第11話 北湖ダンジョン第1層
北湖での釣りとブランチポートの登録を終えた私は、そのまま北湖ダンジョンの第1層へと足を進めていた。
石造りの階段を20段ほど下りていくと、そこは直径3ⅿくらいの洞窟につながっていた。
洞窟の中はひんやりと冷たく、壁や天井がぼんやりと発光している。真っ暗というわけではないのがありがたいね。それでも、見通しはあまりよくない。20ⅿほど先にもなると暗闇しかない。
《スキルの索敵とマッピングがあるのです。目に見える範囲よりも先は索敵で、目に見える範囲はマッピングで地図化してしまえばいいのですよ》
「なるほどね!」
狭い洞窟内で私の声が壁や天井に反響し、増幅されて大きくなった。
《声が大きいのです。北湖ダンジョン第1層には魔物もいるのですよ》
(あ、はい、ごめんなさい)
《今の声で魔物に気付かれたかも知れないのです。注意するのです》
(わかった。じゃあ、マッピングスキルと索敵をお願いしていい?)
《マッピングスキルを発動し、索敵と連動するのです》
私の視界に半透明のホログラムのようなものが現れ、目の前に見えている洞窟の形状が再現されていく。続けてナビちゃんが索敵を発動したことで、先ほどは見えなかった20ⅿよりも先の部分までが立体的なマップとなって表示された。たぶん、30ⅿていどまでは地図化できていると思う。
(どうやらこの洞窟はしばらく続くようね)
《そうなのですよ》
少し先まで地図化できたことで私が少し安堵の息を吐くと、小さな音だが何かが騒ぐ声のようなものが聞こえてきた。
(この階層の魔物って、何がいるの?)
《ゴブリンなのです》
(あのゴブリン?)
《あの、の意味はわからないのです。ゴブリンなのです》
私の言いたいゴブリンというのは、小説や他のVRMMORPGなどに登場する雑魚モンスターのこと。
(緑色の肌に醜悪な顔をしていて、悪臭と腰蓑を身体に纏い、棍棒を手に持って人を襲う魔物のことかな?)
《おそらく、同じ魔物を指していると思うのですよ》
ナビちゃんの返事を聞いて、私は耳を澄ませた。
ともすれば聞き逃してしまうようなとても小さな音も、ダンジョンの洞窟の中、しかも他には誰もいない状況であれば少し集中するだけで確実に聞き取れる。
小さな音だけど、ある一定のリズムで素足が刻む音が近づいてくる。
「ゴギャッ、ゴギャギャッ」
「ゴギャギュッ、ゴギャゴゴッ」
更に、地球の動物では聞いたこともないような声が遠くから聞こえる。洞窟の壁や天井に反響して更に不気味な声に変わっているから性質が悪い。
背格好や骨格が似ているからか、すべてが同じ声に聞こえるのだけど、聞こえた声の感じからすると2匹以上、50ⅿくらいの距離にまで近づいている感じじゃないかな。
「ゴギャッ、ゴギャゴギャ」
私の声を聞いてやってきた割にはゴブリンたちからは警戒心のようなものをまったく感じない。見回りのお使いにでも来たかのような雰囲気で、当然のように何か話しながらこちらに向かってくるのがわかる。
(認識阻害(弱)は魔物にも有効?)
《もちろんなのです。音を立てずにいれば気付かれずに済むのですよ》
じゃあ、こちらから静かに近づくことも可能ってことね。
確認したところで私もゴブリンらしきMOBが向かってくる方向へと進んだ。5ⅿも進まないうちに、前方の暗がりから聞こえる声がどんどん大きくなって、ぼんやりとだけどその姿が目に入ってくる。
身長は私よりも低くて、1ⅿくらい。眉がなく、ギョロリとした目に、顔の大きさに合わない鷲鼻と大きく裂けた口。汚れてくすんだ緑色の肌に、肋骨が浮かび上がるほど痩せこけた身体とは対照的にぽっこりと膨れた腹――ゲームによって少しずつデザインは異なるものの、見ただけで直感的にそれがゴブリンだと認識できる。
「ギャゴギャギャゴゴッ」
「ゴギャギャッ」
「ゴギョゴギギガッ」
逆に、ゴブリンたちは話に夢中になっているのか、私のことに気が付いていないみたいだね。これが認識阻害(弱)の効果なのかな。具体的にどう作用しているか知りたいけれど、今それを調べるわけにもいかない。
洞窟の中央を歩いているとさすがにゴブリンも気づいてしまうんじゃないかな、と考えた私は洞窟の壁沿いに移動して3匹のゴブリンたちに近づいていく。
残り20ⅿ、10mと距離が縮んでも、ゴブリンたちは相変わらず「ゴギャゴギャ」と話をしているだけだ。私の存在に気付きそうもない。
ベルトから2本のスローイングナイフを取り出すと、私は一番近くにいるゴブリンに向かって投げた。
同時に、近くから順にゴブリンA、ゴブリンB、ゴブリンCの名前とHPバーがゴブリンたちの頭上に表示される。
ナイフはスキル補正もあって見事に弧を描きながら一回転し、ゴブリンAの眉間に音を立て突き刺さる。
頭上に〝Critical!!〟の文字が表示されたゴブリンAは、断末魔の声を上げることもなく、白目を剥いた。
「ゴギャッ!?」
突然、眉間にナイフの柄を生やしたゴブリンAを見て、ゴブリンBが驚いたように声を上げた。何ごとかと慌ててゴブリンAへと視線を向けたゴブリンCの目には、ゆっくりと崩れ落ちるゴブリンAの姿が映った。
ほんの1秒にも満たない、僅かな時間。ゴブリンBとゴブリンCは何が起こったのかを悟ったのだろう。慌てて周囲へと目線を配る。
その僅かな時間のうちに私は音もなく駆けだしてゴブリンCの背後へと回った。
(うっ、臭い……)
《ゴブリンの体臭は臭いものなのです》
なんといえばいいかな。アンモニアと硫黄の匂いに、発酵して発生する酸っぱい匂いを混ぜたような匂いなんだよね。
思わず左手で鼻を塞ぎそうになるのを我慢して、右手に抜いた戦狼の牙刀でゴブリンCの首を斬り飛ばした。
ゴブリンCは即時にポリゴンとなって消え、ようやくゴブリンBは私の存在に気が付いたようだ。
「ゴギャッ!!」
腹は出ているけど、手足は細いゴブリンBはそのまま棍棒と共に一回転してしまい、私にがら空きの背中を向けた。
もちろん、その隙を私が見逃すことなどない。私が延髄から喉元まで戦狼の牙刀を突き刺すと、ゴブリンCはその場でポリゴンと化して爆散した。
《ゴブリン3体を倒したのです。
冒険者手帳「北湖ダンジョン」ゴブリン討伐数(3/5)になのです。
360リーネを入手したのです。
棍棒を2本入手したのです。
ゴブリンの腰蓑×3を入手したのです。
ゴブリンの魔石を3個入手したのです。
経験値1,500を入手したのです。
スローイングナイフを回収したのですよ》
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