幕間 配信エルフの1日(4)

 でも、実際に戦いながらこちらにやってきたという印象はない。他のプレイヤーたちが周囲にいる突貫羊やタイニードードと戦っているからかもしれないけど、少なくとも俺が見つけたときは周囲のMOBを気にもしていなかったと思う。


「まあ、戦闘経験は少ないのは間違いないですけど……」

「でもね、私、さっきまでずっとMOBを倒し続けてやっとレベル9よ? 他の人も似たり寄ったりじゃないかしら」


【Maggy'B】「私もレベル9です」

【Jose’R】「私もです」

【にがい棒】「おいらも同じやな」

【Yōushì’X】「森の入口にいる人はみんな同じです」

【添い寝マグロ】「このマゾさが堪らないんだけどな」

 …………


 俺の発言に周囲にいる人たちもうんうんと頷いている。やはり、他のプレイヤーさんたちもレベル9まで上げてきた感じなんだろう。


「そ、そうなんですね……クエストで経験値も貰えますし受けた方がいいですよ」


 アオイさんがどこか気の毒そうな表情で言った。

 とりあえず、この先に進むにはクエストが前提条件ってことは間違いない。再確認を済ませてナツィオの町に戻る方がいい。


「うん、確認だけど、メインクエストを受けるには町で9つのクエストを受けて終わらせる……でいいのね?」

「そうですよ。最初はパウルさんのところから。冒険者ギルドとポータルコア、職業ギルドの登録をするクエストですね。あと、最初の方に受けておくといいのが雑貨屋にいるテオさんの地図更新クエストです」


【マグナム】「地図更新クエスト、なんだかヤバそうな予感」

【添い寝マグロ】「やらなメインクエストが受けられへんのやで」

【Jose’R】「たくさんの人がナツィオの町に向かって走っています」

【George’M】「競争だ!」

【Yōushì’X】「タイニードードとエンカウントしてしまいました」

【Yelena'S】「私も走り出しました」

 …………


(機械精霊、パーティトークモードに変更)

《パーティトークに変更しました》

『みんなも聞いていたと思うけど、メインクエストを受けにナツィオの町に戻るわよ。いいわね』


 機械精霊に頼んでパーティトークに変更し、俺はパーティメンバーに向けて言った。


『了解!』と、ヒロキから返事が返ってくる。

 少し遅れて『もう走り出してるにゃ』と、ミャーコの声がした。タカサンは私のすぐ隣にいて首を縦に振るのみだった。たぶん、眠くなってきているのだろう。


 ついでに現在の視聴者数を確認すると、信じられない数字が目に飛び込んできた。


『わわっ、同時視聴者数が4000万人超えてる!!』

『す、すごいにゃ!』

『おいおい、世界的な歌手のゲリラライブ配信でもそんな数字は出ないだろう』


 私は大きく深呼吸をすると、再びノーマルトークにモードに変え、アオイさんに向かって頭を下げた。


「ありがとう、助かったわ。私たちも町に戻ってクエストを受けてくることにするわ」

「うん、それはいいんだけど……どうしてみんなここにいたの?」

「町でいくつかのクエストは発見されているのよ。でもね、メインクエストだけは始まりがわからなくて、メインクエストを受けてきた人が現れるのを待っていたの」


【Allan'M】「そうです。私も待っていました」

【Robert'T】「ナツィオの町でクエストが見つかっていましたか?」

【山羊おにぎり】「俺もそれ、思った」

【Péngmèi'Y】「鍛冶屋に行くとクエストがあります」

【Grape’J】「店主は武器の買い換えに行くと、投げナイフを売り込んできました」

【John’J】「鳥のふんだらけの家は、掃除のクエストがありそうです」

 …………


 俺が知っているのは、〝griperグライパー〟というSNSに掲載されていた鍛冶屋のクエスト。スカウターやウィザードには投げナイフを、他の職業の場合はその人が装備している武器の上位アイテムを売りつけようとするらしい。それを拒み続けていると、兎の肉を取りに行くクエストが出るというものだ。

 他にも町の中で小奇麗な格好をしている男から、娘を探して欲しいと言われると書いてあった。実際、その先がどうなっているのかまでは報告が上がっていない。


「なるほどね。確かにわかりにくいもんね……」


 と、バツ悪そうに頬を指先で掻き、アオイさんが言った。


「じゃあ、私たちも町に戻るわ。ありがとうね」

「いえいえ」


 最初は私が失礼な話しかけ方をしてしまったせいもあって、アオイさんは不機嫌そうな顔をしていた。でも、こうして礼儀正しく話しているとアオイさんの表情も柔らかくなってきた気がする。

 でも、いつまでもアオイさんと話しているだけというわけにはいかない。

 俺は最後にアオイさんに向かって手を振り、タカサンと一緒に走り出した。


 少し離れたところで振り返ると、アオイさんは他のプレイヤーたちからも感謝の言葉をもらっているようで、まだ動けずにいた。

 とはいえ、メインクエストの情報は提供してくれたのだから、彼女も間もなく解放されるだろう。


 私は配信をしていたことを思い出し、改めて視聴者に向けて話し掛ける。


「と、いうことでナツィオの町に戻ります」


(機械精霊、さっき私が話していたアオイにフレンド申請をお願い)

《会話履歴からハーフリングのアオイにフレンド申請をしました》

《アオイへのフレンド申請が保留されました》

(なっ!!)


【添い寝マグロ】「速攻で保留されてて草」

【にがい棒】「アオイ:ちょっと話しをしたからといって、フレンドとか100年早いわ!」

【Maggy'B】「草は何の草ですか?」

 …………


 いや、別にお話をしたからという意味ではなくて、また質問とかあれば気軽に連絡させて欲しかったわけで。でも、さっきのように一方的に情報だけを抜きとっていたらさすがにアオイさんも不機嫌になるよね。

 せめて、P2Pトークで許可をとってからにすればよかった。


 でもまあ、町に戻ればまたお話する機会もあるでしょう。

 俺はそのときに一縷の望みをかけ、再びフレンド申請をすることを誓ったのだった。





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