第21話 ホバーボード

 アングラーさんが言ったとおり、岩場を進んで行くと再び森が現れたので、森の中に入って移動した。

 オートマッピングで作った地図があるので方向を間違うこともなく第3層の入口に到着した私は、スカウター装備に戻してからフロアポートを使ってダンジョン入口に移動した。


 ダンジョン入口には100人以上のプレイヤーが集まっていた。とはいえ、私の視界に表示されるプレイヤーの数には制限があるので、それ以上の人がいるのは間違いないと思う。

 でも認識阻害(弱)のせいか、誰も私に気が付く様子がない。


(なんで誰も気付かないのかな?)

《アオイの方が高レベルだということと、スカウターという職業特性もあるのです》

(なるほどお)


 察知されないよう、私は黙ったまま周囲にいるプレイヤーたちの観察を開始した。

 ほとんどのプレイヤーたちは綿の服を着こみ、そこに皮のブーツやグローブ、ベルト、胸当てなどを装着している。スキンヘッドに見えるプレイヤーもいるが、実際はほとんどがレザーキャップのせいだろうね。

 頭に被ると禿げ頭にしか見えない帽子って誰がデザインしたんだろうね。


「そろそろダンジョンに突入するぞ」

「おう、腕が鳴るぜ」


 などと気合を入れた声が聞こえてくる。中にいるゴブリンはそんなに強くないので精々暴れてきて欲しいね。


 楽しそうに会話している人たちの中、わたしはそっとブランチポートの場所に移動し、そこからグラーノの町にあるポータルコアへと移動した。

 ここも人が多くなっていて、見渡す限り他のプレイヤーだらけになっている。


 そういえば、あの男性エルフのプレイヤーがいたパーティの人たちや、ドワーフの男性がいたパーティの人たちも既にグラーノの町に着いているかも知れない。

 特にドワーフを選んだってことは、ラルフってプレイヤーさんは生産ギルドに来てるかも知れないね。再会できるといいな。


 ポータルコアから生産ギルドの方角へと歩いていると、ローラさんがパーティメンバーと共に生産ギルドの中から出てきたのが見えた。


(なんだか嫌な予感がする)

《どうしたのです?》

(いや、なんでもないよ)


 たぶん、グラーノの町で歩いている私を見かけたら、ローラさんはまた声を掛けてくると思うんだよね。だって、私なら最も早くグラーノの町に到着したプレイヤーが持ついろんな情報を得ようと話しかけるもん。

 とりあえず、今は認識阻害(弱)がかかった状態。自ら声を上げたりしない限りは見つかることはないから、ローラさんがどこかに向かうのを確認してから生産ギルドに入ることにしようかな。


 北湖ダンジョンの方へと向かって歩いていくローラさんとは入れ違いに、私は生産ギルドへと入った。受付のレンカさんに簡単に挨拶を済ませると、そのまま魔道具ギルドのサブさんのところに向かった。

 だって、ホバーボードを早く手に入れたいもん。


「どうぞお」


 ノックの返事は再び甘ったるい女性の声だった。

 中に入ると小指を立てて茶器の皿に紅茶を満たし、啜って飲んでいるサブさんがいた。


「あらん、ホバーコアをお願いした冒険者さんじゃない。北湖ダンジョンの第3層でホバーコアを手に入れてきたのかしらん?」

「はい、とってきましたよ。これでいいですか?」


 私はインベントリからホバーコアを3つ取り出し、サブさんが座るテーブルの上に並べてみせた。


「ちょっと待ってねん」


 サブさんは紅茶でいっぱいになった皿の上にカップを置き、手を布で拭ってからホバーコアを手に取った。


「確かに良質なホバーコアだわ。これは約束の報酬よん」


《クエスト「ホバーコアを手に入れろ」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベル22になったのです。

