第22話 運営の回答

 件名:[Re]冒険者のピアスの効果についての問い合わせ

 送信元:アルステラ運営チーム-サポートデスク


 アオイ 様

 アルステラ運営チーム サポートデスク担当です。

 いただいたお問い合わせ内容について確認しましたところ、仕様上何も問題がないことが確認できました。

 また、冒険者のピアスはチュートリアルをクリアすれば取得可能なアイテムであり、全てのプレイヤーが入手することができるアイテムですのでチートアイテムでもございません。

 以上のことから、冒険者のピアスを用いて生産職のクエストを進めていただいても構いません。

 いただいたご質問への回答は以上となります。

 これからもアルステラの世界をお楽しみください。


  *


 ナビちゃんが言うとおり、不具合でも何でもないのでクエストをそのまま楽しんでもいいらしい。


《ナビちゃんの言ったとおりなのです》

(そうだね、ありがとうね)


 いつものように無い胸を張るナビちゃんに対して笑顔を返すと、ナビちゃんも満面の笑みをみせてくれた。

 プレイヤーのナビゲーターとして作られたAIとはいえ、喜怒哀楽まで実装しているのはすごいよね。


 運営からのメッセージで冒険者のピアスを装備したままクエストを受けてもいいってことがわかったのは大きいなあ。これで安心してクラフター系統の生産職も始められるね。


 考えながら歩いていると、すぐに錬金術師ギルドに到着した。


「どうぞ、鍵は開いているよ」


 ノックをすると、ハーフリングの女性がとても澄んだ美しい声で出迎えてくれた。

 扉を開いて中に入ると、長い棒を手に大きな錬金釜の中をぐるぐると掻き混ぜているハーフリングの女性がいた。錬金釜の中に何がはいっているのかまでは見えないけれど、そこから漂ってくるのはハッカ油のような香りが混じっていた。


「おや、同胞だね。錬金術師ギルドへようこそ。歓迎するよ」


 どこか凛々しさのようなものを感じる話し方と、腹から出すような力強い声は女性らしい身体つきとは対照的で魔道具ギルドのサブさんとは違ったちぐはぐさがある。


「どうも、アオイといいます。イェルカさんですか?」

「そうだ」

「今日は魔道具ギルドのサブさんからこれを預かってきました」


 私はサブさんから預かった蒸留器をインベントリから取り出し、イェルカさんの近くのテーブルの上に置いた。


「ああ、修理を頼んでいた蒸留器だな。だが、私が大切にしている商売道具を他人に配達させるなど、相変わらず度し難い奴だ」


 眉間に皺を寄せて蒸留器の確認をしながらイェルカさんが呟く。

 現実世界でもそうだけど、職人さんというのは商売道具はとても大切にするからね。例えば、料理人なら包丁を客に触らせたりしない。叩き折られたり、持って逃げられたりしたら商売ができなくなるし、それを武器に人を斬りつけたりしたら大変だからね。


「まあ、そうですね」

「とはいえ、おつかいを頼まれた君にとっては迷惑な話だろう。これはお礼みたいなものだ。受け取ってくれ」


《クエスト「魔道具を届けよう」を達成したのです。

 3,000リーネを入手したのです》 


「ありがとうございます!」


 思ったよりも報酬は少ないかなと思ったけど、普通はこれくらいのような気もするんだよね。


「これでようやくナディアに頼まれていた染料を作ることができるよ」

「あ、染料といえばこちらで塗料を買うことができるとサブさんから聞きました。ホバーボードの表面に塗ることができる塗料ってありますか?」

「ああ、あるよ。今なら黒と赤、緑、青、白があるよ。塗料を混ぜ合わせれば違う色を作ることもできる。何色がいい?」


 鏡みたいに光っているせいで下着が見えるような服を着たら見えちゃうと思っていたんだよね。反射しづらい色といえば白じゃないかなあとは思うけど、目立つような気もするなあ。

