幕間 配信エルフの1日(3)
【添い寝マグロ】「口調が完璧なおっさんで草」
【肋骨戦士】「確かに」
配信コメントは見えているものの、俺には全く対応する余裕がなかった。
とにかくあのチュートリアル応用編は難しすぎる。ネットを見ても誰もクリアしたという報告がないし、俺も20回チャレンジして30%もクリアできずに諦めた。
ここで俺の言葉が途切れたせいか、他の人たちから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「あのクエストを終わらせたのかよ。すげえな」
「その報酬がそのスカートなの?」
「男物はどんなのか知ってるか?」
…………
アオイさんがものすごく困惑した顔をしている。たぶん、同時に何人もの人に質問されて答えられなくなっているんだろう。
アルステラはサービス開始前の予約購入者数が1億を超えたというし、完全オープンワールドなのだから、この静寂の森入口に集まっているプレイヤーだけでも数千万人を超えている可能性がある。
【Maggy'B】「ローザさん、主導権を奪われますよ」
【Grape’J】「困り眉も可愛らしい」
【Maria'P】「がんばって」
…………
確かにこのままでは収拾がつかないし、最初に声を掛けた俺が代表して質問しないといけない気がする。
(機械精霊、次の発言だけシャウトモードで)
《了解しました》
俺は周囲に聞こえるよう、発言モードを変更した。
「待って! ちょっと待って! 私が話してるんだからあんたたちは黙ってなさいよ。代表して質問してあげるから」
俺のシャウトに周囲の人たちも渋々といった感じで黙り込んだ。少なくとも静寂の森、入口あたりにいる全プレイヤーに聞こえる程度の声になっているはず。
翻訳機能があるから言葉の壁はあまりないけれど、文化の違いや宗教による考え方、価値観の違いのようなものはある。だから、その差を埋めるためのマナーのようなものは存在していて、「人の話に無理に割り込まない」というルールがある。争いごとを防ぐための先人たちの知恵だ。たぶん、議論好きなフランス人はイライラしていることだろう。
逆にこのまま俺が話をするのを諦めたら、アオイさんはずっと質問攻めにあっていたに違いない。
「とりあえず知りたいのは装備のこと。他の装備はどうしたの?」
「グローブとかこの胸当てとかですか?」
「ええそうよ」
私とパーティメンバーは全員がそれぞれの初期装備、つまり民族衣装を着ている。でも、アオイさんが着ているのは明らかに民族衣装ではない。
いかにも冒険者といった感じの衣装で、それが妙に似合っていて可愛らしい。
【Maria'P】「この装備は私も欲しいです」
【Yelena's】「このハーフリングにとても似合っています」
【にがい棒】「ハーフリング、かわよー」
…………
視界の端に見える同時視聴数のカウンターがいきなり上がり始めた。今までに見たことのない速度で数字の桁が増えてきて、既に同時視聴者数が100万人を超えている。
「ナツィオの町で受けるクエストがあって、それで貰いました。あと、このナイフは職業ギルドのクエストですね。クエストやっていれば、いろいろともらえますよ」
「そうなのね。正式版からクエストが実装されたのは知っていたけど、町にいろいろあるのね。あと、メインクエストはどこで受けるのかしら?」
【Yōushì’X】「一番知りたかった情報!」
【George’M】「このハーフリング、可愛すぎる!!」
【Yelena'S】「情報垂れ流しチャンネルってこちらですか?」
…………
視界の端に見える、視聴者数の数がどんどん上がっていく。既に400万人を突破した。さっき64,564人まで減っていたのに、今この瞬間、チャンネル登録者数を大幅に超えて、まだ増えていく!!
「最初に門番のパウルさんと話をすることですね。それから冒険者ギルドで登録すること。町ではクエストを9個受けられるから、それを全部終わらせてください。すると、ギルド長が特別にDランクにしてくれます。Dランクになると、メインクエストが受けられますよ」
「マジかあ……」
【にがい棒】「ローラ姉さん、言葉づかいが……」
【ツナマヨ】「地が出てて草」
【マグナム】「視聴者数がすごいことに」
【添い寝マグロ】「ほんまや、1000万人超え!」
【Grape’J】「登録者数も300万を超えています」
【ツナマヨ】「すごい! おめでとう!」
あ、また素の自分が出てしまった。外国の人たちには上手く別の言葉で伝えられているせいか、誤魔化せているみたいだ。
結局、町にまで戻らないといけないんだ、そう思うと気が抜けたというか、ついこういう反応になってしまう。
アオイさんが気の毒そうに俺の顔をのぞき込んでたずねる。
「テレポは覚えてます?」
「テレポ?」
聞いたことはあるけれど、このゲームではなかったはず。
「ええ、テレポ。ナツィオの町の広場にあるポータルコアを登録すると、フィールドや他の町から一瞬で移動できるんですよ」
「え、そんなのあるの?」
アオイちゃんが話すたびに、チャンネル登録者数もガンガン増えている感じだね。すっごく有難い。
【肋骨戦士】「テレポ、だと!?」
【Allan'M】「どちらにしても今は走って戻るしかない」
【にがい棒】「ポカーンとしてて草」
…………
ベータテストの時は帰還魔法や帰還スキルのようなものはなくて、死に戻りするか、走って戻るしかなかった。だから今回もそうだろうと思いこんでいた。
「あります」
「マジかあ……」
テレポを覚えてからここに来ればよかったと、心の底から思った瞬間だった。
【にがい棒】「く、口調が……」
【添い寝マグロ】「完璧に地が出てますやん」
【ツナマヨ】「まあ、女子でも『マジかあ』くらいは使うやろ」
【添い寝マグロ】「いや、声が太い」
【ツナマヨ】「確かに……」
【George’M】「言葉の後ろに草をつけるのはどういう意味ですか?」
…………
まあ、俺としてはリアルの性別が男女のどちらかを明言してこなかっただけのこと。別にVRアイドルじゃないから、視聴者がローラの中身を男性と思っているか、女性と思っているかとかどうでもいいことなんだけどね。ただ、女性エルフのロールプレイという意味では明らかに失敗だ。
「マジですよ」
「あんた、いや、アオイさん。レベルいくつ?」
「私は今、13ですね」
「えええ、クエストしかしていないのに?」
「失礼なっ! 多少はフィールド出て野兎を倒したりしましたよ?」
【ツナマヨ】「確かに失礼すぎる」
【Yōushì’X】「クエストをやればレベル12になれるのですか?」
【Péngmèi'Y】「それは違うと思います」
【Jose'R】「一般的なゲームだと、クエストで得られる経験値は半分くらいだと思う」
【Yelena'S】「クエストで経験値の半分くらい、底上げされるなら悪くない」
…………
確かにクエストしかしていないかどうかは知らないからね。ちょっと言いすぎたかもね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます