幕間 ローラの配信(2)
「え、嘘だろ……」
プレイ動画の配信中にも関わらず、俺は声を漏らしてしまった。
ちょうど、北湖ダンジョン第三層に到着したときに動画配信サイトからメッセージが届いた。
俺は再び、届いたメッセージのタイトルを黙読する。
《コミッション改定及び投げ銭機能解放のお知らせ》
ゲーム配信者の世界は専業配信プレイヤーをトップとした、巨大なピラミッドのような構造をしている。
世界のトップ10に入るダイヤモンド級専業配信プレイヤーだと、年間のコミッションは100億円を下らないといわれていて、アーカイブ収入だけでも死ぬまで遊んで暮らせるなどと言われる。
トップ100のプラチナクラスになると数億から数十億、トップ1000のゴールドクラスだと1000万円以上は稼ぐことができる。
だが、多くの配信プレイヤーは底辺と言われるブロンズに属している。小遣い程度にしか稼げない、年収100万にも満たないプレイヤーたちだ。実は俺もそのうちの1人でしかない。
でも、プラチナやゴールドになるという夢を持つ者は多く、ネットワークに接続可能な環境と設備さえあればいいので、毎日のように新しいチャネルができている。
俺は急いでッセージを開き、無我夢中で読んだ。
*
配信チャネル『ローラブランド』オーナー ローラ様
おめでとうございます。
今回、ローラ様のチャネルでは同時視聴者数の世界記録を達成されました。また、チャネル登録者数が1500万人を超える等、一定の条件を満たしたため、配信チャネル『ローラブランド』のランクが上昇し、以下のランクに即時変更されたことをお知らせします。
ランク プラチナ
ランクが変更されたことにより、コミッションが改定されます。
詳細は、別添の「配信者ランクシステムとコミッション算出方法」をご確認ください。
また、今回のランクアップに伴い、投げ銭機能が利用可能になりました。
詳細は、別添の「ランク別投げ銭手数料一覧」をご確認ください。
なお、今回のランクアップは同時視聴者数の世界記録を塗り替えた偉業に対する報酬として暫定的に1か月間適用されます。
1か月間以内にプラチナ
*
今日も長時間配信をしていた。
俺のような底辺クラスの配信者はとにかく長時間プレイを続け、総視聴時間を稼ぐ必要があったからだ。
でも今回、一気にランクがプラチナ
プラチナクラスの手数料が公開されているわけじゃないから、実際にどれくらい稼いでいるのか知らなかったけど、これは……。
【添い寝マグロ】「完璧に放置されてて草」
【Maggy’B】「何かのメッセージを読んでいるみたいですね」
【Amigo’A】「なんの草が放置されていますか」
画面の隅で流れていくコメントがチラチラと動いて見えた。
「あ、ごめんなさい。えっとですね……」
説明するよりも、実際に設定を変更すれば何のメッセージが届いたのか気づくはず――そう思って、俺は設定画面で投げ銭機能をONにする。
【山羊おにぎり】「お、投げ銭機能!」
【Maria'P】「投げ銭機能がつきました」
「はい、そうなんです。皆さんのおかげで、ようやく条件をクリアできました!」
投げ銭機能がついたことで、視聴者からダイレクトな評価が届くようになる。そう考えると俺は嬉しくてしかたがなかった。
【Nguyen'G】100万ドン「おめでとう」
「うわっ、いきなり100万とかすごい額を、ありがとうございます」
【ぶぶ奴】「100万ドンやったら、日本円で6000円くらいやで」
【Grape’J】「通貨がいろいろあって難しいです」
【George’M】50ドル「相場はこれくらいなのかな。おめでとう」
【Idi'O】6000シリング「おめでとう」
「あ、いや、6000円でもありがたいです。金額の
俺は視聴者に向けて頭をさげて、心から礼を言った。
「それに、ここまでチャネル登録者数が増えたのも、収益化が一歩先に進んだのも、アオイちゃんのおかげよね。また会ったらお礼を言わなくちゃね」
【肋骨戦士】「えらいっ!!」
【Robert'T】20ユーロ「君の言うとおりだ」
【Péngmèi'】「私も会ってみたいです」
「でも、1億人近いプレイヤーがいるわけだから、そこからアオイちゃんを探すのって厳しいかもね」
たぶん、そう簡単には会えないだろう。かなり先を進んでいるみたいだからね。でも、底辺配信者から脱出できたのだから、絶対にお礼を言いたいし、言わなければならないよな。
少し遠い目をしながらダンジョン出口の方へと目を向けていると、パーティチャットにタカサンの声がする。
