幕間 ローラの配信(1)

 アオイちゃんとの邂逅のあと、俺は草原を走り抜け、他のプレイヤーたちと一緒にナツィオの村へと向かった。

 ナツィオの村までの帰り道では、生配信はいったん中断した。

 ただただ走るだけの配信なんて見ても面白くもなんともないだろうし、突然ポップするMOBの相手をしなくても済むように、気を配りながら走らないといけないからだ。


 30分近くかけて移動すると、村の様子が見えてきた。

 一面の草原に、木板でつくった柵が張り巡らされただけの小さな村だ。


『ねえ、せっかく村に戻るんだから最初に予定していた感じで村の紹介から始めたいと思うんだけど、どうかな?』


 俺はパーティトークで他のメンバー3人にたずねた。

 ちょっと休憩したいとか思っている人もいるかも知れないので念のためだ。


 最初に返事をくれたのはヒーラーのタカサンだった。


『ん、そうだな。最初の方に受けておくといいのが雑貨屋のクエストって言ってただろう。地図更新だっけ』

『私も賛成にゃ。確か地図更新だったと思うにゃ』


 ミャーコもこの方針に賛成してくれるようだね。唯一のリアル女性メンバーだから、さすがに俺も気をつかう。


『他のゲームでもあるけど、おつかい系クエストで村の中を歩き回らせるんだろうね。そのクエストをやりながら村のことを紹介すればいいんじゃないか』


 普段は無口なヒロキがいい提案をしてくれた。

 確かにおつかいクエストなら村の中を歩き回ることになるし、他のクエストも見つけやすい気がする。


『そうだね、じゃあ村のクエストを受けるところから始める感じでいいかな』


 ヒロキ、タカサン、ミャーコがすぐに合意の返事をくれたので、俺は配信再開の準備をする。

 まず、XRDの外部連携ツールを使って、配信告知用アカウントを持っているgriperグライパーに投稿。次に配信モードでカメラを起動し、スタートボタンを押すだけだ。


(機械精霊、カメラを自撮り配信モードで起動)

