第25話 出発、グラーノへ
アラーム音が部屋の中で鳴り響いていた。仮眠するため3時間ほどタイマーを掛けて眠ったんだった。
のっそりと動きだし、XRDを装着した私は、こめかみに手をあてて呟く。
「コマンド、アラームオフ」
アラーム音が停止した。視界の中央に表示された00:00:00という文字の上には現在時刻が表示されていて、今が8時を少し過ぎたところであることを教えてくれる。
私は先ず起き上がってカーテンを開け、洗面台に向かった。
普段からメタバースの世界で仕事をし、終わればゲームという生活が多いので化粧なんてほとんどしない。でも、肌自体はお風呂上がりに乾燥したり、皮脂が溜まって汚れたりするので手入れだけはしている。白銀色の長い髪を梳いてしまえばもう今日の準備は完了だ。
トーストとコーヒー、目玉焼き。
そんな簡単な朝食を済ませた私は、30分程度のスピンバイクを済ませ、再びゲーミングチェアの上に横たわった。
アルステラにログインすると、そこはログアウトしたナツィオ村のポータルコアの前。
ゲーム内は朝になったところのようで、既に明るくなっていた。
《おはようございますですよ》
(ナビちゃん、おはよう。何か連絡事項とか、メッセージとか来てない?)
《アオイは友だちが私しかいないので、メッセージは来ていないのですよ》
(あ、そうだったね)
他のゲームだと友だちはいるんだよ。引退して久しいけれど……。
さて、ここからだと職業ギルドや冒険者ギルドのあたりまで人がたくさんいるのが良く見える。
少し離れているが、ローラさんがいるのが見えた。一緒に歩いているメンバーも昨日と変わっていないけど、いつ寝るんだろうね。まあ、私も他人のことは言えないけど。
たぶん、クエストに関する情報もいろいろと出回っているのだろう。流石に建物の下を覗き込んで猫を探している人はいないみたい。クエストについては情報が出回るほど、私の存在は目立たなくなるはずだからありがたいことだよね。
では、予定どおりグラーノに向けて出発するとしましょう。
意気揚々と、でも誰にも見つからないように変な声や音を出さずに私は歩きだした。
町の出口、門の前まで来たところで私はパウロさんに声を掛けた。
「おはようございます」
「ああ、嬢ちゃん。今日も狩りに出かけるのかい?」
「いえ、グラーノに向かうんです」
「そうか、寂しくなるなあ」
「ポータルコアがありますから、またすぐに帰ってきますよ」
「そうかい。じゃあ、いつもと変わらんな。いってらっしゃい」
なんだか、パウルさんの笑顔が眩しい。ますます毎日戻ってきたくなりそうな気がした。本当に町の人たちはいい人ばかりだね。
「はいっ、行ってきます!」
私はパウルさんに手を振って門を出た。本当に、パウルさんが声を掛けてこなければ今の私はなかっただろうし、定期的に戻ってくることにしようと思う。
フィールドに出ると、昨日と比べると人の数は減った気がした。でも、町の中にいる人の数はすごく増えていたから、合計するとすごい数の人がいるんだろうね。
あと、野兎を必死で追いかけている人は間違いなくロビンのクエストをしているんだろうね。
さて、グラーノに向かうにあたり、私は冒険者手帳を開いた。
旅立ちの草原(0/10)
3種達成 経験値ボーナス 300
5種達成 経験値ボーナス 500
10種達成 経験値ボーナス 2,000
・スライム 0/3 未達成 経験値100
・野兎 0/3 未達成 経験値100
・レディバグ 0/3 未達成 経験値100
・ヒュージスキュラス 0/3 未達成 経験値100
・シュルー 0/3 未達成 経験値300
・フングス 0/3 未達成 経験値300
・コエラス 0/3 未達成 経験値300
・突貫羊 0/3 未達成 経験値500
・ガルム 0/3 未達成 経験値500
・タイニードードー 0/3 未達成 経験値500
ナツィオの町と静寂の森の間にある草原は「旅立ちの草原」っていうんだね。初めて知った。それで、この「旅立ちの草原」だけで全部達成すると経験値が5,600も貰えるんだね。それに、それぞれの魔物を倒したときの経験値も入る、と。
《出てくるMOBの強さによっても経験値は変化するのです。旅立ちの草原ページを埋めると、合計6,400前後の経験値が入るのですよ》
(冒険者のピアスの恩恵はあるの?)
《冒険者手帳から得られる経験値にはピアスは影響しないのです》
あら残念。レベルが上がると思ったのに。
《グラーノに行くまでには静寂の森、グラーノ農業地帯があるのです。そこのページも埋めるとレベルは上がるのですよ》
(そ、そうね。うん、とにかく始めるね)
私はナビちゃんとの話を終えて、冒険者手帳にある魔物を探して倒し始めた。特に野兎は臆病なので、私のようにレベル差がある相手だと逃げてしまうんじゃないかって思っていたけど、逃げないんだね。これも認識阻害(弱)のおかげかも。
でもたぶん、私の方が速く動けるから簡単に倒せてしまうけどね。
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 野兎(3/3)を達成したのです。経験値100を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 スライム(3/3)を達成したのです。経験値100を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 レディバグ(3/3)を達成したのです。経験値100を入手したのですよ》
《冒険者手帳のボーナスポイント 3種類のMOBを討伐するを達成したのです。
経験値ボーナス300を入手したのですよ》
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 ヒュージスキュラス(3/3)を達成したのです。経験値100を入手したのですよ》
スライムは何故か冒険者に人気で、みんな一生懸命スライムと戦っているけど……スライムゼリーはここでも取れるのかも知れない。
それじゃあ、タマやネーナに会えないと思うんだけどな。まあいいか、他人事だし。
町に近いところから少し離れると、違う魔物たちが現れる。
遠目にはカピバラにしか見えないコエラスは大きいだけに突進力がある。とはいえ馬鹿正直に正面から受け止める必要なんてまったくないので、軽く躱して背中に飛び乗ってしまえばこちらのもの。
「ギ、ギイッ……」
頭の付け根から戦狼の牙刀を突き立てると、その一撃でポリゴンになって砕け散る。戦狼の牙刀は攻撃力+50というだけあって、かなり戦いが楽になったよ。
《冒険者手帳「旅立ちの草原」 コエラス(3/3)を達成したのです。経験値300を入手したのです》
《冒険者手帳のボーナスポイント 5種類のMOBを討伐するを達成したのです。
経験値ボーナス500を入手したのです。
レベルが上がりました。
レベルが16になったのですよ》
レベルが上がったのは嬉しいけど、冒険者手帳の課題というのもなかなか辛いなあ。同じ場所に固まっているわけじゃないし、場所によっては他の冒険者たちもたくさんいて、魔物の取り合いになりかねないからね。特に目立ちたくない私は他のプレイヤーに見つからないように戦わないといけないから大変なんだよ。
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