第22話 バトルウルフ討伐報酬

 バイタルアラートは他に喉の渇きや、空腹なども対象になっている。

 人間の脳は不思議なもので、メタバースの中で味覚刺激のある食事をすると脳は食事をしたつもりになってしまうんだって。

 初期に開発されたVRMMORPGでは味やのど越しを感じる機能があって、メタバースの中で食事をすると空腹に気が付かなくなるっていう問題がいっぱいあったらしい。その結果、プレイ中に低血糖で意識を失うだとか、脱水症状を起こしてPUTが自動的に救急車を呼びだすとかいう事件も多発したんだよね。

 だからアルステラではゲーム内で水を飲んだり、食事をしてもバイタルアラートは消えないようになっている。たぶん技術的には空腹感を感じるようにXRDがコントロールできるはずなんだけど、そこまでは人間の身体をコントロールしないという不文律のようなものがあるんだろうね。


 私はコップ1杯の水と、チョコレートを1片だけ齧ると再びアルステラの世界へと戻った。


「あ、アオイちゃんじゃない」


 ログイン早々に声を掛けられたので私はビクリと肩を震わせ、声のする方へと顔を向けた。

 そこにはローラさんが両腕を腰に当てて立っていて、仲間らしきヒト族の男性2人と、猫人族の女性が立っていた。


「ああ、ローラさん。クエスト進んでます?」

「うん、今は地図クエストをしてるところなのよ。これ、結構大変よねえ」

「確かに修行感がありますよね」


 ローラさんの足元を見ると、皮のブーツを履いている。最初はサンダル感満載だったから大変だったろうね。でも、エルフで魔法職のようだから私みたいに魔物を蹴飛ばしたりすることはないんだろうね。


「うんうん。で、ここに戻ってきたってことはメインクエストが終ったっていうこと?」

「まあ、そうですね。はい」

「相手はバトルウルフよね?」

「そうですよ、ちょっと私にはきつかったなあ」


 圧倒的に火力が足りていなかったからね。武器が大斧や剣ならまた違ったのだろうとは思うけど。種族的に考えるとやはりナイフがいいと思うんだよね。


「そ、そうなんだ。ソロで倒しちゃうんだね、やっぱり」

「皆さんがレベル9で戦う相手ですからね、私はレベル12でしたから、なんとかなりました」


 知らんけど。


「それで報酬は何だったの?」

「知らないんですよ。メインクエストの報酬はクエスチョンマークが並んでいて、何かわからないんです。ということで、受け取りに行ってきますね」

「あ、うん。よかったらまた教えてね」

「また会えばお話ししますよ」


 そうそう。私はメインクエストの報酬を受け取るために冒険者ギルドに行こうとして、テレポでここに戻ってきたんだった。


「ではまた」と、ローラさんに声を掛けて私は駆けだした。後ろで「はやっ!!」と驚いた声が上がっているが気にしない。確かに話を切り上げるのが早かったかな。


 メインクエストを受けるためには9つのサブクエストを受けないといけないと知ったせいか、町は人で溢れかえっていた。

 建物の下を覗き込んだりしている人たちはステラおばさんの猫を探しているんだろうね。キョロキョロと辺りを見回している人はネーナを探しているのかも知れない。そんな風に思って見ていると、なんだか楽しくなってきた。


 冒険者ギルドに入ると、リジーではない兎人族の女性が受付に立っていた。とても胸が大きくて、キュッと腰が締まっているのが見てわかる。


  名前:コニーリョ

  種族:兎人族

  職業:冒険者ギルド ナツィオ支所職員(受付)