 反射するのが少し怖いけど、黒で渋く決めるのもいいかな。


「黒で、黒の塗料でお願いします」

「そうか、黒ならこの量で1,000リーネだ。刷毛は余っているのがあるからサービスしよう。それでどうだい?」

「わあ、ありがとうございます。お願いします!」


 私は急いでインベントリから1,000リーネを取り出してイェルカさんに手渡した。

 代わりに受け取ったのは、直径10㎝、高さも10㎝ていどの塗料缶と刷毛のセット。でも、どこで塗ればいいのかな。


「ホバーボードに塗るというなら北湖ダンジョンの第3層に行く実力があるのだろう?」

「ええ、まあ」

「だったら北湖ダンジョンの第3層で塗るといい。あそこは乾燥しているし、気温も高いから乾くのが早いはずだ」


 商品を受け取ったはいいが、作業場所をどこにすればいいか見当もつかなくて途方に暮れていると、イェルカさんが助け舟を出してくれた。

 プレイヤーは汗をかくほど暑いだとか、喉が痛くなるほど乾燥しているだとか、そういう環境的な影響はあまり受けない仕様だけど、NPCにとって北湖ダンジョンの第3層はそういう場所ってことなんだろうね。


「ありがとうございます。そうします!」

「でもそんなに急ぐわけじゃないんだろう?」

「ええまあ、そうですね」

「君は私と同じハーフリングだ。受けた妖精の加護は錬金術師になると強く効果を発揮する。君は間違いなく素晴らしい錬金術師の才能を持っているはずだ。どうだ、錬金術師にならないか?」


《イェルカから錬金術師ギルドに勧誘されているのです。錬金術師になるのです?》


 イェルカさんの真っすぐな視線に見据えられ、美しく、だが力強い声が私の心に響く。でも、それは魔道具師や彫金師でも同じなんだよね。それに加護はないけど裁縫師や革細工師、鍛冶師にだってなれる。


「お言葉はありがたいのですが、今はギャザラー系を優先したいと思っているので」


《イェルカの勧誘を断ったのです》


「次の機会に、ということかい。まあ、君は間違いなく錬金術師に向いている。必ず錬金術師ギルドに入ってくれることを期待しているよ」


 なんていうのかな。ちょっと強引に迫ってきたかと思うと、あっさりと引き下がる感じ。押してダメなら引いてみなってところかな。

 正直、錬金術には興味があるから間違いなく錬金術師にはなると思うんだけどね、それよりも今は町のクエストとギャザラーのクエストを済ませたい。


「はい。ではこれで」

「そうだ、少し待ってくれるかい」


 先ずは採集ギルドと採掘ギルドに行って、ギャザラー装備のセットを揃えるところから――そう思っていたところ、イェルカさんに引き留められた。

 イェルカさんが用意した椅子に座ってみていると、イェルカさんはサブさんが修理した蒸留器を取り出して、何やら蒸留作業を始めた。現実世界での蒸留は時間をかけてするものだけど、アルステラの中では蒸留器が白く輝いたら純度の高い液体が取り出せるようだね。

 あっという間に何かの液体を蒸留したイェルカさんは、乳鉢の中に入った粉とその液体を丁寧に混ぜ合わせ、器へと移した。


「思っていた通りの発色だ。アオイ、この染料を裁縫師ギルドのシモーネに届けて欲しいんだ」


《サブクエスト「新しい染料」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:021

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:新しい染料

  発注者:イェルカ

  報告先:シモーネ

  内 容:錬金術師のイェルカが裁縫師ギルドのシモーネから頼まれて

      いた鮮やかな黄色の染料を作り上げた。

      イェルカの代わりにシモーネに届けてあげよう。

  報 酬:経験値3,000×2 貨幣3,000リーネ


「はい、わかりました」


《サブクエスト「新しい染料」を受注したのです。イェルカから預かった染料を裁縫師ギルドのシモーネに届けるのですよ》


 簡単なおつかいで経験値が合計で6,000も入るんだったらやらないという選択肢はないよね。

 それにしても、サブさんが修理した蒸留器で作った液体はなんだったんだろうね。


「本来なら頼まれた私が持って行くべきなんだろうが、蒸留の魔道具が使えない間に溜まっていた依頼があってね。それを優先したいんだよ」

「そうですか。シモーネさんに伝えますね」

「そうしてくれると助かるよ。よろしくな」

「はい」


 私はイェルカさんに頭を軽く下げると、錬金術師ギルドを後にした。

 それにしても、続けてクエストが出て来るなんてラッキーだよね。






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