第23話 チェーンクエスト

 さて、続いて裁縫師ギルドに行くべきか、採掘家ギルドと採集家ギルドに行くべきか――悩ましいよね。

 どちらも似たようなものなんだけど、ギャザラー装備をすべて揃えてしまいたい気もするし、今はクラフター系の職業ギルドが並ぶ2階にいるので裁縫師ギルドに行く方が良い気もするんだよね。


 クラフター系のギルドはすべて2階にある。1階から続く階段を上がると正面奥に3階に続く階段がある。少し進むと左右に通路があって、左に進むと左手側に魔道具師ギルド、裁縫師ギルド、右側に革細工師ギルド、木工師ギルドが並ぶ。火を使わないギルドが左側ということだね。

 逆に右側の通路を選ぶと鍛冶師ギルド、彫金師ギルドが右手に、左手には料理師ギルド、錬金術師ギルドが並ぶ形になっている。

 今は錬金術師ギルドの前にいるから、裁縫師ギルドはちょうど反対側。途中に1階に下りる階段があるから、余計に悩んでしまう。


(裁縫師ギルドのシモーネさんかあ)

《クエストNo.015の「風にまった手紙」で手紙を届ける相手なのです》

(え、そうだっけ。魔道具師ギルドに来た時に配達した気分になっちゃってたよ)


 ああ、ホバーボードを貰えるクエストを受けたから、テンションが上がってそのままダンジョンに向かっちゃった感じだよね。完全に裁縫師ギルドのシモーネさん宛ての手紙を忘れてたよ。

 だったら、先にシモーネさん宛ての手紙を持って行こう。


 私は意を決し、裁縫師ギルドへとやってきた。

 ノックをして中に入ると、身長120cmくらいのシルキー族の女性が仮縫いをした服をトルソーに掛けているところだった。


「あら、いらっしゃい。ギルドの加入希望者さんかな?」

「いえ、いくつか用件がありまして。裁縫師ギルドのシモーネさんですよね。あなた宛てにお手紙を預かっています」


 私がインベントリから取り出した手紙を手渡すと、シモーネさんはすぐに手に取って差出人を確認した。


「やだ、王都のギルマスからじゃない。なんだか嫌な予感がするわね」


 そう言って表情を歪めると、シモーネさんは手紙をポケットの中へと押し込んだ。


《クエスト「風に舞った手紙」が進んだのです》


 これで手紙の配達先は神官のラース、ファイターギルドの講師ゲオルグだけになったね。この2人は職業ギルドの方にいるのかな。

 それはさておき、手紙を届けた以上は、シモーネがその手紙をどうしようと私の知ったことではないからね。続けて2つめの用件に入ることにした。


「続いて、錬金術師ギルドのイェルカさんからのお届け物です。自分で持ってきたかったけれど、蒸留の魔道具が壊れていた間に溜まっていた依頼を優先したいそうで、私が配達するよう頼まれました」

「へえ、お届け物っていうと、もしかして新しい染料かい?」


 シモーネさんは先ほどとは違って満面の笑みを浮かべ、私の手から染料を受け取った。


「わあ、黄色の染料だ。これで他の染料と混ぜることでいろんな色が作れるはずなんだ。ありがとう、これはお礼だよ」


《クエスト「新しい染料」を達成したのです。

 3,000リーネを入手したのです》 


「ありがとうございます」

「こちらこそだよ。この黄色の染料があれば、青と混ぜれば緑色に、赤と混ぜれば夕陽の色に……今までに出せなかった色ができるはずなんだ。これほどありがたいことはないよ」

「私はイェルカさんからお預かりしただけですから。では、これで失礼しますね」

「いや、ちょっと待って。あなた、裁縫の世界に興味ない?」

「服は好きだから興味はありますよ」


 現実世界の方ではそんなに服にこだわりはない。毎年のように流行が作り出されて、それを追いかけるのってお金もかかるからね。

 それに、私もオシャレしたいとは思うけど、ほとんどをメタバースの中で暮らしているからね。現実世界の方での服にはあまりこだわりはない。

 でも、ゲームの中では別。だって、自分のアバターってある意味、着せ替え人形のようなものだからね。アオイにいろんな服を着させて遊ぶこともできるもん。そのために見た目にこだわってキャラ作成したようなもんだしね。


「だったら裁縫師ギルドに入らない?」


《シモーネから裁縫師ギルドに勧誘されているのです。裁縫師になるのです?》


「ああ、今はギャザラーの仕事を優先しているんですよ」


《シモーネの勧誘を断ったのです》


「あら、残念ね。でも、ギャザラーの仕事がひと段落したら裁縫師も検討して欲しいな」

「ええ、是非そうさせてください」


 私は頭を下げ、その場を辞そうとギルドの扉の方へと向かった。


「ちょっと待って、悪いんだけど革細工師ギルドのナディアから頼まれていた糸があるの。それを革細工師ギルドまで届けてくれないかな?」


《サブクエスト「新しい糸」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:022

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:新しい糸

  発注者:シモーネ

  報告先:ナディア

  内 容:シモーネが革細工師ギルドのナディアから頼まれた糸を

      届けて欲しいという。

      どうやら新しい黄色の染料を使った糸のようだ。

      シモーネから預かった糸をナディアに届けよう。

  報 酬:経験値3,000×2 貨幣3,000リーネ


 あ、これってもしかしてチェーンクエストっていうやつじゃないかな。

 他のゲームでもあるんだけど、連続してクエストが発生して、それをすべてクリアすると何かいいものがもらえたりするんだよね。

 魔道具師ギルドから始まって、錬金術師ギルド、裁縫師ギルド、革細工師ギルドと繋がってるもん。間違いないよね!

 だったら、受けないという選択肢は私には考えられないよ。


「わかりました。革細工師ギルドのナディアさんに届けるんですね」


《サブクエスト「なくてはならないもの」を受注したのです。シモーネから預かった糸を革細工師ギルドのナディアに届けるのですよ》


「私はこの黄色い染料で色々と試したいことがあるから、お願いね」


 ほんの僅かな時間で木綿の糸がオレンジ色に染められ、見事に糸巻きに巻き取られている。ここまでできるのなら、特に何も試すことなんてないと思うんだけど……私にはよくわからない。絵具を使って絵を描いたことがある人なら何色と何色を混ぜればどんな色になるか、いくつもの組み合わせを知っていてもおかしくないのだろうけど、私は絵具を使ったことがないからよく知らないんだよね。

 それにしても、現実で染色して糸巻きに巻くところまですると数時間では済まないと思うんだけど、ゲームだからスキルか何かを使って作っているんだろうね。やっぱり裁縫師も興味があるなあ。


「わかりました。大切に届けますね」


 シモーネに向かって返事をすると、私は受け取った糸をインベントリに入れて裁縫師ギルドを後にした。


 革細工師ギルドは魔道具師ギルドの前にある。

 考えてみれば生産ギルドの中にすべてが納まっているんだから、自分で運んでもそんなに時間が掛かることじゃない。だから、ギルドマスター自らが運べばいいじゃないかと思ってしまう。

 でも、チェーンクエストってこんなものなんだよね。もっと遠くまで何かを届けに行ったり、何かを集めてきたりする小さなおつかい系クエストが大量に続くのがチェーンクエストだもん。この生産ギルドの建物の中だけで終わるならこれほどありがたいことはないよね。


 などと考えているうちに革細工師ギルドの前に着いたよ。

 ここではどんなおつかいクエストが待ってるんだろうね。





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