第4話 はじめての攻撃魔法
結局、まだインベントリに残っていた3個のクマの人形を取り出して交換した。おかげでインベントリを見ると小麦粉(8)になっているし、レベルも20に上がっている。
とりあえず他の用途でクマの人形を使う可能性がないわけではないけれど、必要になれば町の外に行って狩ってくればいいでしょう。
道具屋を出た私は、斜め前にある店に入った。
「いらっしゃい、新人冒険者さんかしら?」
カウンターの向こう側から色気のある声でたずねてきたのは、腰まで伸びた金髪にすべてが理想的な形、配置なのではないかと思わせるほど美しい顔立ちをした女性だった。尖った耳は彼女がエルフであることを教えてくれる。
「あ、はい。ジオさんからの依頼でお店と住民の名前を地図に書き込むお仕事をしています。D級冒険者のアオイです」
「それはご苦労様。私はこの魔道具屋の店主、エルケよ」
「ありがとうございます。商品を少し見せていただいても?」
「もちろんよ、名前だけ教わったらさよならなんて冷たいこと言わないでちょうだい」
「そうだ、魔法、魔法書って何があります?」
ナツィオの町では生活魔法しか扱っていなかったけど、グラーノなら魔法書も扱っていると皆が言ってたよね。
「そうね、アオイさんはハーフリングだから風と火の大精霊の加護があるわ。個人的には加護にあった魔法を覚える方が上達も早くて、威力も高いと思うわよ」
背後にある本棚からエルケは魔法書を取り出しながら言った。
エルケが取り出した魔法は、火属性魔法がファイアボール、ファイアウォール、ファイアジャベリン、ファイアピラーの4種類。風属性魔法がウィンドエッジ、ウィンドウォール、ウインドブレード、エアハンマーの4種類だった。
ファイアボールはウィザードのプレイヤーが使用しているのを見たことがあるし、プチデビルが私にむけて使ったのを避けたことがある。
詠唱時間が必要な割に、あまり飛翔する速度が高くない魔法だった。価格が同じということはウィンドエッジも同じくらいの威力の魔法なんだろうね。あと、ダンジョンの中に入ることや、森の中などにも入るんだから火は避けた方が良さそうな気がする。
それに、ファイアボールと同じくらいの速度であれば私には使えない。ウィザードの人たちは前衛が敵視を集め、更には抑え込む役割をもってくれているから遅いファイアボールでも問題ない。でも私はソロで戦う前衛型スカウターだから、悠長に詠唱している暇はない。それに私のAGI値だと、間違いなくファイアボールが飛ぶのより速い。
「詠唱速度が短くて、発動が早い魔法ってありますか?」
「あなたスカウターよね、魔法をどう使うつもり?」
「牽制とか防御……かな。あと回復とか」
スローイングナイフは本数が限られるから、魔法で牽制できるといいんじゃないかなって思うんだよね。
でも、牽制するためにファイアボールを飛ばして、先に斬り倒していたら意味がない。詠唱が短くて、敵に到達するのが早い魔法がいいよね。
それに、ハーフリングはHP値や物理防御力などは低いはずだから、防御力を上げられる魔法があると嬉しいと思った。
「じゃあ、これなんてどう?」
エルケさんが出したのは、稲妻のシンボルが描かれた魔法書だった。
私はすぐに鑑定して、中身を確認する。
魔法書:スパーク(光) 消費MP:10
制限:Lv10以上、ウィザード系とスカウター系のみ使用可能
概要:光属性の単体攻撃魔法。放電することで対象を感電させる。
40%の確率で麻痺状態を付与する。
おおっ、雷なら発動してからの速度は光と同じだからね。間違いなく私よりも速いはず。しかも40%の確率で状態異常を付与できるんだからありがたいよ。でも、問題は詠唱にかかる時間だよね。
(ナビちゃん、私がスパークを覚えたとして、ナビちゃんに発動を頼むことってできる?)
《ナビちゃんにお任せなのですよ》
さすがナビちゃん、心強い言葉を返してくれた。
エルケさんは他にも物理障壁を張るプロテス、魔法障壁を張るテスタ、回復魔法のヒールとキュアを勧めてくれた。プロテスとテスタは無属性魔法で誰でも覚えられる。ヒールはHPの回復、キュアは解毒ができる魔法で僧侶とスカウター、ハンターだけが覚えられる。更に上級の生命魔法は僧侶やその上位職だけが覚えられるんだって。
「プロテスが300リーネ、テスタが500リーネ、スパークとヒールは5,000リーネでキュアは10,000リーネだよ。合計で20,800リーネだね」
「あ、はい」
私はインベントリからお金を取り出して支払いを済ませた。
メインクエストでこの町に移動してきたけど、その報酬だけで20,000リーネあったからね。ナツィオの町にいたときと比べると、お財布事情は悪くない。
商品を受け取って魔道具屋を出た私はすぐに買ったばかりの魔法書を開いた。生活魔法と同じように、見開き状態になった魔法書が光り輝くと、パラパラと勝手にページが捲られ、光が消えていく。
《無属性魔法<プロテス>を覚えたのです》
《無属性魔法<テスタ>を覚えたのです》
《光属性魔法<スパーク>を覚えたのです》
《生命魔法<ヒール>を覚えたのです》
《生命魔法<キュア>を覚えたのです》
次々と魔法書を開いて覚えたところで、気になったところをナビちゃんにたずねることにした。
(ねえ、ナビちゃん)
《なんなのです?》
(無属性魔法ってなに?)
《属性を語るには精霊を語る必要があり、精霊を語るには神々を語る必要があるのです。話が長くなるのですが、いいのです?》
(要約するとどうなるの?)
《創造神は天空の神、大地の神、火の神、水の神の4柱を生んだのです。ある日、空はあまりにも広いので補助をする神を生むことを創造神に願い、4柱が御子神を生むことが認められたのです。それで生まれたのが光の神と闇の神、風の神の3柱なのです》
ナビちゃんが神々の系譜を空中に書きだして説明していく。
《大地の神、水の神、火の神の3柱も配下の御子神を生んでいきましたが、それでも大きな世界を維持するには手が足りないのです。そこで創造神は神々の眷属として精霊をつくったのです。最初につくられたのは、大地の精霊ノーム、火の精霊サラマンダー、水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフ。この4精霊を大精霊と呼ぶのです》
(へえ、そうなんだ。他に精霊はいるの?)
《すべての神々に精霊がいるわけではないのです。四大精霊と光と闇、生命の精霊以外に協力を得る魔法が無属性なのです》
いろんな精霊がいて、いろんな神様がいる。
アルステラはそういう世界なんだね。
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