第33話 ホバーボードは急に止まれない
しばらく物陰から猫の集会を眺めていたけど、この会場にはウォーリーはいないみたいだった。特徴として聞いていた目の周りに眼鏡のような模様がある猫がいなかったんだよね。
まあいいかな。ここはテツコさんの家から少し離れているし、違う場所で猫の集会に参加しているのかも知れないからね。
それにしても、アルステラはすごいよね。町に住む猫の生態までゲームの中に再現しているんだから。
少し寄り道をすることになったけど、私はナビちゃんに教わったファイターギルドへと進んだ。
《クエスト「風に舞った手紙」が進んだのです。ボルタ―に報告に行くのです》
《クエスト「町の地図更新」が進んだのです。ジオに報告に行くのです》
ファイターギルドで手紙を届けると、私は残った地図の空欄を埋めて歩いた。とはいえ、ファイターギルドに到着するまでの間でほとんどが埋まっていたから、すぐに終わった。
(ナビちゃん、未受注と残っているクエストを一覧にしてくれる?)
《了解なのです!》
ナビちゃんが返事をすると、すぐに視界に羊皮紙のようなものが現れた。
種別 No. クエスト名 状態 報告先
メイン 003 北湖ダンジョンを踏破せよ 未達成 ゲイル
サブ 013 ウォーリーを探せ 未達成 テツコ
サブ 014 風に舞った手紙 未達成 ボルタ―
サブ 015 町の地図更新 未達成 ジオ
サブ 016 やっぱり肉でしょう 未達成 アンガー
サブ 017 <未受注>
サブ 018 料理の材料集め 未達成 カタリナ
漁師 004 海釣りを楽しもう 未達成 デニス
採掘家 003 鉄鉱掘ってこう 未達成 アレン
採集家 003 蜂に刺されないように 未達成 コリーナ
メインクエストはようやく第3層の半分ほど進んだところだからいいとして、漁師ギルドで報告するのを忘れていたみたい。
次に生産ギルドに行くときに忘れないようにしないとね。
サブクエストの方は、地図更新のクエストと手紙配達で報告だけが残っている感じ。
もしウォーリーが集会に参加しているならテツコの家の近くにいると思うんだよね。だから、また近くに行ったときに探すのがいいと思う。
アンガーとカタリナの肉は手持ちの肉を渡せばいいけど、足りないのはカタリナの岩塩くらいだっけ。どこにあるんだろう。
(ナビちゃん、岩塩ってどうやって手に入れるの?)
《北湖ダンジョン第1層やグラーノ森林地帯の奥にある採掘場で採れるのです。採掘家ギルドや露店販売の素材屋で買うこともできるのですよ》
(え、買えるの?)
《はいなのですよ》
てっきり自分で採集したり、採掘したりしないと素材って集まらないと思っていたけど買うこともできるんだね。
《銅鉱石や亜鉛鉱石、錫鉱石も買うことができるのです。ただし、職業クエストを達成したあとでしか買えないのです》
(じゃあ、鉄鉱石や岩塩はまだ買えないってことね?)
《そうなのです》
普通に販売していたんじゃ、鉄鉱石を掘り行かない人たちも出てきそうだもんね。まあ、パーティを組んだりしていれば他のメンバーに買ってもらったり、職業に就く前に買っておくとか抜け道があるんじゃないかな。
私の場合は地道にコツコツと楽しくやるつもりだから、別にいいけどね。
(ナビちゃん、現在位置を教えて)
《現在位置は冒険者ギルドの北側路地なのです。冒険者ギルドの裏で、ポータルコアまで約100ⅿの位置なのです》
岩塩はグラーノ森林地帯の奥にある採掘場で採れるのなら、ついでに採集家ギルドのクエストであった蜂蜜を手に入れようかな。そしたら他のクエストも報告して残るサブクエストはテツコさんの猫探しだけになるはず。
(じゃあ、町を出てグラーノ森林地帯へ向かいますか)
《ホバーボードの練習もするのです》
(あ、それ大事!)
