第26話 はじめての声掛け
初期の民族衣装を着た人たちはだんだん減ってきて、綿の服(上下)に皮のブーツ、皮の手袋って人たちも増えてきた。
でも、小さい種族でプレイしている人を殆ど見かけないんだよね。見る限りヒト族の男女、エルフの女性、猫人族、狼人族、虎人族、獅子人族、兎人族、熊人族……って感じで、順に少なくなっていく。ちょっと狐人族の女の子とか見てみたいんだけど、気配さえもないね。
あ、でもドワーフらしき男性がいるね。大きな斧を手に2匹のコエラスのヘイトを集めて見事な立ち回りをしてる。コエラスの方がどうみても大きいのに頑張ってるなあ。一緒に戦ってるのは小さめのエルフの女性とヒト族の男女だね。ヒト族の男性が僧侶、エルフはウィザード、ヒト族の女性はアタッカーのようで短槍を持って横からコエラスの首筋あたりに攻撃を掛けている。
「ドワーフさん頑張れー」
短い脚でドタドタと歩く姿を見て思わず声を掛けてしまった。まあ、このあたりは弱い魔物しかいないし、他のプレイヤーも……あ、メッチャ注目を浴びてる。でもまあ、皆さん戦っている最中だからね、ローラさんみたいに話しかけてきたりはしない。
(ナビちゃん、<索敵>をお願い。なにか近くに来たら教えて)
《はいなのです。<索敵>で周囲の警戒をするのです》
私は三角座りをしてドワーフさんたちの戦いを眺めていた。息があった連携を見ているとすごく勉強になるね。私はソロだけど。
私の応援を聞いて発奮したのかドワーフの男性が大斧を振るって、1頭のコエラスの首に刃を突き立てた。それが致命傷になったのか、コエラスがポリゴンになって砕け散る。
私は拍手でその斧技を称賛した。だって、斧を地面に振り下ろして、その反動で飛び上がってから前宙返りをして更に斧に遠心力を与えてコエラスに叩きつけたんだよ。ドワーフは確かDEXは高いけどAGIが低いはずなので、アクロバティックな動きは苦手なはずなのにね。
2頭目のコエラスはドワーフさんが抑え、アイスニードルの魔法で弱ったところに首筋に決まった女性の槍で勝負がついた。
綺麗に連携が決まると、見ていて気持ちいいよね。
「わあ、ハーフリングは初めて会いました、かわいい!! 本当にお人形さんみたい!」
戦いを終えて駆け寄ってきたのはヒト族の女性だった。
「そういえば、皮の胸当てをした銀髪のハーフリングがいると聞きました」
「でも、変わった服を着ていますね」
続いたのは女性エルフと、ヒト族の男性の方だ。ドワーフさんはまだこちらに向かって歩いているところみたい。やっぱり遅いんだよね、AGIが低いから。
「こんにちは、私はユキといいます。お名前、教えてもらってもいいかな?」
一応、プレイヤーを簡易鑑定すれば種族と名前くらいは表示されるんだけけどね、ちゃんと名乗ってから相手にたずねるのがマナーと言われてる。それをきっちりしている人は好印象だね。
ただ、たずね方が子どもに対するソレなのはちょっと気にくわないなあ。
「こんにちは、アオイです。一応、成人していますので普通に接してくださいね」
「あ、ごめんなさい。つい見た目に引っ張られちゃったみたいです」
すぐに謝るユキさん。意地張って謝る気もない人ってよくいるけど、意地を捨てて謝ることも勇気だからね。ちゃんと謝れる人って大事よ。
「こっちのネカマエルフはエマ、ヒト族の野郎はマコト、あと……」
「ネカマエルフゆーな! よろしくね」
身バレされた女性エルフが突っ込みを入れた。たぶん、他のゲームから参戦してきた人たちなんだろうね。
まあ、8割の女性エルフは中身が男性と言われるくらいだから、気にしてないけどね。
「ラルフといいます。よろしくお願いします」
「あ、はい。アオイです。よろしくお願いします」
ドワーフ男子はラルフというらしい。私よりも少し背が低く、120㎝くらいかな。若いのか、歳をとってるのか見た目ではわからないけど、もじゃもじゃの髭があって、手足が短くてずんぐりしていて愛嬌がある身体つきをしてる。種族選択の時に女性しか見ていなかったせいで、男性ドワーフがとても新鮮に見えるね。
「ごめんなさい、初めて小さい身体を選んだ人を見たのでつい」
「いやいや、たぶん逆の立場ならボクもそうしていたと思いますから気にしないでください」
「ありがとう」
ドワーフさんの中身は結構紳士的な人のようだね。言葉も丁寧で好感が持てる。見た目はアレだけどね。
私とラルフさんの会話が終るのを待てなかったのか、エマさんが私に向かって問いかける。
「ねえねえ、その服はどうしたの? 町で売ってるのかな?」
「いえ、これはメインクエスト報酬ですよ」
「ええっ! メインクエストを終わった人っていたんだ!!」
両手で口を塞ぎ、目を大きく見開いて驚くエマさん。他の3人も同様に驚いた顔をしている。
「まあ、運よく最初にメインクエストを発動したらしいですね……」
私は恥ずかしくなって少し照れた。本当にたまたま、偶然、運よく私がパウルさんに声を掛けてもらっただけだからね。
服や装備のことは全部「クエストをやっていれば貰えますよ」で話が終るし、メインクエストは「ネタバレはよくないでしょう」で話が終った。結局、あまり話すこともなく10分ほどで私はその場を離れることにした。
どちらかというと、私はラルフさんがなぜドワーフを選んだのかが知りたかったかな。私みたいな身長的な理由なのか、それともドワーフが得意な鍛冶師をやりたいとか。もし他のゲームから流れてきたのなら、もう役割分担ができているのかも知れないし、その辺も知りたいね。
まあ、想像ばかりしていても仕方がないので私は先へと急ぐことにした。
別にアルステラの中で先頭を走り続けるつもりなんてさらさらないけど、ナツィオにいてもすることがないから仕様がないよね。
静寂の森に向かって進み、冒険者手帳を次々とクリアしていく。
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 シュール―(3/3)を達成したのです。経験値300を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 フングス(3/3)を達成したのです。経験値100を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 突貫羊(3/3)を達成したのです。経験値100を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 タイニードードー(3/3)を達成したのです。経験値300を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 ガルム(3/3)を達成したのです。経験値300を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」のボーナスポイント 10種類のMOBを討伐するを達成したのです。
経験値ボーナス2,000を入手したのです》
「やったー!!」
結構たいへんだったけど、「旅立ちの草原」をクリアできたから静寂の森への入口近くで、嬉しくなって思わず声を上げてしまった。
また知らない人たちからの視線が集まってきちゃったよ。
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