第30話 グラーノの町へ

先ほど見えたパペットベアがいた方向に向かい私は駆けだした。

認識阻害(弱)のせいか、パペットベアはこちらの存在に気が付かないようで、無防備にもこちらに背中を向けていた。


右手に戦狼の牙刀を、左にスチールダガーを持って私は背後から襲いかかる。


まずは左手のスチールダガーがパペットベアの背中に浅く傷をつけ、続いて右手の戦狼の牙刀がザックリと表面を切り裂いた。

切り裂いたパペットベアの背中からは白い綿のようなものがこぼれ出てくる。


本当にパペット、いやパペットって指人形だよね。あれ、違ったっけ。


「ムッキーッ!!」


パペットベアが怒ったような声を上げて、こちらに振り向いた。

見た目は完全なぬいぐるみで、膝や肘のあたりなど数か所が継ぎはぎされてできている。

そのパペットベアの太い首に向けて、私は右手の戦狼の牙刀を突きだすようにして力いっぱい切りつけた。


ブオンッという風を切るような音と共に、パペットベアの首が飛び、同時にポリゴンと化して砕け散った。


《パペットベアを倒したのです。

 冒険者手帳「グラーノ農業地帯」パペットベア(1/5)。

 経験値 40×2を入手したのです。

 50リーネを入手したのです。

 中綿を入手したのですよ》


(中綿?)


私はインベントリに入った中綿を簡易鑑定した。


  名前:中綿

  説明:パペットベアの中に詰まっていた綿 。裁縫の素材。


(裁縫って、生産系の生産職だよね?)

《そうなのです。布製品を作ることができる生産職なのですよ》

(生産職っていくつまで登録できるの?)

《全ての生産職に就くことができるのです。但し、向き不向きもあるのですよ》

(例えば?)


《パペットベアを倒したのです。

 冒険者手帳「グラーノ農業地帯」パペットベア(2/5)。

 50リーネを入手したのです。

 中綿を入手したのですよ》


私は当たり前のようにナビちゃんと会話しながらパペットベアを倒していく。既に私のレベルは17だから、パペットベアは格下なんだよね。更に戦狼の牙刀がとても強い。


《ブラウニー族は火と水の精霊の加護を持っているのです。相反する加護だけど、料理に関しては絶大な才能を発揮するのですよ》

(火と水を使うから?)

《そのとおりなのです》

(鍛冶でも火と水を使うよね?)

《鍛冶は土と火なのです》

(ああ、なるほど。素材と火の関係なのね)

《パペットベアを倒したのです。

 冒険者手帳「グラーノ農業地帯」パペットベア(3/5)。

 50リーネを入手したのです。

 中綿を入手したのですよ》


再びナビちゃんと話しつつ、見つけたパペットベアを倒した。

進行方向へ目を向けると、パペットベアがヨタヨタとこちらに向かって歩いている。装備の効果に認識阻害(弱)がついているせいか、私が10mほど先にいても気が付かない。


向かってくるパペットベアに向けて、スローイングナイフを投げる。

すっぽりと突き刺さるスローイングナイフだが、パペットベアは中身が綿でできたぬいぐるみのような身体をしているせいか、全然ダメージがないようだ。


「ムッキーッ!」


と、怒ったような声を上げてパペットベアが走り出す。

腰に佩いた戦狼の牙刀を抜き、私はパペットベアが来るのを待ち構えた。

不安定な走り方でドタドタと私の方に向かってくると、2ⅿほど先のところでパペットベアが躓いて転んだ。

勢いよく私に向かって転がってくるパペットベアを避けようと横に足を引いた瞬間、パペットベアが残った脚に抱き着いてきた。

ふんわりモコモコとした感触が足に伝わってくる。


「ムッキームッキーッ!!」


捕まえた! とでも言いたいのだろうか。大きな声で叫んでいる。

見た目はクマのぬいぐるみだし、可愛らしいんだけどね。静かにして欲しいな。

私は騒ぐパペットベアの首に戦狼の牙刀を突きさし、引き裂いた。

まるで豆腐でも切るかのようにパペットベアの首が取れて落ちると、ポリゴンになって砕け散る。だが、パペットベアがいた場所にいくつもの円と六芒星が浮かび上がった。


「魔……法陣?」


私の言葉が零れると同時、魔法陣が輝くとそこに虹色のパペットベアが現れた。


《レインボーベアなのです》

(どういうこと?)

《パペットベアの変異種なのです。さきほどのパペットベアが抱き着いて仲間呼びをしたのですよ》

(ふうん……)


レインボーベアはいきなりジャンプしてお尻をぶつけてきた。わたしはそれを半歩下がって回避する。


《ヒップアタックなのです》

(あのモコモコのお尻が当たってもねえ……)

《当たる瞬間に硬化するのですよ》

(それは嫌らしいわね)


続けざまにヒップアタックをしてくるレインボーベア。その攻撃をひらりひらりと私は躱していく。

5回、6回と攻撃を繰り返して効果がないと理解したのか、レインボーベアは私の身体に抱き着こうと両手を広げて飛び掛かってくるようになった。


《抱き着き攻撃なのです。抱き着きからの絞首がパペットベアとレインボーベアの攻撃パターンなのです》

(え、普通は避けるよね?)

《見た目に騙されるのですよ》

(まあ、確かに可愛らしいけどさあ)


所詮は魔物なので、左手のスチールナイフでレインボーベアの胸元を切り裂き、右手の戦狼の牙刀で首を刎ねた。

ブォンという音と共に、レインボーベアの首がするりとずれて落ち、レインボーベアはポリゴンになって崩壊した。


《パペットベアを倒したのです。

 冒険者手帳「グラーノ農業地帯」パペットベア(4/5)。

 冒険者手帳「グラーノ農業地帯」レインボーベア(1/1)を達成したのです。

 250リーネを入手したのです。

 くまの着ぐるみを入手しました。

 虹色の布を入手しました。

 中綿を入手したのですよ》


(あれ、レインボーベアってレアモンスターか何か?)

《そのとおりなのです。仲間呼びで稀に現れるMOBなのですよ。

 アオイは運がいいのです。くまの着ぐるみもレアドロップなのですよ》

(へえ、着ぐるみねえ。町では着られないのでしょう?

《問題ないのです。PC、NPCから攻撃を受けることはないのです》

(でも認識阻害(弱)の方が効果はいいよね。インベントリの肥やし決定かな)


《パペットベアを倒したのです。

 冒険者手帳「グラーノ農業地帯」パペットベア(5/5)を達成したのです。

 経験値1,580を入手したのです。

 50リーネを入手したのです。

 中綿を入手したのですよ》


よし、これでパペットベアは完了だね。グラーノの町に向かってどんどん進むとしましょうか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る