第37話 蜂蜜採集とヒーズベア
ミツバチはお腹の中にある蜜嚢という場所に花の蜜を溜めると、巣へと運んでいくんだけど、グレイトビーも同じなのかな。
両足にある花粉籠に入った巨大な花粉の塊も重そうだね。
2分ほどグレイトビーについて歩いていると、木々の間に蟻塚のような建造物が見えた。蟻塚は土で出来たタワー上の建造物だけど、これは周囲をグレイトビーが一面を埋め尽くしている。
(あれは少し気持ち悪いかも……)
《集合体恐怖症なのです?》
例え集合体恐怖症でなくても、数百匹の蜂がひしめきあっている姿を見るとゾッとすると思うんだけどなあ。
それはそうとして、蜂塚と呼んだ方が良さそうな巨大な蜂の巣の周囲4か所には採集ポイントとは違って青白く光っている場所があった。
(ううん、全然問題ないよ。あの周囲にあるキラキラに燻し草を置いて火を着ければグレイトビーに刺されなくなるんだよね?)
《燻し草の煙はグレイトビーたちを眠らせる効果があるのですよ》
(なるほどね。じゃあ使わない手はないね)
私は最も近い場所にあった青白いキラキラに近づいて屈むと、インベントリから燻し草を取り出して置いた。
(ナビちゃん、イグニッションをお願い)
《はいなのですっ》
ナビちゃんに発動をお願いし、私は指先を積み上げた燻し草へと向けた。
スパークのときと同様、指先に魔法陣が現れて火花が飛んでいく。
その名のとおり、着火の魔法って感じがするね。
火花が飛んで
こんな感じでグレイトビーの巣の周辺を燻すんだね。残り3か所に燻し草を置いて火をつけないとね。
私は急いで残りの3か所に燻し草を置いてイグニッションで火を着けた。
よく考えると、このクエストをするには生活魔法が必須なんだね。
ウィザードの人がいればファイアボールみたいな魔法で火をつけるのかな。一気に焼け焦げそうだね。
四方から燻し草の煙で燻されたグレイトビーたちは、低いところから順にポトリポトリと地面に落ちて動かなくなっていく。飛んできたグレイトビーも途中で酔ったようにフラフラと上下左右に
ほとんどすべてのグレイトビーが地面に落ちた状態で巨大な巣を見ると、直径2ⅿほどもある木の幹のような見た目をしていることに気付く。ところどころ樹皮のような外皮が剥がれ落ちていて、そこから中の構造を覗き見ることができた。
現実世界の蜂の巣と同じで、ハニカム構造をした板が何十段と重なっている。
もちろん小部屋もたくさんあって、そこに蜂蜜らしき液体がたっぷりと溜まっている。筒状になった六角形の小部屋1つで、
いつの間にかそれとは別に、見慣れた採集ポイントを示すキラキラが2か所も出現している。
これは何で採集するんだろう。
鉈、ハチェットなどで叩くと必要以上に崩れてしまいそう。たしか、蜂の巣は働きバチが分泌する蜜蝋でほとんどが作られているんだっけ。それだとやっぱり硬くないだろうしナイフでいいのかな。
インベントリから採集用ナイフを取り出して右手に持った。
《蜜蝋を入手したのです。
採集手帳No.24「蜜蝋」が解放されたのです。
採集経験値20×2を獲得したのです。
蜂蜜を入手したのです。
採集手帳No.23「蜂蜜」が解放されたのです。
採集経験値20×2を獲得したのです。
蜂蜜を入手したのです。
蜂蜜を入手したのです。
蜂蜜を入手したのです》
あれ、最初は強制的に蜜蝋になるんだね。蜂蜜を取り出そうとしたら、蜜蝋でできた巣を壊さないといけないから当然といえば当然かなあ。
そのぶん、蜂蜜を採集できる量が減る感じなんだけど、それはしようがないよね。
《蜂蜜を入手したのです。
レベルが上がったのです。
採集家レベルが15なったのです》
「よしっ!」
思わず小さなガッツポーズが出ちゃった。
ちょうど8つめの蜂蜜を手に入れると同時にレベルが上がったのがなんだか気持ちいいんだよね。いつも採集の途中とかだったりするから。
今受けているのがレベル10のクエストだったと思うから、報告に行くと間違いなくレベル15のクエストが受けられそうだね。もしかすると更にレベルが上がっちゃうかもだけど、さすがにレベル20はないかな。
蜂蜜を採り終えた私は、周囲を見回した。
グレイトビーは触覚部分を細かく震わせるように動かしながらもまだ眠っているみたい。
周囲のグレイトビーの様子を確認したあと、私は再びグレイトビーの巣が視界の中央になるように移動した。
念のため確認したけれど、もう蜂蜜が採れるだろう採集スポットが見当たらない。周囲の木々に負けないほどの威容を誇る巣だというのに、採れる蜂蜜の量は思ったより少ないんだね。
(さて、次は岩塩かな?)
