第13話 ビギナーギャザラーシリーズ

(ナビちゃん、現実時間では今何時?)


 銅鉱石の採掘を終えた私は、ひと息ついてからナビちゃんにたずねた。


《17時を少し過ぎたところなのです》

(じゃあ、町に戻ってからログアウトして用事を済ませて来るかな。装備をスカウターに変更してくれる?)

《了解なのです》


 全身が一瞬光ると私の装備が採掘家からスカウターへと変更された。北湖ダンジョン第1層はゴブリンしか出てこないのでピックでも倒せるとは思うけど、私のSTR値では採掘以外の用途で振り回すのは難しそうだもん。


 着替えを終えて来た道を戻ると、途中でまた2匹のゴブリンに会った。どこかでリポップしたんだと思うけど、サクッと倒して30分ほどでダンジョンの外に出た。


(ブランチポートはどう使うの?)

《手をかざして、行先を念ずれば転送されるのです》

「じゃあ、こうかな?」


 語尾を上げ気味に右手をブランチポートへと突き出し、「グラーノ」と念ずると視界が揺らぐ。その揺らぎが落ち着くと、目の前にはグラーノのポータルコアがあった。


 念のため全身をチェックしてみたけど、何も異常は無かった。

 ぐるりと周囲を見回したところ、誰もいない。まだ私以外のプレイヤーはグラーノの町に到達していないのかな。


(ナビちゃん、ログアウトお願いします)

《了解なのです。ログアウトするのです》


 視界が切り替わると、視界の風景はゲーム内とは大きく違う。

 私は身体的な理由から、部屋の中にいろいろとモノを置くことができなかった。そのせいもあって、今でも部屋の中はできるだけシンプルにしている。自然豊かなアルステラと比べると大きなギャップがあるので、本当に「現実に戻ってきた」って感じるんだよね。


 さて、ずっと同じ姿勢をしていたせいか、体がバキバキだよ。

 軽くストレッチをして身体を解し、レンチンご飯とレトルトのカレーを食べて入浴を済ませた私は再びアルステラにログインした。全部で3時間はかかったけどね。


「登録完了!」

「俺もだ」


 ログインしてみると、ポータルコアに登録したと思しきプレイヤーが数人いた。どうやら互いに進捗状況を報告しているみたいだね。

 認識阻害(弱)のおかげで、ポータルコアの近くにスポーンしても他のプレイヤーには私が認識できないのがありがたいね。小さな体躯にも関係するのかな。


 ポータルコアに現れるプレイヤーもいるみたいだから、たぶんナツィオに飛んで帰ってきた人たちなんだろう。逆に、ポータルコアに接触して登録していた人たちは次々とナツィオへとテレポで飛んでいってる。

 他のプレイヤーたちが私に追いついてきている、ということなんだよね。でも、どうでもいいかな。

 別にレベルだとか強さだとか、誰かと競い合って1番になりたいなんて私は思っていないもの。逆にさっさと私のことを追い抜いて欲しいくらいだよ。


 などと考えながら、私は職業ギルドへと向かった。


《漁師クエスト「北湖の魚」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がったのです。

 レベルが16になったのです。

 中級漁師セットを入手したのです。

 8,000リーネを入手したのです》 


 漁師ギルドのギルマス、デニスさんにナマズ3匹をみせるとクエストクリアしてまた漁師レベルが上がっちゃった。クエスト報酬もあるけど、ナマズ以外にもいろんな魚が釣れたもんね。


