第8話 魔道具ギルド
着替えを終えて、私は試験農場の畑に出た。農家という職業補正があるせいなのかな。それなりに重い鍬を持ち上げて振り下ろすと、1面分の畑が耕され、畝ができた状態になっちゃった。
スキルという形でプレイヤーの動きを制約して鍬をシステム側が動かしてしまうと、プレイヤーに過度なストレスが溜まる。だから、鍬を1回振り下ろすだけで畑が耕せてしまうという仕様になってるんだろうね。
私はそれを2回繰り返すと、ナビちゃんの声が聞こえた。
《レベルが上がったのです。レベルが2になったのです》
合計3回、畑を耕しただけでレベルが1つ上がった。具体的にどれだけ経験値が必要なのか、ナビちゃんが教えてくれないからわからない。だけど、1つの畑で経験値4としたら、3つで12。冒険者のピアスのせいでそれが倍になるから24かな。もしかするとレベル1から2に必要な経験値は20だったりするのかな。
私はそのまま、4つめの畑に鍬を振り下ろした。
《農家クエスト「畑を耕そう」が進んだのです。ヤンへ報告に行くのです》
(はーい)
手に鍬を持ち、背中に鋤を背負ってベルトに鋏や手鎌をぶら下げた格好で私はヤンさんのもとに報告に向かった。
「ほう、なかなか上手にできているじゃないか。これは報酬だ、受け取ってくれたまえ」
ヤンさんは小さな身体だというのに、なかなか大きな箱を1つ手渡してくれた。
《農家クエスト「畑を耕そう」を達成したのです。
経験値の上昇を確認しました。
レベルが上がったのです。
レベルが5になったのです。
ビギナーギャザラーキャップを入手したのです。
1,000リーネを入手したのです》
「ありがとうございます」
「いや、農家の職に就いてくれる者がいれば、このグラーノ農業地帯の将来も安心だ。次はレベルが5になったら来るといい」
「あ、もうレベルは5になりました」
「そうなのか。では、先ほど耕した畑に小麦の種を蒔いてもらおう」
《農家クエスト「小麦の種を蒔こう」が発生したのです。クエストを受けるのです?》
クエスト番号:FM-002
クエスト種別:職業クエスト(農家)
クエスト名:小麦の種を蒔こう
発注者:ヤン
報告先:ヤン
内 容:自分で耕した畑に種を蒔こう
報 酬:経験値500×2 貨幣3000リーネ
ビギナーギャザラーグローブ
「はい、やります!」
私は元気よく返事をすると、ヤンさんから小麦の種を受け取った。
《農家クエスト「小麦の種を蒔こう」を受注したのです。耕した4区画の畑に種を蒔き、ヤンに報告するのですよ》
(どうやって蒔くの?)
《対象の畑の前に行って、ナビちゃんに頼めばできるのですよ》
(わあ、ナビちゃんって有能だね)
《もちろんなのですっ》
ナビちゃんがない胸を反らして、アピールしてくる。ナビちゃんは機械精霊だけど手で触れることはできないから撫でることもできない。たぶん、撫でることができればもっと甘えてきたりするんだろうね。
(じゃあ、よろしくお願いします)
《まかせるのです》
ナビちゃんが次々と種を蒔き、あっと言う間に4つの畑の様子が変わった。種が蒔かれ、表面が軽く湿った状態になった。どうやら、インベントリの中から「種を使う」ことで種が蒔かれるようで、畝に穴があいて自動的に種が入って埋められるようになっているみたい。1粒ずつ種を蒔く必要がなくてよかった。
《農家クエスト「小麦の種を蒔こう」が進んだのです。ヤンに報告に行くのですよ》
(うん、ありがとう)
種を蒔き終えた私は、早速ヤンさんに報告に向かった。
「すごいね、上手に種が植えられている。これは報酬だ、受け取ってくれたまえ」
《農家クエスト「小麦の種を蒔こう」を達成したのです。
経験値の上昇を確認しました。
レベルが上がったのです。
レベルが11になったのです。
ビギナーギャザラーグローブを入手したのです。
3,000リーネを入手したのです》
「次はレベルが10になったらここに来なさい」
「は、はい。また来ます」
わあ、また一気にレベル11になっちゃった。これ、不具合とかじゃないよね。たしか、サービス規約には不具合を利用したレベル上げは処罰対象になっていたと思うけど。
一旦、農家ギルドの外に出た私はナビちゃんに話しかける。
(ナビちゃん、なんかレベル上がるのが早すぎない?)
《冒険者のピアスに付与された経験値2倍の効果のせいなのです》
(いや、それにしても)
ナビちゃんが言っているのは理解できるんだけどね、流石にクエストを済ませるだけで一気にレベル11となるとすごく悪いことをしている気になるよ。
(不具合じゃないの?)
《現時点で生産職のレベリングに関する不具合の報告はないのです》
(そりゃ、私しか生産職に手を出している人がいないからでしょ)
少なくとも、グラーノの町にまで到達しているプレイヤーはまだ見かけていないもの。
《運営に問い合わせすることもできるのです。問い合わせするのです?》
(そうね、お願い)
《問い合わせのタイトルと本文を指示して欲しいのです》
(えっと……)
数分掛けて、ナビちゃんと会話しながら問い合わせ内容を決めて送信した。返事にどれくらいの時間がかかるかわからないので、とりあえず生産系ギルドのクエストはこれまでにしておく方がいいよね。
でも、せっかく生産ギルドにいるんだから手紙のクエストは進めないと。
私は2階に向かい、クラフター職の魔道具師ギルドの前に立って扉をノックした。
「どうぞお入りになって」
甘ったるい女性の声が扉の向こうから聞こえたので、私は扉を開いて中へ進んだ。
「いらっしゃい。新人冒険者さんかしら?」
扉を開いた先に立っていたのは、小指を立てて羽ペンを持ち、図面らしきものを描いている中性的なハーフリングだった。
「はい、ボルタ―さんからお手紙の配達を依頼されたD級冒険者のアオイと言います。サブさんでしょうか?」
「あらあ、そうよお。私宛にお手紙が届いたのね。ラブレターの返事かしらあん」
《クエスト「風に舞った手紙」が進んだのです》
手紙を受け取ったサブさんは、早速手紙の封を開けて便箋を取り出すと中身を確認した。
「あらん、ざんねん。隣町にある魔道具師がホバーコアが足りないから送って欲しい、ですって。あなた、アオイさんだったかしら。ホバーコアっていうのはそこにあるホバーボードの材料なのよん。ダンジョン第3層まで行って、ホバーコアを3つ取ってきてくれない?」
サブが指さした方角を見ると、そこには銀色に輝くスノーボードのような板が展示されていた。
《クエスト「ホバーコアを手に入れろ」が発生したのです。クエストを受けるのです?》
クエスト番号:019
クエスト種別:サブクエスト
クエスト名:ホバーコアを手に入れろ
発注者:サブ
報告先:サブ
内 容:魔道具師ギルドに行くと、ギルドマスターのサブから
北湖ダンジョン第3層でホバーコアを3つ取ってきて
欲しいと頼まれた。
北湖ダンジョン第3層に向かい、ホバーコアを
手に入れよう。
報 酬:経験値10000×2 貨幣10000リーネ
ホバーボード
報酬経験値がインフレを起こしている気がするけど、それだけレベルアップに必要な経験値が増えている、ってことだよね。
「これはね、地面や水面から少しだけ浮き上がって飛ぶことができる魔道具なのよ。グラーノや王都なんかの町の中では使っちゃいけないことになっているんだけど、外なら使える便利な乗り物よん」
サブさんが説明するとおりだとしても、町の外でしか乗れなくてもかなり移動が楽になるよね。特に採集家で集める素材は広範囲に探しまわることになりそうだし、あると便利なのは間違いない。
問題は、AGI値が高い私が走るのとどちらが早いか、だよね。
「わかりました」
《サブクエスト「ホバーコアを手に入れろ」を受注したのです。グラーノ北湖ダンジョン第3層に行って、ホバーコアを入手してくるのですよ》
「うふふ、じゃあよろしくね。ところで、アオイさんは魔道具師には興味ないの? ハーフリングなら魔道具師の適性が高いわよ」
「今は少し都合が悪いので、また機会があればご相談します」
冒険者のピアスをしているだけで生産系のクエストでどんどんレベルアップしてしまうからね。とにかく、運営からの返事を待ってどうするか考えることにしたい。
取り合えず魔道具師ギルドでボルタ―さんから引き受けた手紙を配達するのは終ったから、そろそろグラーノ北湖へと向かおうかな。
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