第10話 火山島ハーブ園

 さて、どうやって島の一番上まで登ったものか――考えた私は、ホバーボードに乗って島をぐるりとみてまわった。

 火山として噴火してできたときは山らしい形をしていたようだけど、波や風に浸食されて、海側の山肌は全体的に崩れ落ちていた。おかげで100ⅿほどもある切り立った断崖を登らないといけないことは確定かな。

 波で削られた玄武岩や安山岩が丸く覆うように島を形成しているせいで、周囲には砂浜が存在しない。砂利というのが躊躇われるほどの大きな石や中程度の石が集まった狭く小さな砂利浜があるていどで、その先は磯浜になっている。


「これ、断崖を登るしかないよね……」


 オートマッピングで作成された外周地図を確認して、島のまわりを一周したことを確認した私は諦めのこもった溜息をついた。

 どこかトンネルみたいなのがあって、島の中に簡単に移動できる方法があると思っていたんだけど、あるのは階段状になった玄武岩の柱のみって感じだね。


《硬い玄武岩でできた石段を登るしかないのです》

(これ、だいじょうぶなの?)

《プレイヤーによって登っている岸壁が崩れることはないのです》


 ゲームの中で木を切っても、伐採ポイントに斧を叩きつけるだけで、実際にその木が倒れてくるわけではない。採掘のポイントも同じで、光っている採掘ポイントにツルハシを叩きつけると、鉱物がインベントリに増えていくだけで、採掘ポイントが削られるわけではない。

 同じように、この玄武岩の岸壁もプレイヤーの崩れることはないってことね。


(でも、雨風や波の力で削られたからこんな形をしているんだよね?)

《そうなのです。波浪による浸食は発生する可能性はあるのです》

(運が悪ければ登っている岩が根元から崩れることも?)

《あるのです》


「うへえ……」


 私は聳え立つ断崖を見て、上から落ちたことを考えてしまい、ぞっとした。

 まだゲーム内で死んだことはないけれど、他のゲームでなら何度も死んだことがあるんだよね。

 僅かな時間だけれど、暗転して真っ暗になる。

 それが、初めてXRDを装着ときよりも前のこと。まったく何も見えない暗闇の中で生きてきた自分を思い出させる。


 正直、ゲームの中で死ぬというのがとても怖い。


《HPが80%以上残っていれば、落下するようなことがあってもHP1で生き残るのです》

(え、そうなの?)

《そうなのです。ただ、MOBにやられると死ぬのです》

(ああ、そうだね)


 HP1しか残っていないとなると、MOBのちょっとした攻撃で行動不能となって死ぬことになるからね。

 とりあえず、足下に気をつけて登っていくしかなさそうだね。


 覚悟を決めた私は、ホバーボードから降りて玄武岩でできた石の階段を登り始めた。

 案ずるよりも産むが易し――なんて言葉があるけれど、実際に登ってみると高いAGI値とDEX値のおかげか、はたまたチュートリアルや静寂の森で鍛えた立体的な動きのせいか、トントンと柱状節理の上を駆け上っていける。


 考えてみると、第3層の出口がここにあるなら、それを通り抜けた第4層の入口のところにフロアポートがあるんだから、ここを登るのは最初の一回だけで済むんだよね。


 ふと、足をとめて全体を見渡してみると、足場の大きさは概ね60㎝から1ⅿくらい。

 私は小柄で俊敏なハーフリングだからここの直径60㎝から1ⅿていどの足場でも全然気にならないけど――全体的に大きな虎人族や熊人族のような体型の人だとかなり怖いかも知れないなあ。

 まあ、他人事ひとごとだからどうでもいいんだけどさ。


 再び、断崖に立つ柱状節理の上を駆け上っていくと、数分で頂上に辿りついた。現実世界でこんなことをすると息切れするし、休まないと無理だけどね。


 山頂から海のほうへと視界を向けると、蒼茫そうぼうと広がる空と海の世界が広がる。他にはぽつんと空に浮かぶわた雲くらいしかない。

 一方、山の中へと視界を転ずると、そこは緩やかにすり鉢状になった草原が広がっていた。生い茂る草は白に赤、黄色や紫など様々な花を咲かせていて、もし現実世界と同じくらいの嗅覚で匂いを嗅ぐことができるなら、むせぶほどの香りに包まれていたに違いない――そう思えるほど、たくさんの花が咲いていてた。


(あれが出口かな?)

《あれが第四層に繋がる出口なのです》


 草原の中央付近には、きれいな円錐形をした火山らしきものがあった。

 その火口部分は何故か石で補強されるように固められていて、その中央には地下へ続く螺旋状の階段になった石積みが見える。


《そうなのです。ただ、第4層に向かう前に採集をするといいのですよ》

(そうだね、ナビちゃんお願い)


 私がお願いするのとほぼ同時に、装備が入れ替わって採集家へと切り替わる。


「うわあ、すごいね……」


 それまで草花が咲いている様子しか見えなかったというのに、職業を変えた瞬間に視界全体に広がるキラキラと輝く採集ポイントに変わった。


  <鑑定>

  名前:綿花

  説明:綿の糸、生地の元になる一年草の実。種子は中に入っており

     綿だけを取り出して加工する必要がある。

     裁縫の材料。

  採集:採集家レベル10以上


  <鑑定>

  名前:クミン

  説明:カレーや羊肉料理など、様々な料理の香りづけに用いられる

     スパイス。

  採集:採集家レベル10以上


  <鑑定>

  名前:パクチー

  説明:別名、香菜と呼ばれる香草。種子はコリアンダーと呼ばれ、

     カレーなどに使用される。

  採集:採集家レベル10以上


  <鑑定>

  名前:バジル

  説明:葉に甘くスパイシーな香りをもつ多年草。白い花を咲かせ、

     実は水分を吸収するとゼリー状の物質を周囲に作り出す。

  採集:採集家レベル10以上


 白い花がたくさん咲いていると思ったけど、綿花もたくさんあるみたいだね。他にもいろんな野草……というかハーブやスパイスの類もあるみたい。なんか、火山島ハーブ園って感じ。

 これは採集していかなくちゃね!!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る