「次はレベルが15になったら来るといいぞ」


 中級漁師セットを受け取ると、デニスさんが言った。スカウターの職業クエストと同じで、5レベル刻みでクエストがあるのかな。


「もうレベル15になりましたよ」


 本当はレベル16なんだけど、いいよね。


「なんだ、そんなに釣りが気に入ったのか。じゃあ、次は海釣りだ」

「海釣り、ですか?」


 このグラーノの町はどちらかというと山に近い場所にあるんだよね。確かに西へ行くと森の先に嘆きの海岸というところがあるってナビちゃんが言ってたけど。


「北湖ダンジョンの第3層は大部分が海になっている。そこでジェットスクイドを5杯釣りあげてきなさい」


《漁師クエスト「海釣りを楽しもう」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:FS-004

  クエスト種別:職業クエスト

  クエスト名:海釣りを楽しもう

  発注者:デニス

  報告先:デニス

  内 容:ダンジョン第三層にある釣り場でジェットスクイドを

      5杯釣り上げよう

  報 酬:経験値6,000×2 貨幣15,000リーネ

      ミッドレンジギャザラーシャツ


「ジェットスクイド?」

「8本の足に、2本の触腕を持つ魔物だ。釣り上げたときに青黒い汁を飛ばすから気をつけるんだぞ」

「わかりました!」


《漁師クエスト「海釣りを楽しもう」を受注したのです。北湖ダンジョン第3層でジェットスクイドを5杯釣り上げるのです》


 要するに、ダンジョン第3層の海でイカを釣りあげてこいってことね。


 クエストを受けた私はデニスさんに挨拶を済ませ、採掘家ギルドに移動した。


「嬢ちゃん、銅鉱石を10個掘ってきたか?」

「これでいいんですよね?」


 ドアをノックして中に入ると同時、採掘家ギルドマスターのアレンさんがたずねてきた。急いで必要なのかな、と思った私は慌ててインベントリから銅鉱石を10個取り出し、アレンさんの前に並べた。


「おう、大きさ、純度ともに申し分ないな。これなら依頼達成でいいだろう、ほらこれが報酬だ」


《採掘家クエスト「銅鉱はどこ?」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がったのです。

 レベルが9になったのです。

 ビギナーギャザラーボトムを入手したのです。

 1,000リーネを入手したのです》 


 おっ、ビギナーシリーズの服って結構揃ったんじゃないかな。あとでお着替えしよう。


「ありがとうございます」

「銅鉱は鍛冶師、彫金師にとっても基本の素材だから見つけたら集めておくといい。採掘していればレベルが5になるだろうから、その頃にまた来なさい」

「あ、もうレベル5にはなってます」

「む、そうか。銅鉱の採掘で頑張った証拠だな。では次は北湖ダンジョン第2層で亜鉛鉱石と錫鉱石を3個ずつ採掘してきなさい」


《採掘家クエスト「錫と亜鉛」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:MN-002

  クエスト種別:職業クエスト

  クエスト名:錫と亜鉛

  発注者:アレン

  報告先:アレン

  内 容:まだまだ一人前にはほど遠い。北湖ダンジョン第2層で

      亜鉛鉱石、錫鉱石を各3個採掘してこよう。

  報 酬:経験値500×2 貨幣3000リーネ

      ビギナーギャザラーベスト


「わかりました!」

《採掘家クエスト「錫と亜鉛」を受注したのです。北湖ダンジョンの第2層の採掘ポイントを見つけて採掘するのです》


 ダンジョンを踏破しないといけないから、このまま続けてクエストを受けて進めてしまえばいいよね。


「ダンジョン第二層のゴブリンは少し強いから気をつけるんだぞ、嬢ちゃん」

「はい、ありがとうございます。行ってきます!」


 アレンさんに挨拶を済ませ、私は採掘家ギルドの出口を出た。


(ナビちゃん、ビギナーギャザラーシリーズの装備って、あと何が足りていないの??

《採掘家のクエストで受けたビギナーギャザラーベスト、採集家クエストで受けたビギナーギャザラーマントなのです。採集家クエストのレベル10でも何か貰えるのですよ》


 逆に受け取ったビギナーギャザラーシリーズは農家クエストで受け取ったキャップとグローブ、漁師クエストで受け取ったシャツとブーツ、採掘家クエストで受け取ったボトムかな。


(ナビちゃん、今ある装備で試着できるかな?)

《もちろんなのですよ》


 いつものように試着モードで展開されたホログラムに、ビギナーギャザラーシリーズの装備が反映されると、思わず私は声を上げた。


「かわいいっ!」


 指先部分が大きく盛り上がった安全靴仕様の黒の編み上げブーツ、青いボトムスは黄色い糸でステッチが入っていてまるでデニムのように見える。

 トップスは木を削って作ったボタンで留めるゆったりめの長袖シャツ。そして、指先部分の取り外しが可能な黒い革のグローブと、白地のキャスケット帽というスタイルだった。


 これは残りのビギナーギャザラーマントとベスト、ベルトがどんなのなのか気になるね。





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