《そのとおりなのです。岩塩はグラーノ森林地帯の奥にある採掘場で採れるのですよ》
(採掘場はどこにあるんだっけ?)
《グラーノ森林地帯の奥にあるのです》
地球だと岩塩の採掘場として有名なのはオーストリアのハルシュタット岩塩坑が有名だけど、確か山の上にあったはず。確かに森林が広がるエリアだけど、その奥にある山肌まで行かないと掘れないのかな。
(森林地帯の向こうにある山まで行かないといけないのかな?)
《探せば見つかるのですよ》
(闇雲に探せばいいってもんじゃないじゃないの?)
私がナビちゃんにたずねるのと同時、比較的近い距離でガサガサという音がした。
慌てて周囲を確認したけれど、グレイトビーはまだ燻し草の効果が効いているようで地面で眠っていた。
少し弛緩していた私とナビちゃんの間に緊張が走る。
(ナビちゃん、スカウターに装備を変更)
《はいなのですっ》
一瞬で装備がスカウターセットSに切り替わり、認識阻害(弱)が発動する。
眠っているグレイトビーを攻撃することもできると思うけど、今はそれどころじゃない。
得体のしれない何かがこちらに向かって来ているのは間違いがなく、私は続けて<索敵>を発動した。
視界に自分を中心とした円筒状のものが表示され、そこに自分以外の生物や魔物が光る点となって表示された。
私が立っているところを中心に無数に光っているのがグレイトビーだけど、その外側にはグレイトビーよりも強く大きな光が表示されている。
(ナビちゃん、気配察知をお願い)
《範囲内にはグレイトビーしかいないのです》
まだまだ察知できる範囲が限られているみたいだね。
仕方がないので私は近くの木の幹を次々に蹴って樹上に登った。
一瞬で5ⅿほどの高さまで上がると、木の枝に隠れて私がいた場所へと向かってくる何かへと目を向けた。
「あれは……」
30ⅿほどの近さにまで近づいてきていたそれは、立ち上がると2ⅿはある熊だった。
「まるでバンダナみたい」
見ための印象のせいで、私の口から言葉が漏れた。
熊の全身は辛子色の体毛で覆われているけど、喉元には赤色の毛がツキノワグマのように三角形に生えていた。それが私にはバンダナのように見えた。
どうやら左前脚で何かを抱えていて、右前脚と両後ろ脚で器用に歩いている。結構な巨体をしているのに歩く音がしないのは、肉球が非常に軟らかいからなのかも知れない。
<鑑定>
名前:ヒーズベア
説明:平均的な大きさで体長2ⅿていどある辛子色の体毛をした熊。
グレイトビーの蜂蜜が好物で、巣を襲っては蜂蜜を奪って
いってしまう。
グレイトビーにとっては天敵のような存在。
あれがヒーズベアなのね。鑑定結果に蜂蜜が好物と書いてあるから、私が蜂蜜を採った蜂の巣を狙ってきたんだろうね。
そういえば、最初に私が覗き込んだ穴はとても不自然だったけど、もしかするとこのヒーズベアが壊したのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます