第27話 条件発生型クエストの秘密

 ずっと目立たないように気配遮断(弱)の恩恵を受けてきたというのに、自分で声を出していれば世話がないよね。


 肩を竦め、ちょっと身を屈めてから静かに、こっそりと立ち去ろうと思ったところで声が掛かった。


「すみません。独り、パーティしませんか?」

「えっ?」


 少し素っ頓狂な感じの声を上げ、私は声の主の方へと体の向きを変えた。

 そこには丸い盾と80㎝ほどの剣を持ったヒト族の男と、弓を持ったエルフ族の男、メイスを持ったヒト族の女性がいた。

 エルフ族の男って初めて見たかも知れない。なんとまあイケメンだこと。


「僕たち、メインクエストで中入るのです。独りだったら、一緒行きませんか?」


 自動翻訳なのかな。でもそれにしては少し話し方がたどたどしい気がする。自動翻訳処理が追いついていないとか、そういうことってあるのかな。

 でもまあ、このあたりにいて、中に入ると言っているところを見るとこれからバトルウルフと戦うというわけでもなさそう。


「商人を探しに行くクエストですか?」

「はい、そうです」

「ごめんなさい、私はもうクエストは終ったので隣町に向かうところなの。また機会があったら誘ってくださいね」

「――ッ!! そ、そうですか。呼び止めごめんなさい」

「いえいえ、頑張ってくださいね」


 少し頬を引き攣らせながら、できるだけ愛想のいい返事をした。

 相応のレベルがあるなら3人だけでも商人のところに辿り着けるとは思うけれど、4人の方が安心だし、経験値も多くなるもんね。気持ちはわからないでもないね。


 でも何だか私たちの話に耳をそばだてていた他のプレイヤーもいるみたいで、ひそひそと声が聞こえてくる。これは次に声を掛けられる前に森の中に入る方が良さそうだ、と私は静寂の森の入口へダッシュした。


 メインクエストをクリアしているので、私から見た静寂の森の入口はごく普通の街道でしかないけれど、そこに当たり前のように消えていく私を見て他の人たちはどう思うだろう。いや、装備補正もあってAGIが150を超えているので、他のプレイヤーから見ると私は一瞬で森の中へ消えちゃったんじゃないかな。ちゃんと自重しないとね。ハハハ……。


 街道の右側がタイニーエイプのエリア、左側がフォレストウルフのエリア、三叉路から向こうがレッサーボアのエリアだと思う。でもまずは冒険者手帳を確認だね。


(ナビちゃん、冒険者手帳の静寂の森エリアを見せてくれる?)

《はい、どうぞなのですよ》


 冒険者手帳はインベントリから取り出して開くこともできるけど、やはりナビちゃんに任せるのが楽でいいね。


  静寂の森(0/3)

  3種達成 経験値ボーナス 5000

  

  ・タイニーエイプ    0/5  未達成  経験値1,000

  ・レッサーボア     0/5  未達成  経験値1,000

  ・フォレストウルフ   0/5  未達成  経験値1,500

  

(あれ、少ないね……)

《バトルウルフ、マッドボア、エルダーエイプはそれぞれ1体ずつしかいないからなのです》

(なるほどね。この右側がタイニーエイプ、三叉路の先がレッサーボア、左側がフォレストウルフでいいのかな?)

《そのとおりなのです》

(ありがとう。じゃあ、最初はタイニーエイプから行くかな)


 私はナビちゃんに話すと、身体操作を使って街道の柵に登り、そこから手近な木の枝へと飛び移り、次々と高いところへと上ってタイニーエイプの集落を探しに行った。


 2分もかからないうちに、タイニーエイプの集落を発見した私は、スローイングナイフを使って5匹を倒した。

 元々、私のステータスではそんなに攻撃力が高いわけでもないのに、スローイングナイフが狙ったところに刺さると、簡単に倒すことができた。


《タイニーエイプを倒したのです。

 40リーネを入手したのです。

 毒消し草を入手したのです。

 冒険者手帳「静寂の森」タイニーエイプ(5/5)を達成したのです。経験値1,000を入手したのです。

 スローイングナイフを回収したのですよ》


 確か、野兎を倒したときの経験値が1羽で4×2だったと思う。その125倍の経験値が貰えるのはとても美味しいけど、ちょっと心配になってきた。


(ねえナビちゃん。タイニーエイプの経験値っていくら?)

《タイニーエイプを1匹で、経験値は20×2なのです》

(じゃあ、5匹倒して経験値は200、冒険者手帳の経験値が1,000ということね。冒険者手帳って気前良すぎない?)

《冒険者手帳は現段階で入手困難なレアアイテムなのです。入手条件が揃わないと入手できないものなのですよ》

(それってどんな?)

《条件発生型クエストは複雑なのですよ。まず……》


 ナビちゃんの話をまとめるとこうだ。


 クエストNo.001 「門番パウルの初心者指導」の報告時にエレナとパウルが話をしているところを見かけること。次に、メインクエストを受ける直前にエレナの存在に気がつき、声を掛けること。

 まずこの2つが揃わないとクエスト自体が発生しないらしいんだよね。揃えるための条件もあるみたいだけど、そこまでは教えてくれなかった。

 そして、腹を空かせたエレナに食事を与えること、森の中でオスカーに会ったときに怪我人の有無を確認すること、初級治療薬を無償で提供すること。この3つの条件を達成したら冒険者手帳が貰える。更に、1つしか達成しなかった場合、2つ達成した場合、3つとも達成した場合で報酬が変わるらしい。だから受注するときに報酬が「??????」になっていたわけなんだね。


《つまり、アオイはとても運がいいのです》

(そ、そうなのかな)


 確かに合計5つの条件をすべて初見で満たすなんていうのは、本当に運がいいとしか私も思えない。

 でも本当に運なのかな、最初の2つの条件がわからないと何とも言えないね。

 あと1つ気になったことがあるんだよね。


(それはいいとして、なんかスローイングナイフの威力が上がってない?)

《アオイはレベルアップによりステータスが上がっているのです。それに、攻撃力の値は主装備で決まるのです。戦狼の牙刀の攻撃力が高いのも影響しているのですよ》

(ちなみに私の攻撃力っていくら?)

《値は非公開なのです》

(ええっ、なんで?)


 攻撃力の値って、誰かと比較したりするのにとても大切な目安だと思うんだけど、なんでだろう?











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