第29話 グラーノ農業地帯
《フォレストウルフの集団を倒したのです。
300リーネを入手したのです。
フォレストウルフの毛皮×3を入手したのです。
フォレストウルフの牙×1を入手したのです。
フォレストウルフの爪×4を入手したのです。
冒険者手帳「静寂の森」フォレストウルフ(5/5)を達成したのです。
経験値1,500を入手したのです。
冒険者手帳「静寂の森」ボーナスポイント 「3種類のMOBを討伐する」を達成したのです。
経験値ボーナス5,000を入手したのです
経験値の上昇を確認しました。
レベルが上がったのです。
レベルが17になったのです》
冒険者手帳のボーナスがすごすぎる。冒険者手帳はチートアイテムじゃないのかな。こんなの持っていて大丈夫か心配になってくる。
(ねえ、ナビちゃん。冒険者手帳は他に持っている人っているの?)
《知らないのです。たぶん、今はアオイだけなのです》
(もうチートアイテムじゃん……)
《条件さえ揃えれば誰でも手に入れられるアイテムなのです。チートではないのですよ》
(ほんとに?)
《ホントなのですよ》
(だったらいいけど……)
確かに条件発生クエストがあって、運よく私はすべての条件を満たしただけ。でも、全世界で1億人が事前予約したってくらいのゲームなんだから、そろそろ2人目、3人目がでてくるよね。
じゃあ、いいかな。大丈夫に違いない。
とりあえず冒険者手帳の静寂の森のページはクリアしたんだから、次の町――グラーノに向けて進もう。
私は街道に沿って走りだした。前に走ったときよりも更に早くなっていて、街道の柵にぶつかりそうで怖い。でもゲーム補正も効いているのか、全然当たることはなかった。
元々三叉路を越えたところでフォレストウルフと戦っていたこともあり、すぐに森を抜けた。
「わあ、これもまたすごいね」
森を抜けた先は、稲っぽい作物が一面に植えられた穀倉地帯だった。濃い青空の下、黄金色に実った穂が頭を垂れていて、それが視界いっぱいに広がっている。そこに一本の街道がただずっと真っすぐ伸びていた。
ぷかぷかと浮かぶ綿雲の白い色に、深い青色の空、黄金色の大地。
私はしばらく森の出口に立ってその景色だけを眺めていた。
《バイタルアラートです》
私はナビちゃんの声で我に返った。
何分くらいこの景色を眺めていたんだろう。
(えっと、ここでログアウトできるのかな?)
《静寂の森の出入口付近は安全地帯に設定されています》
(オッケー、じゃあチャッチャと済ませて来るよ。ログアウトお願いね)
《ログアウトします》
視界がARに切り替わると、私はゲーミングチェアから下りてお手洗いに駆け込んだ。
用を済ませて時計を見ると、世間的にはランチタイムと呼べる時間帯だった。私は冷凍スパゲティをレンジでチンして食べると、再びアルステラの世界へと飛び立った。
(ただいま)
《おかえりなさいですよ》
(何かメッセージ届いていない、よね)
《半日経過した時点でのランキングが公開されているのです。見るのです?》
(あ、いらないかな。頭痛くなりそうだし)
《1位はアオイなのです。残りは有象無象なのです》
(うん、知ってた)
静寂の森の前でクエストの説明をしたとき、他のプレイヤーはレベル9くらいだったからね。推して知るべしって感じ。
私の視界にいた人たちは100人くらいだったけど、表示人数の限界がそれくらいってことなんだろうね。1億人が予約していたゲームで、完全オープンワールドだから、あの森の入口前に数千万人も人がいたのかな。そんなにたくさんの人に注目されていたのかと思うと、ちょっと変な汗が出きた。
さて、気分を切り替えてグラーノの町に向かっていきましょう。
(ナビちゃん、冒険者手帳でこのマップの部分をみせてくれる?)
