第28話 フォレストウルフ再び
《プレイヤーの攻撃力に加え、MOBの防御力や弱点、クリティカルを含めて総合的にダメージが算出されるのです。攻撃力だけ公開しても、意味がないからなのですよ》
(た、たしかに……)
魔法には四大精霊の加護が関係するみたいだし、属性の相性などもダメージに関係してくることになるんだろうね。それなら、確かに攻撃力を単純に公開したところで意味はないかも知れない。
逆に公開すると「俺の戦闘力(攻撃力)は53万だぜ! ヒャッハー!!」って感じで調子に乗るプレイヤーも出てきそうだもんね。
《基本的にSTRで攻撃力は上昇するのです。でも、職業によってはVITやDEX、AGIの値で攻撃力は上昇するのです。闇雲にSTRばかり上げてしまわないよう、他の値にも意味を持たせているのですよ》
(へえ、そうなんだ。よくできてるね)
《当然なのです!!》
無い胸を強調するかのように胸を張る機械精霊のナビちゃんだけど、私が褒めたのは開発した人たちの方なんだけどな、まあいいか。
とりあえず、疑問に思ってたところは解決したし、次に行こうかな。
私は木の上に登ったまま、隣の木へ、その次の木へ跳んで移動していく。
(そういえば、タイニーエイプのドロップ品で毒消し草っていうのがあったけど、森の中に自生しているの?)
《自生しているのです。でも、採集スキルがないと手に入れられないのです。グラーノの町で採集家を生産職として登録すればできるようになるのですよ》
(へえ、それは楽しみ)
ナビちゃんと話しながら樹上を移動していくと、開けた場所に出た。中央に幽寂の祠らしき石組みの建物があり、辺りには体長1ⅿほどのイノシシがうろうろしている。
(あれがレッサーボア?)
《そうなのです。奥に見える大きな個体がマッドボアなのですよ》
半透明なナビちゃんが祠の逆側にいる大きなイノシシを指さして言った。
レッサーボアの大きさは体高80㎝ほどしかないが、マッドボアは2ⅿはあるだろう。
《マッドボアを倒す必要はないのですよ》
(そうだね、近いのから順に一頭ずつ釣ってくればいいかな)
私は木から下りると、最も近い場所にいたレッサーボアの近くに行き、スローイングナイフを投げた。ドスッという音と共にナイフが突き刺さる。
「ピギィイイイイッ」
突然の痛みのせいで鳴き声を上げたレッサーボアが私に気付き、突進してくる。
マッドボアを見たあとだと、レッサーボアという名の意味も理解できるけど、日本の山にいる普通のイノシシと変わらないんじゃないかな。
まあ、それなりの運動能力しかないので、私は軽々とその突進を避け、背後からまたスローイングナイフを投げた。
ナイフは大きな弧を描いて、レッサーボアの尻に刺さった。
「ピギィィイイイッ!!」
再度、レッサーボアが悲鳴を上げた。
私は高いAGI値の恩恵を用いてレッサーボアのあとを追うと、戦狼の牙刀を使って後ろ脚の腱を切った。
急に足が思うように動かなくなったレッサーボアはバランスを崩して倒れた。
両前脚を大きく広げることができない体型をしているせいか、上手く立ち上がれないようなので、私は再び近くにまで近づいて首を刎ねた。
レッサーボアは一瞬でポリゴンに変わり、砕け散った。
《レッサーボアを倒したのです。
冒険者手帳「静寂の森」レッサーボア討伐数(1/5)になったのです。
40リーネを入手したのです。
ボアの肉を入手したのです。
スローイングナイフを回収したのですよ》
ボアの肉も、不思議なことに竹皮のようなもので包まれていた。
それが一瞬でインベントリの中に自動収納されていった。
この調子でガンガン行ってみましょう!
《レッサーボアを倒したのです。
50リーネを入手したのです。
ボアの肉を入手したのです。
冒険者手帳「静寂の森」レッサーボア(5/5)を達成したのです。
経験値1,000を入手したのです。
スローイングナイフを回収したのですよ》
うん、レベルは上がらなかったね。
とにかく戦狼の牙刀が優秀だし、一撃で倒せるパターンも増えてきている。それを生かして、少し派手に動き回った方が良さそうだよね。
木の上に登って街道を挟んで反対側へ移動すると、フォレストウルフが数頭でまとまって動いていた。基本、オオカミや犬は群れで行動するので、そういう特性までAIに組み込まれているんだろうね。
「さて、どうしようかな」
私は木の上で呟いた。
最も近くにいる群れは6頭、その先にいるのは4頭。課題の数は5頭だから6頭の方を頑張る感じかな。
バトルウルフと戦ったときは街道での戦いだったけれど、今回は森の中。フォレストウルフの得意な場所で戦うことになるけど、鬱蒼と木々が生い茂った場所なら私も身体操作を生かして戦うことができると思う。
3本の木を順番に蹴りながら下り、最も近くにいるフォレストウルフAに対して襲い掛かる。
両手にナイフを構え、左、右と振って首筋に傷を負わせると、フォレストウルフAは簡単にポリゴンと化して砕け散った。
「次っ!」
私とフォレストウルフAの戦いに気が付いた残りの5頭が向かってくる。
近くの木に向かって私は駆けだし、幹を蹴る。続けて隣の木の幹を蹴って4頭のフォレストウルフを飛び越え、最後尾にいたフォレストウルフFの前に立つ。
「そこっ!!」
掛け声と共に隙だらけのフォレストウルフFの首筋を狙って右手の戦狼の牙刀を一閃。“Critical!!”の文字が表示されると、フォレストウルフの首が胴体から離れ、同時にポリゴンへと変わって砕け散った。
それを見届ける間もなく、私はまた木の幹を蹴って上に跳びあがる。2本目、3本目と蹴ってフォレストウルフCの背中に跨るように飛び降り、戦狼の牙刀を首と頭の付け根に突き刺す。“Critical!!”の文字と共にポリゴンと化してフォレストウルフCが砕け散った。
だが、流石に残ったフォレストウルフたちも冷静になったのか、私との距離を詰めてきた。
おそらく飛び掛かろうとしているだろうフォレストウルフBを右斜め前に踏み出して避け、左手のスチールナイフで首を裂くと、背中を蹴って背後へと宙返りをしながら飛ぶ。狙いどおり、木の幹へと両脚を着いた私は再び前へ、フォレストウルフDに向かって身体を飛ばした。
――バキッ!!
怯んだフォレストウルフDの脇腹に蹴りを入れると、何かが折れたような音がした。
休む間もなくフォレストウルフBが左から飛び掛かってくる。その前脚をスチールナイフで斬り飛ばし、戦狼の牙刀で首筋を斬りつける。
だが、間断なくフォレストウルフEが私に飛びかかろうと走ってくる。
私は背を向けて走り出し、木の幹を2回蹴って宙へと舞った。
木にぶつかるわけにいかず止まったフォレストウルフEは、自身の上を越えて背後に降り立つ私を見ることしかできなかった。
――ドスッ!
吸い込まれるように戦狼の牙刀がフォレストウルフEの後頭部に突き刺さると、フォレストウルフEはポリゴンとなって砕けた。
出血の継続ダメージのせいでフォレストウルフBがポリゴンとなって砕けるのを横目に、私は再びフォレストウルフDに向き合い、左、右とナイフを斬りつけた。
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