第3層に戻って海を渡らないといけないけど、いきなり海の上でホバーボードに乗るというのも不安だからね。ナビちゃんの言うとおり、少し地上で練習してからダンジョン第3層に向かう方が正解だと思う。
それに、地面から少し浮かんだホバーボードに乗って移動するのって絶対に楽しいもんね。
なんかワクワクしてきたよ。
私は急いでポータルコアがある町の広場を通り抜けると、グラーノの門を潜って町の外に出た。
町の外では、門番のグッドマンがいた。もちろん、周囲には頭にムービーアイコンを表示させたプレイヤーがたくさんいる。グラーノに到着したら最初にグッドマンからクエストが出るからね。
「嬢ちゃんじゃないか。どこに行くんだい?」
「こんにちは。ちょっと蜂蜜と岩塩を採りにグラーノ森林地帯まで行くんですよ」
「そうかい。気をつけてな」
町に到着したばかりの人にだけ話しかけるのかと思ったら、グッドマンは私にも声をかけてくれるんだね。
返事をしないわけにはいかないけど、グッドマンから声を掛けられた瞬間、他のプレイヤーから見ると私の頭上にもムービーアイコンが出ているんだろうね。
「はい、ありがとうございます」
簡単に別れの挨拶を済ませると、私は改めて町の周囲を見渡した。
広いフィールドの中にも人がたくさんいる。でも、明らかに皆とは装備が異なる私の姿を見ても誰も気づいていないみたい。これなら大丈夫なんじゃないかな。
インベントリから銀色に輝くホバーボードを取り出すと、ホバーボードはゆっくりと地面へと下りていって、高さ10㎝くらいのところで浮かんで止まった。
(こ、これはどうやって乗ればいいのかな?)
いざ浮かんだホバーボードを見つめてみたけど、どうやって乗ればいいんだろうね。
このホバーボードって、スケボーやスノーボードと同じように体重移動で動く方向を決める魔道具だと思うんだよね。だから、片足ずつ乗せればいいのかな。だったら、先に進みたい方向の足を乗せればいいのか、あとに乗せればいいのか。あるいはその逆なのか。いや、片足だけ乗せたら動き出したりするのかな。浮かんでるからとにかくわかりにくいんだよね。
《どうしたのです?》
(いや、どちらの足から乗せればいいのかと思って)
現実世界ならマニュアルとかあると思うんだけど、ゲーム内だとそこまでは用意されていないんだよね。
《ホバーボードは両足が乗らなければ動かないのです。まずは、ホバーボードの上に両足立ちになるのです》
(こ、こう?)
私は恐る恐る左足をホバーボードに乗せ、続けて右足を乗せた。
鏡面仕上げになっているものの、意外にツルツルと滑ったりすることもなく、吸い付くように足裏が固定された。
《上手なのですっ! あとは体重移動すれば動き出すのです》
意外にも安定しているから、あるていど重心を移動しないと動き出さないってことかな。そのおかげでただ立っているだけということも難しくない感じ。じゃあ、少し体重を左にのせてみようかな。
「うわっ!」
左足に重心を移動すると突然ホバーボードが動き出したから、思わず声がでちゃったよ。
私の高いAGI値で走るのと比べたらたいしたスピードじゃないけど、それでもフルアクセルで動き出した感じだから結構速い。
「うわっ、うわっ、ぶつかっちゃう!!」
「「うおっ!!」」
進行方向に虎人族と豹人族の男がいたけど、私はその2人にぶつかることなく、すり抜けた。
どこかで見たような感じの2人だったけど、まあいいか。
「ごめんねえぇえええええ!」
思わず私が声を上げちゃったから、他の人たちにも認識されるようになったのかな。一気に視線が自分に集まっていることを感じるよ。
メタバースの中だというのに、視線って感じるものなんだね。
それにたくさんの人が避けてくれている。
まだ上手に止まることができないから、私はホバーボードに乗ったまま人が多い街道を突っ切っていった。
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