第23話 最後の訓練

「それでは……」


 ヤンは私に声を掛けると、なぜか歩き出した。

 どこに行くのかと見ていると、いつも話しかける時にいる場所に移動するようだ。

 そういえば、どのギルドに行ってもNPCはいつも同じ場所にいる。いや、ナツィオの村にいた冒険者ギルドの受付……確か、最初はエミリーだったけど、途中でコニーリョっていう女性エルフに代わってたね。時間帯的なものだとか、受けているクエストの状況なんかにも左右されるのかな。


「えっと、ヤンさん」

「お、アオイ君じゃないか。もうレベル20になったのかい?」


 声を掛けると、ヤンはつい先ほど、レベル15のクエストを報告したばかりなのに、すごく時間が経っているかのような返事をした。

 ゲームの中だし、クエストを受注できるかどうかを決める条件を満たしているかどうかを優先的に確認するようになっているんだろうね。


「ええ、レベル20になりました」

「ふむ……では、次の訓練だな。ついてきなさい」


 畑を作るところから始めて、種を植えたり、雑草を抜いたり、害虫の駆除したり……いろいろとやってきたけど、次はなんだろう。

 ヤンの後ろについて歩いて行くと、いつもの畑に到着する。


「わあ、もうこんなに……」


 ほんの数分前に害虫駆除したばかりのはずの畑は、すべてが黄金色に染まっていた。

 クエストのためとはいえ、この農家ギルド内の畑だけは成長が早いみたいだね。

 よくみると、小麦の穂は、一つひとつにはじけそうなほどに実が詰まっている。とても良い出来であることは素人の私にでも理解できた。

 そんな私の状況などまったく興味がないと言わんばかりに、ヤンが私に向かって告げる。


「では、最後の訓練だ」

「え、最後なんですか?」

「正確にはこの街で受けられる訓練はこれが最後だ。さあ、自分で植えた小麦をすべて収穫したまえ」


  クエスト番号:FM-005

  クエスト種別:職業クエスト(農家)

  クエスト名:小麦を収獲しよう

  発注者:ヤン

  報告先:ヤン

  内 容:アオイの努力もあって、畑には大量の小麦が実った。

      自ら畑を耕し、種を植えて世話をしてきた小麦を収穫

      しよう。

  報 酬:経験値12,000×2 貨幣30,000リーネ

      ミッドレンジギャザラーグローブ


「わかりました」


《農家クエスト「小麦を収獲しよう」を受注したのです。畑に実った小麦を収穫し、ヤンに報告するのですよ》


 収獲には中級農家セットに入っていた鎌を使えばいいのかな。

 そういえば、麦や稲って根っこから刈り取る感じでいいんだよね。石器時代なんかは脱穀や製粉、精米技術が進んでいなかったから穂の部分だけを切っていたみたいだけど……。


 刈り取り方を考えながらじっとたわわに実った小麦たちを眺めていると、ヤンが思いだしたかのように腰を屈め、小麦の根元を掴んで話し始める。


「収穫の際は、こうやって根元を掴んで鎌で刈るように。そういえば、穂だけを刈り取る者がいたんだ。そいつはどうなったかわかるかい?」

「いえ、どうなったんです?」

「再度、麦わらだけを刈り取ることになったんだ。そんな二度手間で苦労しないように、ちゃんと根元を掴み、刈るようにしなさい」

「はい、ありがとうございます」

「足を怪我したりしないようにな」


 ヤンは私に背中を向け、自分の畑へと向かって歩いて行った。


 考えてみると、麦わらって帽子にしたり、鞄を編んだりすることができるんだよね。だとしたら、麦藁は裁縫師ギルドで素材になるかも知れないね。


 私はヤンがやったように屈むと、左手で小麦の束を掴み、右手に取り出した鎌で刈り取る。


 ザクッという音と共に、掴んでいた小麦の束が消え、畑一面分の小麦が刈り取られる。同時に、小麦粉の袋と麦藁の束が浮かび上がってインベントリの中へと吸いこまれていった。


《畑×1面分の収穫ができたのです。

 小麦粉10袋、麦藁50束を手に入れたのですよ》


 なんだか、凄く豪快な収穫作業だね。

 でも、50束も刈り取っていたら時間がかかるし、半分だけ刈り取る……なんて、半端なことができないようにもなっているんじゃないかな。


(ナビちゃん、麦藁5束で、小麦粉の袋が1つできるのかな)

《畑の状態や、小麦の作物の状態によって増減するのです。畑1面で最大小麦粉10袋まで収獲できるのですよ》

(ということは、麦藁50束でも小麦粉が8袋になったりするってこと?)

《そうなのです。雑草抜きや害虫駆除をしっかりしていればたくさん収獲できるのです》


 ここの畑で10袋の小麦粉が手に入ったのは、レベル20までの「訓練」で作物を「育てる」ことが目的なんだろうね。

 植えておけば、あとは水やりをするだけで数時間後、数日後に収獲できるゲームはあるけど、雑草抜きや害虫駆除までしないといけないゲームは初めてじゃないかな。常につきっきりじゃないといけないわけじゃないけど、メインクエストを進めるだけだとすぐにレベルキャップに達しちゃうし、手間暇かけて作物を育てるっていうのも悪くないかもね。


《畑×1面分の収穫ができたのです》

《畑×1面分の収穫ができたのです》

《畑×1面分の収穫ができたのです。

 農家クエスト「小麦を収獲しよう」が進んだのです。ヤンに報告に行くのですよ》


 考えながら、残りの畑、3面分の収穫を済ませた。

 辺りを見渡して、自分の畑らしき場所にいるヤンを見つけると、駆け寄って話しかける。


「ヤンさん、収獲が終りました」

「なんだ、もう収獲が終ったのかい。どれどれ……」


 ヤンは立ちあがって、私の畑の方へと目を向けた。


「ああ、預けた畑4面分の収穫が終わっているな。これは報酬だ、受け取りなさい」


《農家クエスト「小麦を収獲しよう」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がったのです。

 レベルが25になったのです。

 ミッドレンジギャザラーグローブを入手したのです。

 30,000リーネを入手したのです》


 なんだか、とてもあっさりと報告が完了したね。


「さて、次はレベル25になったら、王都の農家ギルドに行って続きの訓練を受けなさい」

「はい、わかりました」


 採掘家ギルド、漁師ギルドはまだレベル20のクエストが終っていないから知らなかったけれど、グラーノの生産ギルドで受けられるクエストはレベル20までなんだね。

 じゃあ、他のギャザラー職はレベル20まで上げておくのが良さそうだね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る