幕間 ある虎人族プレイヤーの1日(4)

 受付は人でいっぱいだったが、プレイヤー同士は触ることができない仕様だから本当に重なって数百人はいるのがわかる。

 流石に声を掛けづらいが、当然のようにツキカゲが受付嬢に声を掛けていた。Kurullin、Riddleも同じように声を掛けている。俺も勇気を出して受付嬢に声を掛けた。


「よう、冒険者登録をお願いしたい」

「こんにちは、冒険者登録ですね。こちらに記入してください」


 出された紙には名前、年齢、誕生日、職業しか書くところがない。

 俺は日本語でキャラクター名である「カケル」と名前欄に書き、年齢は18歳と書いた。実際は20歳だけど、そこは関係ない。職業は今のところファイターだ。


「書いてもらっている間にギルドの説明をしますね。冒険者ギルドはランク制度がありまして、最初は皆さんEランクからのスタートになります。その後、クエストへの貢献度に応じてD、C、B、Aとランクが上がります。ランクが上がれば、様々な特典が受けられますよ。あ、書きあがりましたか?」


 受付嬢は俺の名前を確認し、機械のようなものを取り出した。


「ここに水晶玉がありますよね。ここに手を載せてもらっていいですか」

「こうか?」

「はい、もう結構です。お待たせしました、こちらがEランクのカードです」


 俺が受け取ったカードを矯めつ眇めつ眺めていると、受付嬢が説明を続けた。


「再発行には5,000リーネが必要ですので注意してください。あと、これが冒険者ルールブックです。ランク特典の説明の他に、禁止事項などが掲載されていますので必ず目を通してくださいね。依頼はそこの掲示板に掲載されていますが、直接依頼というかたちで町の人から受けることができます。その際は依頼書兼完了報告を持ってきてくださいね」

「おう、わかったぜ。ありがとよ」

「いえいえ、ルールブックはちゃんと読んでくださいね」

「ああ、大丈夫だ」


 冒険者ギルドで各々が冒険者登録を済ませ、俺たちはポータルコアの登録も済ませた。


『私はテレポートを覚えました』

『私もです』


 RiddleとKurullinが言った。もちろん俺とツキカゲも覚えている。


『最初におぼえるべき魔法ですね。失敗しました』

『本当です。静寂の森から一瞬で帰れたはずです』

『まあ、仕方ねえよ』

『そうですね。でも、30分走るのは疲れます』

『まあ、それも仕方ねえな』


 俺たち4人は職業ギルドへと入った。

 俺はファイターギルドの訓練官のところに行った。訓練官はギルベルトという男性で、俺は1から説明を聞いた。


《職業クエスト「ヘイトを集めろ」を受注しました。訓練官の指示に従い、クエストを完了しましょう》


 ファイターが最初に教えられるのは、対MOB戦闘の基本ともいえる「ヘイト管理」らしい。正しい選択だと思う。


 訓練官が職業ギルドの裏庭に俺を案内した。他にもファイター向けのクエストを受けている人もいるだろうが、なぜか俺ひとりだ。


「私が先にMOBの前に出ますから、私に近づけさせないようにヘイトを取ってください」


 訓練官のギルベルトが言って一歩踏み出すと、草むらから野兎が飛び出した。俺はその野兎を一刀両断してみせた。


「もう一度です。私に近づけさせないようにヘイトを取ってください」

「つまり、自分に引きつけろってことだな。わかったよ」


 ギルベルトが再度一歩踏み出すと、再び草むらから野兎が現れた。既にレベル9の俺がレベル1の野兎に攻撃すると、簡単に殺せてしまう。逆に加減しないといけないのが難しい。

 大斧を野兎の眼前に叩きつければ逃げてしまうし、蹴ったり殴ったりしても大ダメージを与えて逃げられてしまう。

 結局、20回くらい色々とためしてなんとか合格が貰えた。


《経験値75を入手しました。

 ファイターリング(VIT+10)を受け取りました。

 300リーネを入手しました》


 アクセサリを貰えるのはありがたい。俺は早速装備した。


「次は<カバー>を覚えたら来なさい」

「俺はもう<カバー>を覚えているぜ」


 ファイタースキル<カバー>はレベル5で覚えるスキルだからな。


「ではこのまま訓練に入りましょう」

「よろしく頼むぜ」


《職業クエスト「訓練官をかばえ!」を受注しました。訓練官の指示に従い、クエストを完了しましょう》


「これから魔物が私に向かって襲い掛かってきます。私に怪我をさせないよう、魔物から守ってください」

「おう、任せろ」

「では始めますよ」


 ギルベルトが一歩前に出ると、前方からタイニードードが三頭現れた。

 一直線にギルベルトに向かい、攻撃を加えようとしてきた。

 俺はスキル<カバー>を使ってタイニードードとギルベルトの間に入り、タイニードードの攻撃を大斧で防いだ。だが、<カバー>は一瞬だけ素早さに補正がかかるだけだ。一羽が隙間を縫ってギルベルトの脛を嘴で突いた。


「不合格です。もう一度やってください」

「はい」


 既に深夜の4時を過ぎていることもあって、俺の身体も少し鈍っているようだ。気合を入れて、もう一度チャレンジする。


 またギルベルトが一歩前に出ると、タイニードードが三羽現れた。

 俺はギルベルトの前に立ちはだかり、一羽ずつ冷静に処理をしてギルベルトの怪我を防ぐことができた。


「よくできました。次はゲイザーを覚えたら来てください」

《経験値250を入手しました。

 アイアンアックスを受け取りました。

 500リーネを入手しました》

「おう、またよろしくな」


 俺が返事をすると、ギルベルトは1人でギルド室に戻っていった。

 俺は急いで職業ギルドの受付へと戻った。そこには既にツキカゲとKurullin、Riddleが並んで待っていた。


『すまんすまん、最初のレベル1のクエストが思ったよりも難しくて時間がかかってしまった。すまん』

『どう難しかったのです?』


 不思議そうにKurullinがたずねてきた。仕方なく俺はレベル1のクエストを思い出しながら説明した。


『確かにレベル1の野兎のヘイトを集めるのは難しそうだな』

『ああ、もう2度とやりたくないぜ』

『あ、ごめんなさい。バイタルアラートがでたわ。たぶん、空腹ね』

『確かにぶっ通しで7時間近くプレイしているからね、私も少し休憩したい気分だよ』


 KurullinとRiddleが共にバイタルアラートが出ているらしい。

 確かに俺とツキカゲにもそろそろ出てくる頃だろうし、一旦休憩というのも悪くない。


『じゃあ、一時間後に再度合流ってことでいいかな?』


 ツキカゲが提案した。


『おれは問題ない』

『私も問題ないよ』

『当然、私も問題ない』

『では、一時間後にポータルコア前で集合ってことで、休憩しよう。またあとで』


《ツキカゲがログアウトしました》

《Kurullinがログアウトしました》

《Riddleがログアウトしました》


 皆がログアウトを終えたのを確認し、俺も機械精霊に頼んでログアウトを済ませた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る