第8話 火山島

 さすがに何度もタイニークラーケンからの攻撃をうけるのは面倒なので、私はホバーボードを遠巻きに走らせ、キラーフィッシュのようすを見た。

 さきほどはほぼ正面からキラーフィッシュの群れに突っ込んだのもあって、何層もの壁状になって攻撃してきたみたいだね。

 あるていど離れて距離を保っていれば問題ないのは当然だけど、他にも群れの背後に回り込めば、襲ってくることがないことがわかった。

 考えてみるとそうだよね、前に向かって泳いでいるんだから、背後に回り込まれても反応するのは難しいもの。それに、先端である頭のほうに視野が広い目をもっていても、魚型MOB特有の流線型の体は真後ろに死角ができるみたい。

 とはいえ、相手は海の中、私は海の上だからね。ナイフを投げたところで当てることさえ難しいだろうな――と、考えていると一匹が群れから離れ、私にその長い嘴を突き立てようと飛び掛かってきた。的確に心臓を狙って飛んでくるあたり、キラーフィッシュの名前は伊達じゃない。

 私はホバーボードの上で上体を反らし、右手を伸ばしてキラーフィッシュを掴んだ。

 突然掴まれて驚いたのか、キラーフィッシュは長い体を左右に大きく振って、逃げようとする。その反動はかなりのもので、ホバーボードが大きく揺らされて勝手に動き出してしまう。


  <鑑定>

  名前:キラーフィッシュ

  3mほどの体長がある、魚型の魔物。

  海中を高速で泳ぎ、その長く尖ったくちばしを槍のように

  使って攻撃してくる。

  くちばしは槍の穂ややじりなどに加工して使用できる


 鑑定結果には特に弱点だとか、攻略法的なことは書かれていない。でも、今回と同じように、群れの背後から近づけばいいみたいだね。

 安全かつ、簡単という意味では一番楽な戦いかもしれないから、コツコツと一匹ずつ倒していくことにしましょう。


《キラーフィッシュを倒したのです。

 800リーネを入手したのです。

 冒険者手帳「北湖ダンジョン第三層」キラーフィッシュ(5/5)を達成したのです。経験値、25,000を入手したのです。

 キラーフィッシュの魔石×1を入手したのです。

 キラーフィッシュのくちばし×1を入手したのですよ》


 合計5匹目のキラーフィッシュを倒したところでナビちゃんが冒険者手帳のキラーフィッシュの課題をクリアしたことを教えてくれた。


「ふぅ……」


 私はひと息つくと、ナビちゃんに話しかける。

 実は、いつ、また壁のようになって迫ってくるのか全然わからなくて、ドキドキしながら戦ってたんだよね。


(意外に、タイニークラーケンよりも格下なんだね)

《キラーフィッシュは1匹の強さはたいしたことがないのです》

(うん、そうだね)


 そう、本当に一匹あたりの強さはたいしたことがないんだよね。

 最初に突っ込んできたキラーフィッシュは戦狼の牙刀で簡単に切り裂けたからね。

 ただ、何匹も続けて突っ込んでくると手に負えない。個の力ではなく、集団で襲ってくるMOBという意味では一番怖い敵だったのかも知れない。

 まあ、背後にまわってしまえば全然怖くないんだけどさ、問題はこのあとどうやって第4層の入口まで行くか、なんだよね。


 ダンジョン内でスキルによって自動マッピングされた地図は、海上で8の字が連なったような形をしていた。結果的にキラーフィッシュの回遊ルート……的なものが描かれているんだけど、その周囲にも陸地らしきものは見当たらない。


(とりあえず、キラーフィッシュの回遊ルートの向こう側に行こうかな)

《それがいいと思うのですよ》


 ナビちゃんも同意見のようだった。マップが開けていないから、実質その方向しかないんだけどね。


 ホバーボードの速度を上げて、回遊ルートを横切って反対側へと向かう。速度が出ているせいか、キラーフィッシュやタイニークラーケンに襲われることなく、反対側に出た。


 海面を見ると、夜の闇よりも濃い黒色をしていて、どこまでも深い海なのだろうということが簡単に想像できた。


「ホバーボード様様だねえ」


 船を自作して渡るとなると、突っ込んでくるキラーフィッシュへの対策や、タイニークラーケンへの対策も十分に考慮する必要があると思う。

 もし対策が不十分でこの深い海に放り出されたら、たぶん帰ってこれないと思ってしまうんだよ。それくらいこの海の色は深淵を覗いているような、そんな印象を抱かせる怖い海だった。


 でもホバーボードを操ることができれば、そのあたりの心配がない。


 特に目印になるようなものがない洋上を、淡々と進んで行く。


「あ、島かな?」


 水平線の上に、平らな山の頂らしきものが見えた。なかなか大きな山のように見える。

 そのままホバーボードを走らせていくと、だんだんと島の形が見えてくる。

 どうやら、海の中から円柱のような島が伸びているというか、海に円柱状の陸地を突き刺したような形をしている島だった。


(これは、火山島なのかな?)

《そのとおりなのです。海底火山が爆発して海面より高い島になったのです。でも、波の浸食で周囲が削られて今の形になったのですよ》


 なるほど、ダンジョンの中とはいえ、波はあるので島のようなオブジェクトは長年をかけて浸食を受けるという設定なんだね。

 確かに、東京にも青ヶ島みたいな孤島があって、そこも断崖絶壁に囲まれていたはず。ゲームの中にそういう島があってもおかしくはないと思うよ。でもさあ……


「どうやって上陸すればいいんだろう……」


 100ⅿはあるだろう断崖絶壁に囲まれた島を見て、私はついつい呟くのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る