第35話 採集家のレベル上げ
「でも、ここで引き返すという選択肢はないよね」
グラーノの町からそんなに離れているわけではないけど、ホバーボードで暴走したあとだから何だか戻り辛いからね。
私は何の迷いもなく、森の中へと足を踏み入れた。
現実世界で森の中へ入りこむように、とても自然に木々が増えていく。
太い幹に隠れるように進みながら10mほど進むと、周囲はいくつもの採集ポイントがキラキラと輝いていた。
<鑑定>
名前:イチイの木
説明:常緑の針葉樹。暗い場所で育つので成長が遅いが、
そのぶん、年輪の幅が狭く、美しい心材が多い。
工芸品や弓の素材に適している。
採集:採集家
先ずはヒーズベアに見つからないよう、幹にしがみつくようにしていた木から鑑定してみた。
採取ポイントとして表示はされているから、私のレベルでもちゃんと採集できるだろうね。
私はインベントリからハチェットを取り出すと、迷いなく採集ポイントへと振り下ろした。
ハチェットの刃先が幹に突き刺さる甲高い音が森全体に響く。
《イチイ原木を入手したのです。
採集手帳No.18「イチイの原木」が解放されたのです。
採集経験値12×2を獲得したのです。
イチイの原木を入手したのです。
イチイの原木を入手したのです。
採集に失敗しました。
イチイの原木を入手したのです。
イチイの原木を入手したのです》
イチイの木、5本で経験値は120なのかな。他の採集ポイントもチャレンジしてみないとね。
<鑑定>
名前:ラテックス
説明:樹皮を傷つけることで流れ出す樹液。
錬金術で加工すればゴムができる。
採集:採集家
隣に生えていたのはゴムの木ってやつなのかな。たしか、天然のラテックスには硫黄を混ぜてつくるはずだけど。
錬金術は本気でやりたいから、材料は確保しておこうかな。
(ナビちゃん、ラテックスは木に傷をつけて採集するんだよね?)
《採集用ナイフを使って傷をつければいいのです》
(ありがとう)
嬉しそうにくるくると回るナビちゃんを横目に、私はインベントリから園芸用のナイフを取り出した。
このナイフの刃を採集ポイントに当てればいいのかな?
考えながら、ナイフの刃を押し当てる。
《ラテックスを入手したのです。
採集手帳No.12「ラテックス」が解放されたのです。
採集経験値8×2を獲得したのです》
ナイフを押し当てると、白い液体が入った壺がポンッと浮かんでインベントリに収納されていった。
この壺はどこから出てきたのかわからないけど、ゲームならではの演出だよね。たぶん、初級治療薬や魔力回復薬も似たような感じでつくられるんだろうね。
続けて5回、ラテックスを採集すると隣にはまたイチイの木があった。
再びハチェットを持って木材を採集すると、今度は地面がキラキラと光っているのが見えた。
「これは……」
私は小さく呟くと、その採集ポイントが良く見えるようにしゃがみこんだ。
そこに生えていたのはたくさんのキノコだった。
<鑑定>
名前:ポルチーニ
説明:樹木の根に菌糸を広げて育つ菌根菌。食用に適しており
生だとナッツのような香りが、乾燥させると醤油に似た
香りが出る高級食材。
採集:採集家
あ、これ聞いたことがある。イタリア料理とかで使われるキノコだよね。
でも私はあまり料理を積極的にやる気がないんだけどな。
《ポルチーニはとても人気があるのです。高く売れるのですよ》
(そうなの?)
《高級食材なのです》
経験値が2倍になっても、MOBがドロップするお金は倍にならないからね。装備だとか更新していると金欠になりそうだから、いくつか採集して料理ギルドで売ればいいかな。
(じゃあ、少し採集しておこうか)
《それがいいのです》
そっと手を伸ばして地面からニョキッと伸びたキノコの根元を持つと、簡単に茸を手にすることができた。
《ドクヤマドリを入手したのです。
採集手帳No.22「ドクヤマドリ」が解放されたのです。
採集経験値15×2を獲得したのです》
(え、これはポルチーニじゃないの?)
私は慌てて摘まんだキノコを鑑定する。
<鑑定>
名前:ドクヤマドリ
説明:ポルチーニの仲間だが、毒がある。食べると下痢、腹痛等
激しい中毒症状に見舞われる。
錬金術で作る下剤の材料
採集:採集家
同じように生えていたから適当に摘まんだら違うキノコじゃない!
でもコレも錬金術の材料になるならキープしないとね。インベントリの中でポルチーニに混ざってしまうと困るけど、大丈夫だよね。ちゃんとインベントリでは別に管理されるから問題ない、はず。
《鑑定したキノコを手に取らなかったアオイが悪いのです》
(ま、まあね)
確かに周辺に生えているキノコは全部ポルチーニだろうと思って手に取ったけどさ、隣に生えているから手を伸ばしたら違うのが採れたってびっくりするよ。
今度は先ほど鑑定したキノコに手を伸ばし、慎重に根元から折って手に取ってみる。
《ポルチーニを入手したのです。
採集手帳No.23「ポルチーニ」が解放されたのです。
採集経験値15×2を獲得したのです》
「よしっ」
ガッツポーズをすると、私は続けて収穫を続ける。
《ポルチーニを入手したのです。
ポルチーニを入手したのです。
採集経験値15×2を獲得したのです。
レベルが上がったのです。
採集家レベルが14になったのです。
ポルチーニを入手したのです。
ポルチーニを入手したのです。
……
ポルチーニを入手したのです》
次々とポルチーニを収穫していくとレベルが上がった。
どうやらドクヤマドリとポルチーニの生えている場所の境界線上にいたみたいで、右側だけで収穫していたらポルチーニしか採れなかった。
とにかく、これでレベル14になったからヒーズベアに隠れて蜂蜜を採りにいけそうだよね。
(ナビちゃん、グレートビーの巣ってどのあたりにあるの?)
《グレートビーは花畑の近くに巣をつくるのですよ》
(じゃあ、花畑を探しながら歩けばいいのね)
《そのとおりなのです》
とはいえ、この森はなかなかに広い。ずっと奥の方まで木々の間から見えているけど、とても花畑があるような場所がありそうもない。
でも、花畑があるということは少し開けた場所があるってことなんだと思うし、上から見て密集して木が生えていない場所を探せばいいのかな。
(ナビちゃん、スカウターに変更してくれる)
《はいなのです》
ナビちゃんに声をかけると、一瞬でスカウター装備に変わった。
基本的な身体能力は同じはずだけど、レベルが高いスカウターの方がAGIの値が高いから素早く行動できるからね。
いつものように木の幹や枝を次々と蹴り、周辺で一番高い木の梢にまで一気に上っていく。
ここから見ると、どこに木が生えていない場所があるか一目でわかるから便利だね。
「あそこかな?」
50ⅿほど離れた場所にひとつ、木が生えていない場所がある。他にも80ⅿくらいかな、離れた場所に同じくらいの範囲で木が生えていない場所が見えた。
とりあえず一番近いところに向かうことにしようかな。
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