『そろそろ、進もうか』
『そうね、行きましょう』
ダンジョン第三層の入口から出てすぐのところで視聴者と話しこんでしまったせいで、タカサンやミャーコたちを待たせてしまっていた。
まあ、いきなりランクがプラチナに上がったとなると、皆も驚くと思うけど町に戻ってから話せばいいか。
そう決めると、俺は前を進むミャーコとヒロキ、タカサンの三人の背に向かって走り出した。
第三層の噂は聞いていたけど、短い森を通り抜けると海が広がっていた。
真っ白なビーチ、真っ青な空に透明感のある海水が白い波をたてて打ち寄せていて、その音が耳に心地いい。
ただ、そこらじゅうで他のプレイヤーがMOBと戦っている。MOBはとても大きなワームタイプの魔物で、かなりグロテスクな見た目をしている。
【Yelena'S 】「ビーチサンドワームは気持ち悪いです」
【山羊おにぎり】「そうそう、あの口で齧られると思うだけで鳥肌が」
【John’J】「振動と匂いを感知して攻撃してくるから、盾役が重要です」
「ファイターのヒロキが抑えて、私とミャーコが攻撃、ヒロキは補助。セオリーどおりですね」
などと話をしていると、轟音と共に足下が揺れてサンドワームが現れた。
何も言わずともヒロキが前面に立ち、盾を構えると私たちは戦闘に入っていった。
3分ほどでビーチサンドワームを倒し、俺たちのパーティは事前に情報を得ていたNPCの元へ向かう。
【Allan'M】「もう少しでNPCが見えます」
【Robert’T】「ホバーコアかい。漁師レベルは大丈夫かな」
「もちろん大丈夫ですよ。タカサンの漁師レベルは10ですからっ!」
【Robert’T】「それはよかった。私の仲間は1つレベルが足りなくて落ち込んでいたよ」
【添い寝マグロ】「焦るのもわかるけど、漁師のレベルはあげとかんとあかんよなあ」
最悪、パーティメンバーの1人だけでも漁師レベルが10になっていれば、その人がホバードラゴンを釣って皆にホバーコアを配ればいい。
うちのパーティの場合、リアルでも釣りが好きなタカサンが漁師をして俺が採集家、ミャーコが農家、ヒロキが採掘家をしている。
4人とも漁師でレベル10になっていれば、それぞれが釣ることができて時間短縮できるが、なにかひとつを優先してあとでじっくりレベルを上げればいいと判断したんだ。
ビーチサンドワームを10体、サンドルーパーを7体倒し、ようやく俺たちはNPCがいるところに着いた。
NPCはなんだか機嫌が悪いようで、迷惑そうな視線を俺たちに向けてくる。
「釣り名人、タカサンがホバードラゴンを釣りあげるのを待つ間は雑談配信ってことにしましょう。
タカサンが道具を取り出して釣りを始めた近くに私は座り込み、視聴者たちとの雑談モードに入る。
【おたべマン】「疲れたならボクの顔をおたべ」
【Grape'J】「食べたらおたべマンはどうなりますか」
【おたべマン】「新しい顔が生えてきます」
【添い寝マグロ】「仲間に交換してもらうんとちゃうんかいっ」
【Maggy’B】「何にしろ、ホラー以外のなにものでもありません」
配信チャットの方も和やかな雰囲気が流れ始めた。
「私たちはホバーコアを手に入れたら町に戻って休憩する予定なんだけど、グラーノの町には何か変化はありますか?」
【粘土のたらこ】「新しいクエストは発見されてないな。今のところ、クエスト番号の13番、17番が見つかっていない」
【Jose'R】「ランキング1位は相変わらずアオイです。彼女のプロフィールページが今、話題になっています」
【ツナマヨ】「そうそう、見てみるといいぞ」
【すきざんまい】200円「ナイスフィッシュ!!」
「そうなんですね。ちょっと見てみます」
タカサンが釣った瞬間に少額だけど投げ銭してくれる人がいるのは気になるけど、それ以上に気になるのはアオイちゃんのことだからね。
プロフィールページはランキングから飛ぶことができる。ランキング圏外だとみられることもないページだけど、さすがに上位になったなら皆に見られてしまう。だからほとんどの上位プレイヤーは表示をOFFにしているはずだけど。
「わあ、すごいっ!」
そこには雄大な大地が広がる風景を撮影した写真、様々なポーズで見慣れない服装と装備を持ったアオイちゃんが可愛らしいポーズをした写真がずらりと並んでいた。
特にポーズがついた写真は既に1憶アクセスを軽く超えていた。
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