第36話 グレイトビーとシロツメクサ
《採集家手帳の進みが悪いのです。地面を進む方がいろいろ採集できるものがあって、おススメなのです》
いつものように木の枝から枝へと飛び移ろうとすると、ナビちゃんが心配そうな声で言った。
(採集家手帳が埋まっていないと都合が悪いことがあるの?)
《これからクラフター系の職業をする際に使う素材がたくさんあるのですよ》
ナビちゃんが採集家手帳を開いて見せてくれたが、さっき採集したポルチーニまでの間にアイテム名が入っていないページがたくさんある。
ポルチーニは23番で、22番がドクヤマドリ。他にアイテム名が入っているのは薬草とメープル樹液、トネリコ原木、八味草、燻し草、イチイ原木しかない。
(そうだね。地上を移動していて初めて見つけたアイテムは採集していくようにしようか)
《それがいいのです!》
自分の提案が受け入れられたのがよほどうれしいのか、ナビちゃんがくるくると回りながら飛び回っている。
枝と枝を渡るように飛んで地上へと下りた私は、先ほど50ⅿほど先に見つけた木の生えていない場所へと向かった。
途中でダンジョン第2層でも見かけた
《楓原木を入手したのです。
採集経験値2×2を獲得したのです。
楓原木を入手したのです。
楓原木を入手したのです。
楓原木を入手したのです。
楓原木を入手したのです》
(へえ、使う道具によって採れるものが変わるんだね)
《
(これかな?)
採集家に変わったときに腰に装備されていた道具を手に取ると、ナビちゃんが正解だと教えてくれた。いかにも枝を叩いて折るための道具って感じがするけど。
(これで、この幹の部分を叩くの?)
《採集ポイントに適した道具を使用すれば、その道具に応じたアイテムを採集できるのです》
ナビちゃんの言うとおりなら、これでいいのかな。
右手に持った鉈を、私は力いっぱい楓の木に叩きつけた。
甲高い音と共に、採集物であろう木の枝がインベントリへと吸い込まれて消える。
《楓の枝を入手したのです。
採集手帳No.7「楓の枝」が解放されたのです。
採集経験値5×2を獲得したのです》
これで、採集手帳は12種類解放した感じかな。ポルチーニが23番だから、だいたい半分くらいは達成したことになるね。
私は樹上から見つけた木が生えていないところを目指し、森の中で採集できるものを見つけては採集して進んで行った。
《採集に失敗したのです》
もうすぐ樹上から見つけた木が生えていない場所というところまで来て、私は採集ポイントで採集できないというトラブルに見舞われていた。
視界の中心にあるのは直径20㎝もない細い木。
もちろん、鑑定でこの木がニッケイという名前だってことはわかっている。でも、ハチェットや鉈を使っても上手く採集できないでいた。
とはいえ、使う道具が間違っているだけだと思うんだよね。
(ねえ、ナビちゃん。他の道具って何があるの?)
