第24話 再会

《クエスト「手に馴染むもの」を達成したのです。

 3,000リーネを入手したのです》 


 革細工師ギルドに行ってナディアさんに糸を届けると、彼女は2本の針を両手に持って届けた黄色い糸を使った工具袋を縫い上げた。

 その後、私は魔道具師ギルドや裁縫師ギルドと同じように革細工師に勧誘されたのを断ると、木工師ギルドのスミロさんへ工具袋を届けるクエストが出た。

 受け取った工具袋を持って木工師ギルドのスミロさんに工具袋を届けると、再び木工師に勧誘されて断る。するとまたクエストが出た。

 やはり、一度は断らないとおつかいクエストは出ないみたい。

 そして木を削ってスミロさんが作り上げたのが、30㎝ほどの木の棒。届け先は鍛冶師ギルドのヨセフさんだった。


「嬢ちゃんはハーフリングだが、鍛冶師にはならんのか?」


《ヨセフから鍛冶師ギルドに勧誘されているのです。鍛冶師になるのです?》


「興味はありますね」

「ハーフリングは火と風の精霊の加護があるんだ。鍛冶にも適した種族だぞ。鍛冶師にならないという選択肢はないだろう」

「ごめんなさい、今はギャザラーを優先したいの」


《ヨセフの勧誘を断ったのです》


「そうか、そりゃあ仕方ねえな。それにしてもスミロが作った柄は手に馴染むな」


 ヨセフさんは受け取ったばかりの木の棒をハンマーの頭の部分に突き刺すと、柄を下にしてガンガンと音を立てて作業机を叩きはじめた。

 せっかくスミロさんが作ってくれた木の柄だというのに。


「何をしているんですか?」

「柄にハンマーヘッドを入れて締めとるんだ。ハンマーヘッドを叩くと歪んで入ってしまうからな。」

「へえ、そうなんだ」

「嬢ちゃんはどのハンマーも同じ、なんて思ってやしないか?」

「違うんですか?」


 大きさや形に違いがあるのは知ってる。でも、ごく一般的な女の子が違いとか見てわかるものじゃないよね。


「ちょっと待ってな」


 ヨセフさんは立ち上がると商品棚らしきところからいくつかのハンマーを取り出して並べた。


「木工師が使うハンマーにはネイルを抜くための爪が2つある。だからネイルハンマーと呼ばれておる。こっちの丸い球がついたような形をしているのはボールハンマーで金属を叩いて加工する際に用いる。儂のような鍛冶師や彫金師が使う。他にも……」


 ヨセフさんはチェイシングハンマーやクロスピーンハンマーなど自作のハンマーをみせて説明してくれた。用途に応じてハンマーの形状も、名前も変るんだね。


「素材や大きさの違いもある。ハンマーヘッドを別のハンマーで叩くと歪んだり、曲がったりすることがあるのがわかるだろう」

「確かに……」

「鍛冶屋にとって道具をつくるのは仕事のひとつだ。その道具は商売になくてはならないものだからな。道具を扱うための正しい知識を身につけるんだぞ」

「わかりました」


 ハンマーの種類とか、とても簡単な説明だったけれどヨセフさんの道具に対する真摯な気持ちは伝わってきたよ。

 私も鍛冶師に限らず、クラフターになったときには必ず道具を大切にすることにしたいな。


「ところで、儂のところにおつかいでやってきたということは、儂のおつかいもやってくれるんだろうな?」


 ここまで真剣な表情でハンマーを語っていたヨセフさんの口角が上がった。


「え、はい。いいですよ」

「よしよし、儂のときだけお願いを聞きたくないと言われたら不愉快になってこの新作の戦槌で暴れるところだったわい」


 いや、それくらいのことで暴れられると本当に困るんだけど。

 このドワーフさん、相当な手練れだと思うんだよね。自分で鉱物の採集とかもしているタイプだと思うんだ。


「で、この歯車を彫金師ギルドのロルフに届けて欲しい。奴も道具が動かなくなって困ってるはずだ」


《サブクエスト「大事な部品」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:025

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:大事な部品

  発注者:ヨセフ

  報告先:ロルフ

  内 容:鍛冶師ギルドのヨセフから、彫金師ギルドのロルフに

      頼まれていた歯車が完成したのでロルフに届けるよう

      頼まれた。

      歯車を持って彫金師ギルドへ向かおう。

  報 酬:経験値3,000×2 貨幣3,000リーネ


「これは?」

「丸く切り出した砂岩や泥岩を丸く切り出して作った砥石があるんだが、それを高速で回転させて素材を研磨する魔道具の部品だ。小さなものほど摩耗が激しいから、よく壊れるんだよ」

