第3話 グラーノのクエスト

 ギルド長のゲイルの話を聞いたあと、私はすぐに冒険者ギルドを出た。

 静寂の森を出た直後にバイタルアラートが出て一度ログアウトしているけれど、それからまた結構な時間が経ってるんだよね。


(ナビちゃん、一旦ログアウトお願いします)

《了解なのです。ログアウトするのです》


 視界が緑色に変わり、そしていつもの自分の部屋に戻った。


 小学生のときにXRDを使うまでは、部屋の中にモノを置けなかった。

 だから、今もモダンでシンプルな部屋に落ち着いているんだけど、逆にその無機質な感じが今の私にはありがたいんだよね。だって、「現実世界に戻ってきた」という実感があるから。


(システムコール、クロック)

《現在時刻は15時3分です》

(アラームセット、60分)

《60分後にアラームをセットしました》


 XRDから聞こえるPUTの声を聞いた私は用を済ませ、ベッドへとダイブした。



 一時間ほどの仮眠を清ませると、私は再びアルステラにログインした。


「お隣は何屋さんかな?」


 最初に見つけたのは冒険者ギルドの隣にある建物。冒険者ギルドはとても立派な建物なので見劣りするが、幅が狭いだけで高さは冒険者ギルドと大差ない。

 ナツィオの町で店の中に突撃するのに慣れてしまったのか、私は何の抵抗もなく扉を開けて入った。店内では恰幅のいいヒト族の男性が地図らしきものを眺め、うんうんと唸っていた。


「こんにちは、中をみせていただいてもいいですか?」


 どうやら私に気が付いていないようなので声を掛けてみた。

 さすがに私の声に気付いた男性が返事をする。


「いらっしゃい。しがない雑貨屋ですがゆっくり見ていってください」

「ありがとうございます」


 許可を得た私は店の中に並んでいる商品を見て歩いた。

 雑貨屋は生活用品である木桶や樽などからロープ、蝋燭などを主に扱っているみたいだね。


(そういえば初級治療薬はマルチンさんに1つ渡したんだよね)

《残りは3本なのです》

(あれはどこで買うの?)

《必要なときは錬金術師の店に行けば買えるのです。生産ギルドに行って錬金術師に就けば、自分でも作れるのですよ》

(生産職に就けるんだったね。冒険者ギルドで場所を聞いて来ればよかった)

《生産ギルドは冒険者ギルドの前、町の西に延びる通り沿いにあるのです》

(ありがとう)


 雑貨屋の中を見てまわっても、他に必要性を感じるようなものはなかった。

 ダンジョンに潜るのだから松明のようなものも必要なのかと思ったけれど、考えてみるとスカウターには専用のライト魔法があるからね。


「ありがとうございました」

「あんた、冒険者かい?」


 私が早々に店を出ようとすると、店主らしき男性から声がかかった。

 嘘を吐く理由なんてないので、私は自分の冒険者証を取り出してみせた。


「はい、冒険者です」

「じゃあ、悪いけどこの地図を埋める作業を手伝ってくれないかね?」


《サブクエスト「グラーノの地図更新」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:014

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:グラーノの地図更新

  発注者:ジオ

  報告先:ジオ

  内 容:雑貨屋のジオから町の白地図に住民の名前を

      書き込む仕事を手伝ってほしいと頼まれた。

      まだ名前が書かれていない建物を訪れて白地図を

      埋めよう。

  報 酬:経験値3000×2 貨幣3000リーネ

      初級治療薬(2)


 そういえばナツィオの町でも地図クエストは雑貨屋さんで受けたのを思い出した。雑貨屋さんは地図を扱っているのかも知れないけれど、町の規模は確か6倍くらいになってるんだよね。

 私は地図を覗き込んで、どれくらいの家の数があるのか確認してみた。

 家の数は見た感じ5倍くらいありそう。でも、ほとんど全部埋まっていた。


「居住区は終っていて、商業地区と工業地区が残っているんだ」

「わかりました、お手伝いします」

《クエスト「グラーノの地図更新」を受注したのです。店や工房などをまわって白地図に住民を書き入れ、ジオに渡すのです》


 ポータルコアがあるあたりを中心に東側と北側が商業地区、西側が工房などが並ぶ工業地区らしい。


「じゃあ、頼んだよ」と、頼むジオさんを残し、私は街に出た。ナツィオの時と同じようにいろんな店や工房に突撃して、職業と名前を書き込みながら新しいクエストがあれば受けていく。


