第41話 岩塩採掘

 ひとしきりポートレートモードでの撮影を終えたあと、私は最後に風景写真を数枚撮影した。

 被写体となって撮影しているときは少し興奮気味だったけれど、風景写真を撮るときは気分も落ち着き、冷静に景色を眺める。


 未踏の領域に足を踏み入れると、新たな冒険や発見が待っている――そんな気がして、新たな冒険の可能性にまた胸が躍る。


 私は興味津々といった感じで、ナビちゃんにたずねる。


(ナビちゃん、あの山々はこのエリアの一部なの?それとも別のエリアにつながっているのかな?)

《グラーノ農業地帯の街道を西に進むと、あの山脈の裏側まで行くことができるのですよ》


 確か、嘆きの海岸に出て、海を渡るとポルータの町に行けるってナビちゃんが言っていた気がする。


 私はしばらく崖の上に立ったまま、先の未知なる領域への興味を膨らませていった。


 ゆっくりと興奮が静まる中、私はゴツゴツとした岩に跳び移りながら崖を下りた。

 崖下は20から30ⅿほどの幅で地面が露出していて、崖の壁面から崩れた石や岩が散乱していた。とても足場が悪く、MOBとの戦闘は辛そうな場所だった。


 ふと周囲を見渡すと、50~60ⅿほど離れた場所で、先ほどのゴールドディア3頭が石を舐めているのが見えた。


(あれは何をしているの?)

《塩分補給なのです。ここの魔物は定期的に岩塩鉱近くに落ちている岩塩を舐めて塩分を補給するのです》

(へえ、そうなんだ!)


 確かに動物は塩分が不足すると岩塩を舐めたりすると聞いたことがある。アルステラの世界って、本当に細かなところまで生態が再現されているよね。


(ってことは、このあたりに岩塩鉱があるってことだね。早速、採掘家にジョブチェンジをお願いします!)

《はいなのですっ!》


 ナビちゃんの返事とともに、私の衣装はスカウターセットSからビギナーギャザラーセットへと切り替わる。

 とたんに、視界にたくさんの採掘ポイントが現れ、キラキラと輝きはじめた。


 ここに転がっている石は全部岩塩なのかな。


 そう思った私は、視界の中心に足もとにある大きめの石をとらえた。


  <鑑定>

  名前:岩塩

  説明:海水が蒸発して結晶化したもの

     更に火山灰や土砂などが堆積し、地殻変動で露出している

     場合がある。

  品質:一般品質


 一般品質っていうことは、岩塩にいろいろ混ざってるのかな。確かに土とかついてるかあ。普通でも売り物になるのかな。


 私は屈んで大きめの石を手に取ると、石はそのままインベントリに吸いこまれて消えた。


《岩塩を入手したのです。

 採掘手帳No.12「岩塩」が解放されたのです

 採掘経験値12×2を獲得したのです》


(これじゃ、じっくり観察することってできないのかな)

《採集したものだから、取りだせばいいのです》

(なるほどお。やってみるね)


 私はインベントリを開いて、一覧表示されたアイテムから先ほど拾った岩塩を選んだ。

 インベントリのアイテムが消え、先ほど拾った岩塩が身体の正面に現れる。私は岩塩が地面に落ちる前に手に取った。


(ナビちゃん、一般品質ってどういうこと?)

《岩塩は不純物が入っていたり、濃度にバラつきがあるアイテムなのです》

(一般品質があるなら、高品質っていうのもあるの?)

《あるのです。岩塩の場合は岩塩(高)と表現されるのです》

(へえ、なるほどね)


 さっき拾った岩塩は一般品質だった。どうやら不純物が入っているみたいだった。確かにあまりきれいない色をしていない。たぶん、岩塩として使うためにさらに砕いたりして選別して使わないといけないんだろうね。選別作業は例えば料理人とか錬金術師とか、そういう職業でやるんじゃないかな。


(ナビちゃん、このあたり一帯が岩塩の採掘場でいいんだよね?)