 ホバーボードを入手したのです。

 10,000リーネを入手したのですよ》 


 サブさんが両手の小指を立ててホバーボードを私に手渡してくれた。

 レベルが上がったのもあって、なんだかとても嬉しい。

 金属製のホバーボードは表面が磨き上げられ、銀色に輝いていてとても美しい。だけど、この上に立って乗るとなると、女子的にはスカートの中が映りこみそうで怖いよね。一応、キュロットだから大丈夫だとは思うけど。


「ありがとうございます。でも、表面はこの鏡面仕上げだけしかないの?」

「そうなのよお。このキラキラと光る感じがなんともゴージャスでしょお?」

「確かにゴージャスではありますね」

「あなたもハーフリングなんだから、魔道具師になりなさいよ。そうしたらホバーボードの作り方も教えてあげるわよ」


《サブから魔道具師ギルドに勧誘されているのです。魔道具師になるのです?》


「ごめんなさい、先にギャザラー系統をやってからということで」


《サブからの勧誘を断ったのです》


 もう少しでビギナーギャザラーシリーズが揃うからね。先にギャザラーを済ませてから次に挑みたい。


「あら、残念ね。ホバーボードのキラキラが嫌なら錬金術師ギルドに行くといいわあ。塗料を売っているし、錬金術師になれば作り方を覚えられるわよ。あらやだ、ちょうど錬金術師ギルドのイェルカに修理を頼まれていた蒸留器があるから、代わりに届けてくれないかしら?」


《サブクエスト「大事な商売道具」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:020

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:大事な商売道具

  発注者:サブ

  報告先:イェルカ

  内 容:錬金術師のイェルカから修理を頼まれていた蒸留器を

      届けて欲しい

  報 酬:経験値3,000×2 貨幣3,000リーネ


「あ、はい。いいですよ」


《クエスト「大事な商売道具」を受注したのです。サブから受け取った蒸留器を届けるのです》


「そうそう、このあと錬金術師ギルドに行ったからといって先に錬金術師になっちゃ駄目よ。魔道具ギルドに入ればホバーボードも作れるようになるんだから、先に魔道具師になりなさいよん」


 くねくねと腰を捻りながらサブさんが私に話しかける。

 そもそも錬金術師と魔道具師はハーフリングが受けている加護を生かせる職業だからね。本来なら断る理由がない。

 でも、生産職のクエストまで冒険者のピアスの効果が得られるせいで、異常なほどにレベルアップが早く、期せずしてチート行為をしてしまっている可能性があるからね。それが理由でBANされるようなことになるというのは避けたいから、運営に投げたメールの返事を見て考えたいんだよ。

 特にギャザラー系の職業は先にレベルアップさせてしまっているけど、クラフター系統はまだまだこれからだもん。


「いや、本当にギャザラーをやってからということにしたいので」

「そうなのねん。ギャザラーに飽きたらうちのギルドに来てねん」

「はい、是非そうさせてもらいますね」


 間違いなく、あとでお世話になるからね。丁寧に挨拶をして私は魔道具ギルドを出た。


 ダンジョン第3層まで行く中で、採集家ギルドの薬草を集めるクエストと、漁師ギルドのジェットスクイドを5杯釣ってくるクエストが残ってるんだよね。報告すれば、ビギナーギャザラーシリーズの装備が2つ貰えるからね。先に報告を済ませようかな。

 順番としては、採集家は2つめのクエストを受けないといけないはずだからあとから行くとして、先に採掘家の方に行かないとね。

 でも、せっかく2階にいるんだし、ただのお届け物クエストだから錬金術師ギルドの方に行くのも悪くないかな。


 階段の近くに立って考えているとプレイヤーらしき人たちとすれ違うけれど、スカウター装備についた認識阻害のおかげで誰にも気づかれずに移動することができる。


《アルステラ運営事務局からのダイレクトメッセージが到着したのです》

(え、もう返事が来たのかな?)

《ナビちゃんが読むのです?》

(お願いします)


 私が返事をすると、運営からのメッセージを読み上げるナビちゃんの声が脳内に響いてきた。





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