掛けろよ」なんて声が聞こえてくるし急いで採集家ギルドに向ったほうが良さそう。
(ナビちゃん、とりあえずスカウター装備に変更して)
《はいなのです》
一瞬で装備が変わると、私は採集家ギルドへと駆けだした。
案の定、認識阻害(弱)の効果が発動し、人混みの中に紛れ込んだ私のことを認識できるプレイヤーはいないはず。
採集家ギルドの中も人で溢れ返っていた。
採掘家ギルドと同じように、大勢のプレイヤーに囲まれるかのようにしてギルドマスターのコリーナが見える。と言っても頭上のネームプレートだけだ。
私はコリーナに近づいて話しかける。
近づくと、じっと正面を見つめて立っているコリーナの姿が見えた。
「こんにちは、コリーナさん」
「あら、アオイさんじゃないですか。今日はどんな御用件で? あ、お願いしていたもの、採集してきてくれたのですか?」
(グラーノ森林地帯に向かうときに、何かクエストを受けていたと思うんだけど何だっけ?)
《蜂密を採集するクエストを受けていたのですよ》
(あ、そうだったね)
「はい、こちらが蜂密です」
「ありがとうございます。早速、確認しますね」
コリーナは、受け取った蜂密を手にとると、光に透かして不純物が入っていないかどうか確認をし、次に白い紙の上で密の色を確認した。
最後はティースプーンに少量だけ掬って味を確認する。
どこかうっとりとした表情で試食をするコリーナだけど、そんなにおいしいのかな。
「あ、あら。ごめんなさいね」
遠くへと飛んだ意識を取り戻したかのように、恍惚とした表情を引き締めたコリーナが取り繕うように謝る。
「いえ、味見するのもお仕事だと思いますから」
残念だけど、ゲームの仕様上、私たちプレイヤーはその甘さや味を知ることができないんだよね。
だから少し羨ましいな。
「とても良い蜂蜜ですね。なんの花から集めた蜜なんでしょう」
「たぶん、シロツメグサだと思います。花畑があって、そこでグレイトビーを見つけて追いかけたので……」
「なるほど、そういう巣の見つけかたもあるのですね。参考になるわあ」
蜂の子を食べる地方だと鶏のササミなんかを餌にして、スズメバチの巢を探すって聞くけど、アルステラのNPCはどうしているんだろう。
「普通の人はどうするんですか?」
「森の中を歩いて探すのよ」
「えっ?」
「飛んでいるグレートビーを見つけたら追いかけるの。本当よ?」
「へ、へえ……」
これまでもたくさん蜂密を採ってきていると思うけど、まさかそんなに原始的な方法を使っているなんて思いもしなかった私は、ただ声を失った。
「えっと、依頼どおり蜂密を3つ、確認しました。こちらが報酬です」
少し気まずくなったのか、コリーナは慌てたようすで言った。
《採集家クエスト「蜂に刺されないように」を達成したのです。
レベルが上がったのです。
採集家レベルが22になったのです。
中級採集セットを入手したのです。
8,000リーネを入手したのです》
そういえば、グラーノ農林地帯や火山島ハーブ園でいろいろと採集してかなりレベルが上がっていたんだよね。
「ありがとうございます」
「次は、レベルが15になったら来てね」
言って、コリーナは私が話しかける前にしていたように、じっと前を見る。クエストがひと区切りしたサインみたいなものなのかな。
とにかく、生産職の場合はレベル20までグラーノで職業クエストがあるみたいだから、受けられるところまで進めてしまいましょう。
「えっと……」
「あ、アオイさんじゃないですか。ちょうどいいところに来てくれましたね」
「え、ちょうどいい?」
「ちょっとお願いがあるのよ。とても簡単なことだから引き受けてくれないかしら?」
お願いっていうことは……。
「このワサビをニケに届けて欲しいの。調理師ギルドのニケから頼まれていたのだけど、見てのとおりギルド員が急に増えたものだから時間がなくて。どうかしら?」
《条件発生型クエスト「最高の薬味」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》
クエスト番号:S.003-3
クエスト種別:条件発生型クエスト
クエスト名:最高の薬味
発注者:コリーナ
報告先:ニケ
内 容:採集家ギルドのコリーナからワサビを調理師ギルドの
ニケに届けるように頼まれた。ニケに荷物を届けよう
報 酬:経験値3,000×2 貨幣????リーネ
また、ニケへのお届け物だ。
最初に漁師ギルドで晩餐会への食材としてブラックバレットを届けるクエストを受けて、次に農家ギルドでお米を届けるクエスト、次は採集家ギルドでワサビを届けるクエストと続いて来た。
クエスト番号もS.003-2が抜けているし、これは採掘家ギルドで何かを届けるクエストがありそうだね。
「はい、いいですよ」
《条件発生型クエスト「最高の薬味」を受注したのです。ヤンから受け取った食材を調理師ギルドのニケに届けるのですよ》
とはいえ、採集家のレベルは20まで上げておきたいから、先にクエストを受けることにしよっと。
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