《そのとおりなのです》

(落ちているものを探したほうが楽だよね)

《品質の高い岩塩は、鉱脈の中にあるものが多いのですよ》


 へえ、そうなんだ。

 不純物が少なくて、品質が良いものがあるのならそっちのほうが手間が少なくて済みそうだよね。

 それに、売るにしても一般品質だといい値段がつかないと思う。

 岩塩を持ってきて欲しいと言ってた料理屋のカタリナさんも、品質が良いものを持って行く方が喜んでくれそうだし。


「じゃあ、鉱脈を掘ってみますか!」


 言って、私は鉱脈があるだろう、崖の採掘跡へと進んだ。

 遠くから見ていてわかってはいたけれど。


(採掘ポイントだらけだね)

《海水が干上がってできたのが岩塩なのです》


 一面がキラキラと光る採掘ポイントになっていた。これならどこを叩いても岩塩が採れそうだ。


「ヨッ!」


 掛け声とともに、ツルハシをガツンと当ててみると、小さく砕けた岩塩が飛び散り、先ほど拾ったのと同じくらいの塊がインベントリに入っていく。


《岩塩を入手したのです。

 採掘経験値12×2を獲得したのです。

 岩塩(高)を入手したのです。

 採掘経験値15×2を獲得したのです。

 岩塩を入手しました。

 採掘経験値12×2を獲得しました。

 岩塩を入手しました。

 採掘経験値12×2を獲得しました

 岩塩を入手しました。

 採掘経験値12×2を獲得しました》


 お、1つだけ岩塩(高)が採れた。

 しかも経験値が多いんだね。


 適当に掘っていても、岩塩(高)が大量に採れるってことはないみたいで、一般品質の岩塩ばかり採れてしまう。何か、コツのようなものはないのかな、と私は採掘場の石壁をジッと見つめた。

 海が干上がったとはいえ、何度も堆積物のようなものが積もったあとがあって、そこが複雑な色の縞模様を作っていた。その縞模様は視線の高さから下に行くにつれて幅が広い地層になっている。


 干上がるといっても、一瞬で海の水だけが干上がるわけじゃないからね。何年もかけて水が干上がる間に雨が降ることもあるから層になっているんだろうと思う。ということは、雨が少なくて塩が固まりやすい気候のときにできた層を掘ればいいんだよね。


 視界に移る地層を見て、明らかに純度が高そうな塩の層を探して、そこを目掛けてツルハシを振り下ろしてみた。


《岩塩(高)×2を入手したのです。

 採掘経験値15×4を獲得したのです。

 岩塩(高)を入手したのです。

 採掘経験値15×2を獲得したのです。

 岩塩(高)を入手したのです。

 採掘経験値15×2を獲得したのです。

 レベルが上がったのです。

 採掘家レベルが14になったのです。

 岩塩(高)を入手したのです。

 採掘経験値15×2を獲得したのです》


 おおっ、レベルが上がったよ。

 やっぱり高品質の岩塩が採れるがあるんだね。全部、高品質が採れたよ。この調子でガンガン掘って行こう!


《岩塩(高)×2を入手したのです。

 採掘経験値15×4を獲得したのです。

 岩塩(高)を入手したのです。

 採掘経験値15×2を獲得したのです。

 岩塩を入手したのです。

 採掘経験値12×2を獲得したのです。

 …………

 レベルが上がったのです。

 採掘家レベルが15になったのです》


 気がつくと、採掘作業に没頭しちゃってた。

 一般品質と高品質、合計35個手に入れたところでレベルが13から15まで上がったよ。


《バイタルアラートなのです》

(ナビちゃん、岩塩、何個とれた?)

《高品質が35個、一般品質は20個なのです。合計は55個なのですよ》

(おおっ、たくさん採れたね! ちょうどレベルも上がったし、町に戻ろうかな)


 実は神殿を出たときに一度お手洗いに行ったんだけど、それからどれくらい時間が経ってるのかな。


(ナビちゃん、現実世界は何時かな?)

《4月30日の朝6時30分なのです。脳の機能が落ちているのです》


 そりゃそうだろうね。28日に仕事を終えてから4時間か、5時間くらいしか寝ていないからね。

 でも、こんなに黙々と岩塩の採掘をしていたのは何も考えずにできていたからなのかな。


 確かに少し頭がぼんやりするかもしれない。

 バイタルアラートが出ているんだし、グラーノの町に戻ってまた少し眠って来ようかな。






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