《カメラを自撮り配信モードで起動しました》


 自撮り配信モードは、撮影対象が自分自身になる。

 XRDの中に小さなウィンドウが開き、そこにカメラが撮影している自分自身の姿が映る。その画面を見ながらカメラとの距離感等を調整したら準備完了だ。

 配信チャネルの方は、さっきの配信のおかげなのか妙に視聴待機者の数の伸びが早い。


『じゃあ、配信開始するね』


 ほんの1分ほどで同接1000名を超えたので俺はパーティメンバーに告げ、すぐに機械精霊に配信開始をお願いした。

 小窓で表示された配信画面の枠が赤に変わり、配信が開始されたことを確認する。


 まずはカメラに向かって挨拶をする。


「約30分ぶりかな、ゲーム配信チャネル『ローラブランド』の生配信を再開します。今回もサービス開始されたばかりの『アルステラ』からお送りします」


【Robert'T】「待っていたよ」

【Péngmèi'Y】「再開うれしい」

【肋骨戦士】「おかえりなさい」


 俺はまず村の様子を説明するために、村に対して背中を向けて立った。カメラは自撮りモードなので、こうしないと自分と村の入口が映らない。

 配信している画面をXRDの中にある小画面に表示しながら確認すると、村の入口を入ったところにたくさんの人が映っている。


『ようやく村の前まで戻ったけど、すごい人ですね』


【ツナマヨ】「皆、必死だからな」

【Jose'R】「私も急いで村に戻りました」

【にがい棒】「メインクエストを発生させなきゃだもんな」

【Maggy’B】「私はもう一つめのクエストを受けました」


 プレイしながら俺の配信を見ている人の中でも、既にアオイちゃんが言っていた最初のクエストを受けている人がいるらしい。

 そういう意味では彼らの方が俺よりも情報をたくさん持ってる可能性があるよな。ここは上手く話を運んで、情報提供してもらうというのも悪くなさそうだ。


「ゲーム自体はメインクエストを受けないと前にすすまないので、今回の配信は最初の村であるナツィオのことを紹介しながらクエストを受けていきたいと思います」


【Yelena'S】「いいアイデアだと思うわ」

【Grape’J】「僕は先にクエストを見つけたらここにコメントするよ」


「Grapeさん、ありがとうございます。たすかります」



 言って、俺は画面の先に僅かに見える皮鎧を着たNPCのもとへと駆けよる。途中で機械精霊にカメラを自撮りモードから通常モードに変更しておくのも忘れない。


「さっきまでの配信でアオイさんが話してくれた門番のパウルという方のようですね。この人に話しかけることでナツィオ村のクエストが始まるということだったと思います。では早速、話しかけてみましょう」


 でも、俺が更にパウルの方に近づいていくと、パウルから俺に話しかけてきた。


「おや、さっき元気に村を飛びだしていったエルフのお姉さんじゃないか。何か用かい?」

「あ、えっと……」


 しまった、どう話せばいいのかわからない。そこまでの情報は俺には得られていないのを完全に忘れていた。

 確か、テレポを覚えるんだっけ。


「なんだ、もう一人前の冒険者に手が届きそうなところまできているだろうに、困ったことでもあるのかい?」

「テレポのことを知りたいんです」

「こりゃたまげた! その強さになるまでポータルコアに触れてなかったとは。まさか、冒険者ギルドや職業ギルドにも行ってないんじゃないだろうね」


【Maggy’B】「私のときも同じことを言われました」

【添い寝マグロ】「わいもやで。めげたらあかん」

【おたべマン】「元気がないときはボクの顔を食べるんだ」

【にがい棒】「京銘菓の妖精さんかな?」


 他の人も同じようなことを言われているらしい。パウルからは馬鹿にされているような空気は感じない。純粋に驚いているみたいだ。


「まさか、本当に冒険者ギルドや職業ギルドにも行ってないってのかい?」


 何も言わない俺に対し、パウルは少し呆れたように息をついて言った。

 俺は何も言い返すことができず、とにかくその場でうなずいた。


「そうか、ということは依頼を受けるための手続きも含めて教えよう」


 パウルは依頼の受け方や仕組みを説明し、続けて最初のクエストへと話をすすめてくれた。


「冒険者ギルドと職業ギルドに登録をしてきなさい。あと、この町にはポータルコアというのがある。ポータルコアに手を触れて登録すること。この3つを私からの依頼にしてあげよう。全部終わったら私のところに報告に来なさい」


《クエスト「門番パウルの初心者指導」を自動受注しました》


  クエスト番号:001

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:門番パウルの初心者指導

  発注者:パウル

  報告先:パウル

  内 容:冒険者ギルドに登録

      職業ギルドに登録

      ポータルコアを登録。

  報 酬:経験値25 100リーネ レザーキャップ


 機械精霊の声が頭の中に響き、目の前に受けたクエストの内容が表示された。


「はい、ありがとうございました」


 パウルに礼を言った俺は、再び機械精霊にお願いして、自撮りモードに変更する。


「なんとか最初のクエストを受けることができましたね。皆さんもこんな感じだったんですか?」


【ぶぶ奴】うちも似た感じどしたえ。

【Nick’J】私も似た感じでした。

【Amigo’A】私は村の外に出る前に、パウルから声をかけられました


「なるほど。もしかすると、既に外に出てあるていどレベルが上がっている人と、一度も出たことがない人では始まり方が違うようですね」


【Amigo’A】途中から内容は同じでした。


「始まり方だけが違う感じなんですね。ありがとうございます」


『俺たちもクエストを受け終ったぞ。まずはポータルコアから、次に冒険者ギルド、職業ギルドの順でいくか』

『『『了解!』』』


 配信を続けつつ、4人全員が最初のクエストを受けて俺たちはクエストを順調にこなし、途中で仮眠休憩などをとりつつ、メインクエストでバトルウルフを倒すところまで進めることができた。




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