《サブクエスト「風に舞った手紙 」が発生したのです》

《サブクエスト「やっぱり肉でしょ」が発生したのです》

《サブクエスト「料理の材料集め」が発生したのです》

 …………

 ……


 内容をあまり確認せずに受注していたけど、たぶんなんとかなるよね。因みに、「風に舞った手紙」は伝書鳥屋のボルタ―から、届いた手紙が風に舞って5枚ほど飛んで行ったので拾って届けて欲しいというもの。拾って届け先を確認してみると、魔道具師ギルドのサブ、裁縫師ギルドのシモーネ、漁師ギルドのデニス、神官のラース、ファイターギルドの講師ゲオルグ宛ての手紙だった。

「やっぱり肉でしょ」というのは、露店を開いて魚を売っていた漁師のアンガーさんからのもので、ドードの肉を手に入れて欲しいという内容だった。

「料理の材料集め」のクエストは、料理屋のカタリナから受けた、小麦粉とボアの肉、岩塩をそれぞれ2つずつ集めてくるというものだ。残念ながら岩塩だけが手に入っていなかった。


 7軒目に入った店は道具屋だった。


「いらっしゃい」

「あの、違うんです。ジオさんに頼まれて、町の地図に名前を埋めるお仕事をしているんです。冒険者のアオイと言います」

「へえ、この町は広いから大変だろう。私の名前はマルキンだ。見ての通り道具屋だよ」


 店の中を見渡すと、鋤や鍬、ツルハシ、スコップ、ハンマー、鋸、斧などが並んでいた。

 だが、私にはそれ以上に気になることがあった。マルキンの顔があまりにもマルチンに似ていたのだ。


「もしかして、マルチンさんのご兄弟ですか?」

「ああ、マルチンを知ってるのか。マルチンは私の弟だよ」

「やはりそうなんですね。お顔がそっくりです」

「うん、よく言われるよ」


 2人で談笑していると、足下から小さな声が聞こえた。


「ねえねえ、君は冒険者なのかい?」


 慌てて声の主を探すと、身長40㎝ていどで背中に蝶のような羽を生やしたピクシー族の女性が私を見上げていた。


「そうです。Dランク冒険者のアオイと言います。何かご用ですか?」

「Dランク冒険者なら安心して頼めるわ。グラーノ農業地帯にいるパペットベアを倒してきて欲しいの。魔法で戦えば勝てる相手なんだけど、作物に火がついちゃうので駄目なのよ。そうね、討伐証明は中綿10個かクマの人形でいいわ。どうかしら?」


《サブクエスト「憎きパペットベア」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:011

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:憎きパペットベア

  発注者:アニタ

  報告先:アニタ

  内 容:道具屋に農具を買いに来ていたピクシー族のアニタから

      農業地帯にいるパペットベアを10体倒して欲しいと頼まれた

      討伐の証拠として、中綿(10)かクマの人形を提出しよう。

  報 酬:経験値2000×2 貨幣2000リーネ

      小麦粉(2) 初級治療薬(2)》


「お受けしますよ」

《クエスト「憎きパペットベア」を受注したのです。パペットベアを10体以上倒して中綿(10)かクマの人形を入手し、提出するのです》

「まあ、じゃあよろしくお願いしますね。はい、依頼票です」


 私は依頼票を受け取って中身を確認すると、すぐにインベントリからクマの人形を取り出した。


 実は先に受けていた「料理の材料集め」で小麦粉を2個使うことになっていた。これで、「憎きパペットベア」は完了し、「料理の材料集め」の方も少し進むことになる。


「アニタさん」

「あら、パペットベアの中綿(10)かクマの人形を持ってきてくれたのですか?」

「はい、クマの人形です」

「わあ、ありがとうございます。こちらが報酬です」


《クエスト「憎きパペットベア」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 小麦粉(2)、初級治療薬(2)を入手したのです。

 2000リーネを入手したのです》 


《このクエストは再受注が可能なのです。再受注の場合は報酬の内容が変わるのですよ》

(どう変わるの?)

《経験値は半分で、報酬が小麦粉(2)と1000リーネになるのです》

(悪くないわね)


 小麦粉は料理の材料になるので、これから生産職を始めるのなら持っていて損しないアイテムだからね。逆に、意味不明の同じクマの人形を大量に持っていることの方が私はどうかしていると思う。





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