 初めて会う受付嬢なので、私は簡易鑑定したあとに冒険者カードを見せてから話しかける。


「こんばんは、ギルドマスターから受けたクエストの報告に来ました」

「アオイさんですね。リジーから引継ぎを受けています。マスターを呼んできますので少しお待ちくださいね」

「はい、わかりました」


 私は形のいいお尻を振りながら歩くコニーリョの後ろ姿を見送りながら、ひと息ついた。

 と、そこに私のあとから静寂の森を出たはずの商人たちが入ってきた。


「やあ、流石冒険者だ。町に戻るのも早いね」


 声を掛けてきたのはオスカーさんだ。一緒にいた商人たちも後ろに続いている。


「無事到着したのですね。よかったです」

「そりゃ君がバトルウルフを倒して街道を通れるようにしてくれたからだろ。これはそのお礼だ、受け取ってくれ」

《メインクエスト「バトルウルフを討伐せよ!」が進んだのです。

 スカウト装備セットSを入手したのですよ》

「あ、ありがとうございます」

「それと、さっき話していたとおりバトルウルフの牙や爪、毛皮を是非私に売って欲しい。値段の方なんだが」


矢継ぎ早に話を続けるオスカーに向かい、私の背後から少し怒りの籠った声が響く。


「ちょっと待った。オスカーよ、冒険者ギルドの中で直接冒険者から品物を買おうとするのは野暮ってもんだろ」

「む、レオポルドか。確かに冒険者ギルドの中で直接交渉というのはいかんな」

「でも心配したぞ、予定よりも何日も遅れているから町の方も商品が届かなくて困っているという者もいたんだ」

「困っていたのはサビーネだろう? お前の毛生え薬の材料を頼まれているからよくわかる」

「チッ……他にも困っている者はいる。で、やはりバトルウルフか?」

「ああ、でもアオイさんが倒してくれたよ。アオイさん、レオポルドにみせてやってくれ」

「は、はい」


 なんだか2人の様子が険悪な感じで心配になってくる。でも、ドロップアイテムを出さないことには討伐した証拠にならないよね。

 私は、インベントリからバトルウルフの毛皮、爪、牙を取り出し、レオポルドさんにみせた。


「こりゃ、すごい。とんでもない新人がでてきたもんだ」

「だろう?」と言って、オスカーさんがニヤリと笑った。

「ああ、アオイがバトルウルフを倒したことを認めよう。これは報酬だ」


《メインクエスト「バトルウルフを討伐せよ!」を達成しました

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がりました。

 レベルが15になりました。

 スチールダガー(攻撃力+30)を受け取りました。

 グラーノギルド紹介状を受け取りました。

 5,000リーネを入手しました》


 おっと、レベルが上がったよ。さすがメインクエストだね。レベル14から15までポンッと上がるなんて、かなり経験値が入ったんじゃないかな。

 それに、スチールダガーがすごい強そうなんだよね、戦狼の牙刀と比べるとなんか見劣りがするけどね。


〈戦狼の牙刀〉(+攻撃力50)

 戦狼の牙を鍛えて作ったとされる強力な武器。

 攻撃時に5%の確率で敵に毒状態を付与する。


 それでもアイアンダガーより全然いいから、スチールダガーは左手用な感じだね。


「ありがとうございます。この紹介状は?」

「お前さんの強さだとこの町ではこれ以上成長できないはずだ。残念だが、この先はグラーノに行って頑張るといい」


《メインクエスト「グラーノへ進め」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:M.003

  クエスト種別:メインクエスト

  クエスト名:グラーノへ進め

  発注者:レオポルド

  報告先:ゲイル

  内 容:ナツィオの町に現れるMOBでは冒険者としての

      成長が見込めなくなった。

      更なる修行を積むため、グラーノの町に行っ

      てグラーノの冒険者ギルドマスターに紹介状を

      渡そう。

  報 酬:経験値5,000×2 貨幣20,000リーネ 

      スキル書<鑑定>


(もちろん、受けます)

《メインクエスト「グラーノへ進め」を受注したのです。グラーノに行ってギルドマスターのゲイルに紹介状を渡すのですよ》

(グラーノってどんな町?)

《グラーノはナツィオの6倍ほどの面積がある中規模都市なのです。生産職に就くためのギルドがある場所なのですよ》

(でもレベル15になったから、先に職業ギルドに行かないとだね)

《そうなのです。その後に行くといいのですよ》

「そうですね、少し休んでからグラーノには向かいます」

「このドロップ品はどうする。冒険者ギルドを代表して俺がオスカーと交渉してやろうか?」

「そうですね、お願いします。あ、牙1本と爪2本は私が使いますから、それ以外で」

「わかった、では後は任せておいてくれ」

「お願いします」


 素材の相場とか、私には全然わからないので任せるのが一番いいよね。


 ということで、私はバトルウルフの素材の扱いをレオポルドさんに任せ、冒険者ギルドを後にしたのだった。




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