《採集家は原木や枝、樹液などだけでなく、様々なものを採集することを生業とするのです。様々な道具を使いこなさないといけないのですよ》
(それはわかってるよ。この木の場合は何を使えばいいのかがわからないのよ)
《初めての採集はとにかく試すしかないのですよ》
楓の枝を切るときは鉈を使えと教えてくれたけれど、楓の枝は採集家手帳の2番だもんね。チュートリアルみたいなものだったのかもしれない。
それに、ナビちゃんの言うとおり、いろいろと試してみて、経験して覚えるっていうのはすごく大切だよね。現実の世界でもそうだし。
私はインベントリの中にある採集家用の道具類を眺めた。
虫網、ハサミ、ピンセット、手袋……様々な道具があって、どれを選ぶか悩んでしまう。
まあ、虫網で採集するようなものではないと思うからね。次に試すとしたらこれかな。
私はインベントリから採集用ナイフを取り出し、右手に持って光り輝いている採集ポイントへと軽く触れた。
ゲームシステムのせいでそこまで強くないけれど、甘く、でもどこかキリッとした香りがふわりと漂ってくる。この匂いはどこかで嗅いだことがあるかも。
《シナモンを入手したのです。
採集手帳No.5「シナモン」が解放されたのです。
採集経験値4×2を獲得したのです。
シナモンを入手したのです。
シナモンを入手したのです》
そうだ、シナモンロールとかドーナツなどで嗅いだことがある香りだね。
ニッキとか、京都の八つ橋などで匂いが苦手って人もいるけど、私はこの香りが大好き。
最初にハチェットと鉈で試したせいで採集回数が減っているみたいで、3個しか採れなかった。なんだかもったいないことをした気分だよ。
シナモンって、ドーナツやパンにかけたりする甘い香りの香辛料だよね。でもこうしてみると樹皮って感じがする。ゲームだから木の見た目は何も変わっていないけど、ペロリと樹皮を剥いたようなイメージなのかも知れないね。
<鑑定>
名前:シナモン
説明:清涼感がある甘辛い香りを持つ樹皮。
香辛料として使われるほか、消化促進を促す効果がある。
料理や錬金術の材料として用いられる。
採集:採集家
やっぱり料理や錬金術に使うんだね。確か、中国では桂皮という生薬になるんだっけ。
本当は、樹皮だから一度乾燥させたりするんだろうけど、インベントリに入った時点でクルッとカールした状態で格納されているのは楽でいいなあ。
次に見つけたらちゃんと採集用ナイフで採れるだけ手に入れようかな。
それにしても、いろんな道具があって採集家っていう生産職も簡単ではないみたいだね。
その点、漁師は楽でいいな。また、ダンジョン第3層に行って釣りをするのも悪くないかも。
などと考えながら歩いていると、前方に開けた場所があるのが見えた。
森の中が薄暗いせいか、そこは輝いているかのように白く光って見える。
私は少し急ぎ足になって開けた場所へと駆け寄った。
「はあ、これだけ白い花が敷き詰められていると眩しく感じるのもわかるわね」
木々の間から見えたそこは、一面をシロツメグサの白い花が覆っていた。
現実世界のシロツメグサの何倍もの大きさがあるので、一見するとそうだとは判断できないんだけどね。採集対象じゃないせいか鑑定できないけれど、葉っぱがあの特徴がある形をしているし、花もあの丸い形をしているので間違いないと思う。
その大きな白い花が陽光を反射してより明るく見せていたんだね。
シロツメグサの花の他には、大きな蜂が何匹も蜜を集めに来ている。
<鑑定>
名前:グレイトビー
説明:体長20㎝ほどもある大きなミツバチ。
森の中に巣をつくり、そこに花の蜜を集めて子を育てる。
尻尾から出る針に刺されると麻痺状態になる。
尻尾の針は、毒矢の材料になる。
鑑定結果に採集がないってことは、戦闘職で倒さないと針は手に入らないってことなのかな。虫網で捕まえられると思うけど、それでは駄目ってことなんだろうね。
そういえば、魔物は採集家や漁師、採掘家などで倒しても経験値が入ってこないってナビちゃんが言ってたっけ。
(ナビちゃん、グレイトビーの適性レベルってあるの?)
《適性はレベル16なのです》
(だったらスニークは効いているはずだね。ありがとう)
《これがお仕事なのですよ》
お礼を言ったり、褒めたりするとナビちゃんは言ってることとは別に、嬉しそうな仕草をみせてくれるからかわいいね。
スニークに頼ってしばらくグレイトビーたちの様子を見ていると、1匹が森の奥の方に向かって飛びはじめた。
これは、十分に蜜を集めたから巣に持ち帰るんじゃないかな。
私はフラフラと飛ぶグレイトビーの1匹を追ってシロツメグサ畑を横切ると、森の奥へと進んで行った。
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