「壊れたのならロルフさんも困ってるでしょうね。私でよければお届けします」


《サブクエスト「大事な部品」を受注したのです。ヨセフから預かった歯車を彫金師ギルドのロルフに届けるのですよ》


「では、早速行ってきますね」

「よろしくな」


 軽くヨセフさんに手を振って扉を開けると、廊下を歩いて鍛冶師ギルドへと向かってくる男性がいた。


 珍しいね、今まで誰もいなかったのに。それに、どこかで見たことがあるような。あ、静寂の森に入るところで私に声をかけてきた男の人だ。


「こんにちは」

「うおっ!!」


 思わず声をかけた私を見て、男の人は飛び上がるように跳ねると同時、驚きの声をあげた。


「びっくりした。あなたは、森の入口いた」

「そうです。せっかくお声をかけてもらったのにあのときはごめんなさいね。無事、商人を探すクエストも終えたんですね」

「うん。なんとかできた。それより、突然現れた。びっくりしたよ」

「あ、ごめんなさい。スカウターの装備はちょっと特殊な効果があるからね。次は気をつけます」


 スカウトセットSの認識阻害(弱)の効果があるのを忘れてた。


「へえ、そうなんだね。ボクのファイター装備、特に何もないです」


 少し残念そうに男の人が眉尻を下げた。


 男の人が着ている装備は、紺色のパンツにクリーブと呼ばれる脛まで保護する靴。胸当ては左側だけじゃなくて、胸全体を保護するようなものに変わっていた。いかにも前衛職といった感じの装備だと思う。


 確か、単独討伐報酬でないとスカウトセットSは貰えないから、ファイターも同じように単独討伐をすれば、何か効果がついている装備がもらえるんじゃないかな。

 でも、そこまで踏み込んで説明する必要もないでしょう。それよりも、彼にはこれから始めるクラフター用の装備の方が大切だよね。


「これから鍛冶師のクエストでも受けるの?」

「そう。ボクは鍛冶師する。あ、ボクの名前はノアいいます」

「私はアオイです。よろしくね」

「あ、ランク1位の、よ、よろしくおねがいします」


  <簡易鑑定>

  名前:ノア

  種族:ヒト

  職業:ファイター レベル15


 どうやら嘘はついていないみたい。私のランク1位といっても、冒険者のピアスと冒険者手帳のおかげだからね。私は至って普通のプレイヤーだから気にしないでほしい。

 だけど、ノアさんの言葉が少し変なのは相変わらずだね。


「ランクはたまたまだから。それより他の2人はどうしたの?」

「ログアウトして仮眠しています」

「ノアさんは寝なくて大丈夫なの?」


 他の2人が仮眠しているということは、ここまで寝ずにプレイしていたのかな。

 日本ではゴールデンウィークということもあって、寝ずにプレイしている人もいると思ってはいた。でも、さすがにずっとログインしたままってことはないと思うんだけど。


「ボクは先に仮眠した。大丈夫です」

「そうなんだね。他の2人は何の職業をするのかな?」

「男エルフの方、採掘家です。もうひとり、採集家です」


 他の2人はまだクラフター系の生産職にはなっていないみたいだね。

 これなら、私が受けているチェーンクエストの情報を話してもいいかもしれない。


「そっかあ。それはよかったよ」

「何がよかったです?」

「加工系の生産職、クラフターはギルドマスターに誘われたらまずは断るといいよ。すると、おつかいクエストがでてくるみたいだから」

「おおっ、それ初耳! 報酬は?」


 生産ギルドのところにローラさんがきていたから、既にクラフター系の職業に就いてクエストを始めている人もいると思うんだよね。

 だけど、ギルドマスターの勧誘を断ると発生するクエストとかまだ知られていないと思う。


「おつかいクエストだから戦闘職の経験値とお金がもらえる感じね。鍛冶師、彫金師、裁縫師、革細工師、木工師、錬金術師、魔道具師、調理師の8つの職業があるから、全部で8つあるはずで――それを全部クリアすると特別なアイテムが貰えるんじゃないかって私は思ってるの」

「へえ、それでアオイさんはどこまで進んだですか?」

「私はあと彫金師と調理師だけかな」

「おおお、全部終わったら報酬が何だったか教えてください」

「いいですよ」


《ノアからフレンド申請が来ました。許可しますか?》


 うーん、まだそんなに話したというわけじゃないので承認し辛いけど、どうしようかな。





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