第7話 壁

 タイニークラーケンを倒した私は、北湖ダンジョン第4層に向かう出口を探し、ホバーボードに乗って洋上をさまよっていた。


(出口の方向はどっちなのよ……)


 四方は海しか見えず、本当にどちらに向かって進めばよいのかさえわからない。まあ、マッピングスキルで作成される地図を使うと戻ることはできると思うんだけどね。


《こっちの方角なのです》

(ナビちゃんを信じるよ)


 ただ広い洋上の先を見つめてホバーボードを走らせる。

 しばらくすると、なにかが洋上を跳ねるようにしてこちらに向かってくるのが見えた。


(ナビちゃん、あれは?)

《キラーフィッシュなのです。長い身体で跳びはねながら泳いでくるのですよ》

(へえ、アングラーさんが言ってた魚だね)


 ナビちゃんに話しかけながら、私はアングラーが言っていたことを思い出す。


 ――一直線ではなく、ジグザグに動くんだ


 言われたとおり、ジグザクにホバーボードを操ってキラーフィッシュの群れがいる方向へと進んで行く。


(遠回りしないのです?)

《手帳を埋めたいからね。せめて5匹は倒したいかな》


 左右に大きく、ときに小さく弧を描きながらホバーボードを操って進むと、射程距離に入ったのか数匹のキラーフィッシュが海中から飛び出してきた。くちばしの長い魚だけど、秋刀魚を長くしたような形をしている。

 そのスピードはタイニークラーケンの触腕と比べると数倍速い。

 こちらはホバーボードの上で両足を固定されているというハンディキャップがあるから、思うように動けないのが辛いところだね。

 それでもレベル24になった私のAGIとDEXは100を超えているから、避けるのも攻撃するのもとても容易い。


 10mくらい前方の海面から飛び出してきたキラーフィッシュを余裕で躱すと、右手に持つ戦狼の牙刀を正確に目に突き刺す。

 それだけで、キラーフィッシュは自身の勢いで大きく切り裂かれ、ポリゴンになって消えていく。


《キラーフィッシュを倒したのです。

 800リーネを入手したのです。

 冒険者手帳「北湖ダンジョン第三層」キラーフィッシュ(1/5)を達成したのです。

 キラーフィッシュの魔石×1を入手したのです。

 キラーフィッシュのくちばし×1を入手したのですよ》


 まずは1匹倒したのはいいんだけど、他に飛んでくるキラーフィッシュの数が多すぎる。ひっきりなしに私を串刺しにしようと突っ込んでくるんだもん。


 ホバーボードを全速力で走らせ、私はキラーフィッシュの集団から距離を取ることに成功した。


 数匹がバラバラに飛んでくるのならわかるし、避けながら攻撃もできると思う。でも、キラーフィッシュの壁みたいなのができて私に向かって飛んでくるんだから流石に逃げますよ。


「いったいどうしろと?」


 そんなに高いところを飛んでくるわけじゃないから、真上に飛びあがるという方法もあるとは思う。でも、それで避けられるのは1枚目の壁だけ。2枚目、3枚目の壁みたいに何枚も続いていたらアウト。ホバーボードの上という不自由な場所だと無理があるよねえ。


《タイニークラーケンなのです》

(ああ、止まっちゃったから……)


 先ほどと同じように触腕と脚が海面から飛び出してくる。私はホバーボードを操ってそれを避け、戦狼の牙刀で胴体を切り裂いて全く小さくないイカを捌いた。


《タイニークラーケンを倒したのです。

 1,200リーネを入手したのです。

 冒険者手帳「北湖ダンジョン第三層」タイニークラーケンが(2/5)になったのです。

 クラーケンの魔石×1を入手したのです。

 クラーケンの墨袋×1を入手したのですよ》


 タイニークラーケンは完全に倒し方ができあがった気がする。動きが鈍いし、1匹ずつしか現れないからね。

 で、キラーフィッシュは体長は3ⅿほどあると思うけど、ただ避けるだけなら一瞬で通り過ぎていってしまうから、タイニークラーケンのように後を追って攻撃するっていうのが無理なんだよね。

 しかも、それが群れを成してこちらに向かってくるんだから、やっぱり厳しい。


 こういうときに盾役のプレイヤーが仲間にいたら落なんだろうなあって思っちゃうなあ。


《タイニークラーケンを倒したのです。

 1,200リーネを入手したのです。

 冒険者手帳「北湖ダンジョン第三層」タイニークラーケンが(5/5)を達成したのです。経験値、30,000を入手したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが25になったのです。

 冒険者手帳のボーナスポイント、「北湖ダンジョン3種類のMOBを討伐する」を達成したのです。

 経験値ボーナス30,000を入手したのです。

 クラーケンの魔石×1を入手したのです。

 クラーケンの墨袋×1を入手したのですよ》


 海の上に浮かんで、キラーフィッシュをどう料理するか。いや、料理はしないんだけどさ。考えている間に襲ってくるタイニークラーケンを倒していたら冒険者手帳のおかげでレベルがあがったよ。

 なんだか、レベルが上がるのがすごく久しぶりな感じがするんだけど……寝ていたからかな。


 そういえばナツィオ村の職業ギルドで受けたクエストは、レベル1と5、10、15だったよね。グラーノでレベル20と25のクエストも受けないといけないかな。


 でも、今はとにかく第4層に行きたいんだよね。


 ほんと、キラーフィッシュの攻略法を考えないとね。





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