《はい、どうぞなのですよ》
グラーノ農業地帯(0/10)
3種達成 経験値ボーナス 5,000
5種達成 経験値ボーナス 10,000
10種達成 経験値ボーナス 30,000
・パペットベア 0/5 未達成 経験値1,500
・レインボーベア 0/1 未達成 経験値3,000
・プチデビル 0/5 未達成 経験値2,000
・コドモドラゴン 0/5 未達成 経験値2,500
・ドード 0/5 未達成 経験値5,000
・ネザートード 0/5 未達成 経験値8,000
・マンドリル 0/5 未達成 経験値8,000
・マンドラゴラ 0/5 未達成 経験値10,000
・イエローパンサー 0/5 未達成 経験値10,000
・マッドルーパー 0/5 未達成 経験値15,000
(やっぱり経験値の量が多くない?)
何度も見直しして、私はナビちゃんにたずねた。
《そんなことはないのです。そろそろアオイもレベルアップが辛くなっている。それだけ必要経験値も増えているのですよ》
(確かにそうだけどさあ……)
冒険者手帳を持っているのが自分だけと思うとやはり悪いことをしている気分になる。
でも気にしてはいられない。誰だって手に入れることができる可能性があるのならチートではないからね。
(で、最初はどれから狙うべきなのかな?)
《この先にパペットベアがいるエリアがあるのです。そこから始めて、コドモドラゴンまで倒せばすぐにグラーノの町なのです》
(他の魔物たちは?)
《その先にある王都ヴァイスブルクいう町につながる道にいるのです》
(急がなくてもいいってことかな?)
《そうなのですよ》
だったら、と私は街道から外れ、黄金色の穀物が実った農地へと足を踏み出した。穀物の株は高さ1ⅿほどもあり、日本の水田のように見事に等間隔に並んで植えられていた。
ミレーという画家が描いたように、欧州では1,850年代までの種蒔きは投げ散らかすように行われていたらしい。当然、種は均一に蒔かれておらず、たくさん生えているところ、生えていないところ……ムラができたらしいんだよね。
でも、このゲームの中の畑では見事に整列している。均一に蒔く方法を確立してるのかも知れないなあ――と、私は少し感心しつつ簡易鑑定をかけてみた。
<簡易鑑定>
名前:小麦
説明:アルステラでは一般的な穀物。
粉にしてパンや麺にして使う。
簡易鑑定だけあって、本当に簡単な説明しか出てこない。
本当の鑑定スキルがあれば品質だとか、収獲可能かどうかだとかわかるんだろうなあ。
(これは穀物よね?)
《小麦という植物なのです》
初めて小麦の実物を見たかも、日本でも小麦畑とかどこにあるんだろうね。少なくとも殆ど家の外に出ないし、都会っ子だからあまり畑や田んぼなんかみたことがないんだよね。
(収穫できないの?)
《生産職として農家に就いていれば可能なのです。実の部分を収穫し、粉にして使うのです。生産職で調理師になれば料理を楽しめるのです》
ゲームシステム上、脳が「食べた」と認識しないようにしなければならず、非常に薄味のものしか作れない。作るという楽しみはあると思うけど、食べる楽しみが薄いのは残念としか言えないよね。
だから生産職に料理関係の職業があっても私は料理をしないつもり。
空腹だとシャウトができない等の制限があるだけなので気にしていない。
黄金色に輝く穀物の間にもぞもぞと動く毛玉のようなものが見えた。
(ナビちゃん、<索敵>をお願い)
《任せるのです!》
視界に表示されているマップ上にMOBであることを表す点がポツポツと表示されていく。
《近くにいるのはすべてパペットベアなのです》
じゃあ、サクッと狩りますか……と思ったところで、私はあることが気になって動けなくなってしまった。
(畑の中で暴れると作物に被害が出るんじゃないの?)
《生産職が農家の状態で、手に収穫器具を持っていなければ作物には触れられないのです。暴れても平気なのですよ》
(そうなんだね、ありがとう)
実際に手を伸ばして穂に触れてみようとしても、手が穂を通り抜けてしまい触れることができないのを確認した。
農作物へ影響を与えないなら遠慮することなくMOBと戯れることができるよね。
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